うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

文字の大きさ
103 / 171

第103話 定例会議と自己紹介

しおりを挟む
 ゴドールでは主だった者達を集めて定期的に定例会議が行われている。

 それは内政や外交、そして軍事などの情報を各々が持ち寄り共有してこの先のゴドールの方針を決めていく為だ。最終決定権は領主の俺にあるが、配下から幅広い意見や情報を聞きながら話し合うのは必要だからな。良い意見や提案は取り入れていくつもりだ。

 内政部門はゴドール地方の商工業や林業農業を担当していて、問題点があれば知恵を出し合い改善や改革をしながらこの地域を発展させる方針を定めていく。治水や灌漑による農作物の収穫量アップや品種改良なども内政部門の担当だ。

 一方、外交と軍事も緊密な連携を取りながら両輪でゴドールの安定に欠かせないものだ。この地域が発展を続けていく上でも、外交力や軍事力という後ろ盾がなければどんなに金を持っていても他に付け入る隙を与えてしまう。ただでさえキルト王国が崩壊して各地が不安定な状況では力でもって何とか自衛するしかない。

 以前のゴドール地方はこれといった特徴もなく平凡以下の全く旨味がない地域だった。財政状況は常に綱渡りで、前の領主のようにこの地域の発展を考える事もなく、自分の事しか考えないようでは住民のやる気も忠誠心も上がるはずがない。その結果、住民達から追放という形でゴドールから追い出されたのだ。

 その後、成り行きで俺という人間がこのゴドール地方を治める事になり、たまたま運が良かったのか、それとも運命の定めなのかわからないが、ゴドール金山という宝の山を引き当てて一気にこの周辺地域では極めて大きな力を持つようになった。今や同盟を組んでいるコウトやサゴイの街があるアロイン地方よりも、ゴドール地方の方に断然勢いがあると言っても過言ではないだろう。

 ただ、そうは言っても俺が統治しているゴドール地方は土地が豊かで大きいとはいえない。コウトやサゴイのあるアロイン地方もゴドールと似たりよったりの大きさでしかない。金山というブースト効果のおかげで発展をしているが、地力をもっとつけるには足りないものがまだまだあると言えるだろう。

 たまにコウトやサゴイに行く機会を設けてそれぞれの地で話し合いなどを行っているが、サゴイのロイズさんなどはおまえさんの好きにやれば良いと言って技術も知恵も惜しみなく教えてもらい全面的に協力をしてくれるので本当にありがたい。まるで父親のように親身になってくれるのだ。

「それでは皆様が集まったようなので定例会議を開催します」

 進行役のブラント内政官が定例会議の始まりを宣言したので、それを受けて俺は集まった配下達に言葉をかけてやる。

「皆、忙しい中集まってもらってありがとう。これから定例会議を開くが皆の率直で自由な意見を聞かせてくれ。新しく加わった者もこの会議では俺に遠慮なんていらないからな」

「兄者、まずは奥方様達のご懐妊おめでとうございます」

「「「おめでとうございます」」」

「ハハ、皆ありがとう」

「生まれた子は兄者の跡継ぎになりますからな。それがしも今から楽しみですぞ」
「そうだぜエリオの兄貴。生まれたらおいらが抱き上げて高い高いしてやるよ」

「それはいいけど落とさないでくれよ」

「任せとけって、大事な兄貴の子供を落とすもんかい」

 皆が俺の妻達の懐妊を祝ってくれるのは素直に嬉しい。苦楽を共にしてきた仲間だからこそ、お世辞ではなくその言葉には真実味が溢れているのを実感する。

「さて、そろそろ本題に移ろうか。ブラント内政官からゴドール地方の状況を報告してくれ」

「はい、まず今年の作物の収穫予想ですが天候も良かったので概ね豊作になる予定です。穀物を主体とする食料の備蓄量はカレル殿の働きもあり、他の場所からの買い入れが順調で現時点でも一年弱分程度の量を確保しておりますので、収穫が始まれば軽く一年分以上になるものと見込まれます」

「そうか、順調に備蓄が進んでるようでそれは心強い」

 食料の備蓄は戦略的な意味合いもある。飢饉が起きた場合に備蓄分から放出すれば民も飢えずに済むし、それだけでなく諍いや戦いが起きた時の軍の兵糧としての側面も持ち合わせている。俺の予想ではそのうち何かが起きると思っているので最優先で食料の備蓄を指示していたのだ。

「次にゴドール金山の産出も順調で、コル鉱脈とマナ鉱脈の採掘は事故もなく滞りなく進められております。それとグラベンの街の人口が大幅に増えたので、街の拡大も計画通りに進められており現在は二区画ほどが完成致しました。建築資材も不足なく供給されていて、作業人員も今のところ不足はございません」

