うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第90話 また会おう

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 ゴドール地方領主就任の統括官への報告が済み、主だった腹心達全員が領主となってグラベンの街へ赴く俺に付いて来てくれるという嬉しい確認も出来た。

 実際にグラベンに行くまでは、こちらでの業務引き継ぎや申し送りなどやる事が多いので結構大忙しだった。当然グラベン側でも俺の受け入れ準備が必要なので、その準備が整ったという向こうからの連絡を待っている状況なのだ。

 そして俺が今まで役割を果たしてきた第二部隊長の後任だが、レイモン統括官に推薦した第一部隊副隊長のエドモンさんが正式に俺の後釜の部隊長になるのが決定した。何を隠そうこの人は賊徒の青巾賊がコウトの街に襲来した時に、街の交渉役を装って見事に賊徒達を騙した演技派の人物だ。当時、俺の無茶振りにも近い協力要請に快く応じてくれたように人柄もここぞという時の度胸も申し分ない。たぶん俺よりも良い部隊長になると思う。

 ところで、領主とは言ってもどこかの国に所属するのではないので、俺は貴族になる訳でもなく、どこにも所属しない独立勢力という位置付けになる。国と呼ぶには地域が小さくて限定されるのであえて独立勢力と位置付けている。俺が治める予定のゴドール地方。そしてコウトやサゴイのあるアロイン地方も似たようなものだ。将来どうなるかは俺達の働き次第ってところだな。

 旧キルト王国時代でも王都からは離れた場所だったので、中央からの圧迫も少なく自由にやれる部分が多かったのも、俺みたいな者がいきなり領主になれるという土台や土地柄を生んでるのではないだろうか。

「ほら、今度はこっちの服に着替えて」

「わかったよ、この服でいいのか?」

 色々と小難しい事柄を考えていた俺だが、現実の俺はリタ達に連れられて街の服屋で服を購入中だ。さっきから着せ替え人形のようにあれやこれやと服を着替えさせられている。それというのも一応領主になるのだから、それっぽい服は多めに持っておきなさいという理由からだ。俺も道理に適っていると思います。

「満足いく買い物が出来ましたね。エリオさんは見た目の素材が良いので服の選び甲斐があります」

 シックな感じの服選びはミリアムの得意分野だ。最近思うのだが、リタとミリアムって綺麗で頭も良くて、秘書官としても有能だし俺よりも万能なんじゃないかと思うよ。そして服選びも終わり、今日予定していた最大のノルマをこなしたのでやっと俺は自由の身になれそうだ。自由万歳。


 ◇◇◇


「エリオ君、とうとう出発の日が来たね」

「ええ、短い間でしたが統括官にはお世話になりました。グラベンとコウトは隣同士ですから、何だかんだで会う機会が結構あるでしょう。これが最後の別れになる訳じゃないので今後ともよろしくです」

「確かにそうだ。陸上で繋がる街道も河を利用した航路もあるからね。グラベンに行こうと思えばコウトからはすぐに行ける距離だ。そう言われて見ると、君の赴任地がちょっと遠くなっただけのように感じるから不思議なものだよ」

「エリオ殿、私を第二部隊長に推薦して頂いたと統括官に聞きました。ありがとうございます。エリオ殿の後任として恥ずかしくないように頑張るつもりです。さすがに私にはエリオ殿みたいなカリスマと武力はないけどね」

「エドモンさんに任せるのが一番良いと思っただけですよ。あと、エドモンさんは謙遜してるけど、俺の目から見てもエドモンさんは立派な人物ですし、俺の後を任せるにはこれ以上の人材はないと思っています。お互いに頑張りましょう」

 既に第二部隊長の引き継ぎは終わっていて今はエドモンさんが第二部隊長だ。タインさんの陰に隠れがちだが、この人は統率力もあるし武力もあるんだよね。

「エリオ君。第一部隊長の私からもエドモンを推薦してくれたお礼を言わせてもらうよ。君がゴドールの領主になると聞いて最初は驚いたけど、君にはそれだけの器と能力があると私は思ってるしもっともっと大きく羽ばたいて私を驚かせてくれ」

「タインさん、俺も自分で驚いてますよ。タインさんこそ俺に負けずに羽ばたいてくださいよ。賊徒がコウトに押し寄せて来た時にタインさんは俺の策を支持してくれました。あれがなかったらどうなっていたかわかりませんでしたよ。改めて言いますがとても感謝しています」

「君の策は私も直感が働いて面白いと思ったからね。結果的に青巾賊を相手に大勝利となったのであの時は君の策を支持して大正解だったよ」

 タインさんは結構切れ者だし懐の深さも持っている。やっぱり上に立つ人の資質を備えてるよな。

「エリオ殿、そろそろ時間ですぞ」

 ラモンさんが俺を呼びに来た。もうそんな時間か。そろそろコウトの街を出発する時間が来たようだ。この街は俺がゴドールの領主になるきっかけをくれた街だから感慨深い。住んでいた借家の解約も済ませ、花壇に植えていた草花は根っこごと静かに引き抜いて持ち出してきた。向こうに着いたらすぐに植え替えないとな。

 コウトからグラベンへの道中は船便を利用する予定だ。その船便の出航の時間が迫ってきている。

「それでは皆さんお元気で。また会いましょう」

「「「また会おう」」」

 俺達の挨拶はさよならじゃなくてまた会おうだった。
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