「鍛冶関係はどうだ?」

「はい、周辺地域だけでなく商人を介して広い範囲で鍛冶職人も募集をかけたおかげで多くの優秀な人材が集まり、エリオ様に指示されたように武器関係から農具や日用品まで幅広く大量に不足なく生産されております。武具を除く農具や日用品は他の地域に売る事によってゴドールの住民の収入源になっております。おかげさまで住民の生活レベルも上昇を続けている次第です」

「ブラント内政官、報告ご苦労。次は軍関係だな」

「兄者、それはそれがしから報告させていただきます」

「わかった、カウンさん頼むよ」

「軍の人員もコツコツと増やしています。幸いな事に豊富な資金がありますので優秀な人材の登用や採用が上手くいきました。他の地域で職を失った、もしくは自らの意志で職を離れた武人達が兄者の名声やゴドール地方の発展の噂を聞き、わざわざこの地を訪れ仕官して来た者が多数いたのもその理由です。本日の会議からこの場にもおりますが、その中には他の地域で役職に付いていた者や豪の者もおり、着実に我が戦力の底上げが出来ています。それがしからの報告は以上です。その他の細かい報告は資料にして配ったものに書いておきました」

「カウン将軍、報告ご苦労。それでは本日から会議に参加するようになった者達は皆の前で自己紹介をしてくれ」

 この会議に招集された者の中には、初めて会議に参加した者がいる。古参との顔合わせもこの会議の目的の一つだ。そして、本日の会議に初参加したのは三人。いずれも有能な人材だ。まず最初に体つきのガッチリした白髪混じりの男が前に進み出て自己紹介を始めた。

「わしの名はジゲルと申す。エリオ様に仕える前は北方にある小さな国ですが将軍の職を拝命しておりました。だが、若返り政策とやらで職を解かれてしまい隠居を命じられてしまいました。だが、まだ第一線で活躍出来る自信がありますので一念発起して国を出てあちこちを巡っていたところここに辿り着きました。エリオ様自らわしの実力をお認めになってくれたおかげでこうして皆の末席に連なる事が出来て感謝しておるところです。どうかよろしく頼み申します」

 このジゲルという人物は統率力が極めて優れていて軍の運用能力が高い。これまでの経験も持っているしまだまだ十分に活躍出来る人物だ。

 次に皆の前に出てきたのは年若い男だ。外見は普通だがこの男は知勇兼ね備えた優秀な掘り出し物だ。タイプ的にはラモンさんに似てるかな。

「えーと、皆さん。私の名前はロメイと言います。このゴドール地方の噂を聞いて面白そうだなと思って仕官しました。いざこの地に来てみたら想像以上に面白そうでやる気に溢れています。エリオ様の力になれるように一生懸命補佐していきたいと思っていますのでどうかよろしくです」

 この飄々とした感じ、ふざけてるように思われがちだが結構憎めない奴なんだ。さあ、次は紅一点の存在の女性の登場だ。白を基調とした服に白銀の軽鎧を身に付けリタやミリアムに勝るとも劣らない美貌の持ち主だが、本人の性格がサバサバとしているので必要以上に女だと意識しなくて済むという珍しい存在だ。髪はショートヘアで金髪だ。

「ここに集いし諸君達。私は縁あってこのゴドールを治めるエリオ様の幕下に属する事になったルネです。エリオ様をひと目見て私がお仕えするに相応しい人物だとその場ですぐに決めました。おかげさまでエリオ様にお認め頂きこの場に来る事が出来ました。非才の身ではありますがどうか皆さまよろしく頼みます」

 このルネという女性は自分を卑下しているが実は相当な実力を持っている。ここに来る以前はキルト王国を編成していた地方の領で、この若さで女ながらに一つの軍を任されていたという経歴の持ち主だ。だが、代替わりして後を受け継いだ領主が自分の事しか考えない人物だったのでその領主を見限り自ら職を辞したそうだ。

 そして、その後はギルドなどの仕事を受けながら風の噂で聞いた俺の元に来て仕官をしてきたという流れだ。ルネの凄いのはその美貌だけでなく、武力もカウンさんに引けをとらない強さというところだ。剣技と動きの速さが際立っていて試しにカウンさんと模擬戦をしたら、あのカウンさんが押されてたくらいだからな。何かの称号を持っているらしく、こんな素晴らしい人材が仕官してくれて本当に嬉しいぞ。

「この三名が本日から会議に加わる事になった。皆よろしく頼むぞ」

 新しい人材の自己紹介が終わり、次は休憩を挟んで情報交換だな。少し執務室に戻ってコルとマナ相手にモフ分補給でもしてこよう。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...