うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

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第168話 晩餐会の最後に訪問団からの願い事

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 ロイズさん達の訪問団がここグラベンの街に到着して出迎えの儀が終わり、その後なぜかロイズさんの息子さんであるギダンさんとの手合わせをする羽目になった。

 いつものお約束という感じで俺も手合わせの提案を承諾して、領主館の庭で妻や子供にコルやマナの見守る前で、ギダンさんを一撃でふっ飛ばして手合わせは無事に終了した。

 さて、今日の残りの予定は夜に迎賓館で開催される訪問団歓迎晩餐会だ。この晩餐会では俺と俺の妻や子供達と、相棒のコルとマナも当然出席する。それに役職ではなく俺の親族としてラモンさんとロドリゴも出席予定だ。

「リタ、ミリアム。夜の歓迎晩餐会もよろしくな」

「わかったよ。久しぶりにおめかし出来るからあたしも楽しみだよ」
「エリオさん、子供達も人見知りしないのできっと大丈夫ですよ」

 子供は何よりも食い気だからな。どうせ食後はレオもエマも飽きて眠くなるだろうから子供付きの使用人に頼んで早めに部屋に下がらせよう。

 公式な訪問団ではあるが、今夜の歓迎晩餐会は俺個人の私的なもてなしの扱いになっている。モネコ地方の領主のトガイ殿が親睦目的の訪問団に加わっていたのは予想外だったが、お互いに友誼を結び親睦を深める為に晩餐会でざっくばらんに話し合いたいものだ。コルとマナも同席して接待してもらうので訪問団もあの可愛らしさと毛並みに誰もが癒やされるだろう。

『コル、マナ。晩餐会では嫌な役割を引き受けてもらうが申し訳ない』

『主様、気にしないでください。僕はどんな役割であれ主様の力になれるのが嬉しいんです』
『エリオ様、私もです。それに私達はエリオ様の為になるのなら嫌なことなどありません』

 本当にコルとマナは良く出来た子達だ。主としても家族としても感謝の気持ちでいっぱいだよ。

 ◇◇◇

 日が落ちて辺りが徐々に夜の暗さに包まれていく。そろそろ迎賓館で訪問団の人達をもてなす歓迎晩餐会の時間だ。俺と友好関係にある地域の人達が大勢集まり親睦を深めるだけでなく、それとなくこの地域全体の将来を話し合う場でもあるのだ。俺の治める地域は定期的に定例会議を開催しているが、それの広域版というところかな。

「皆さん、お待たせしました。ようこそグラベンの街へ」

 使用人に扉を開けてもらって迎賓館内の晩餐会会場に家族達を伴って入室した俺は、先触れが俺の到着を伝え部屋の中で待っていてくれた訪問団のメンバー達に、まず一言として待たせた事に対する言葉をかけた。すると俺の言葉に答えるように訪問団を代表してロイズさんが口を開く。

「エリオット殿。この度は大勢での訪問に関わらず、このように迎賓館で盛大に歓迎してくださりまことにありがとう。それと、到着した際にも祝意として述べたが、ザイード家との戦いの勝利及びにクライス地方の平定によって統治する土地が拡大されたのはまことに目出度い。心からお祝い申し上げる」

「ありがとうございます。皆さんはこのゴドールと俺にとって大事な方々でもあり大切な友人でもあります。正式な訪問団を迎えるにあたり、迎賓館で盛大におもてなしをするのは当たり前の事です。今日はガウディ家が誇る料理人達が腕によりをかけて美味しい食事を用意しましたので是非とも堪能して頂きたいと思います。それとクライス地方獲得についての祝意もありがとうございます。成り行きとはいえガウディ家が領土拡大を遂げる結果になりました。これも同盟するコウトやサゴイの街の協力があってこそです。こちらからも感謝の意を申し上げたいと思います。いつも支援協力してくださりありがとうございます」

 これは俺の本当の気持ちだ。俺が落ちこぼれから飛躍するきっかけをくれたロイズさん。部隊長として採用され、青巾賊討伐など自身の名声を大きく上げる機会を得たコウトの街と俺を信頼して関わってくれた人達など……ここに来た訪問団の人達は恩人や頼れる人ばかりだ。

「皆さん、俺の挨拶ばかりが長くなるとせっかくの料理が冷めてしまいますのでここらへんにしておきましょう。どうぞ今宵の晩餐会を楽しんでください」

 そして、俺が会場の扉のそばに控えている使用人に合図を送ると、その使用人が扉を開けて向こうの部屋から晩餐会用の料理がメイド姿の給仕達によって運ばれてきた。まずは食前酒と前菜だな。

 その後、スープが出た後に魚介や肉を用いたメインデッシュが出され、そのどれもが美味しくて訪問団の皆さんも舌鼓を打ちながら堪能して喜んでくれた。

 さすがは迎賓館付きの料理人達だ。俺も満足したし後でこっそりポケットマネーから特別手当を出してあげよう。

「皆さん、今宵の料理に満足して頂けましたか?」

 食後に出された紅茶を飲みながら俺は訪問団の人達を見回しながら聞いてみた。するとロイズさんが周りを見渡した後、訪問団の感想を代表するように料理への賛辞を口にした。

「わしが皆を代表して答えよう。出てくる料理はとても素晴らしいものばかりで最初から最後まで十分に堪能させてもらった。品が良い中にも遊び心が隠れていたり、あっと思わせる工夫がそこかしこに見られて趣向の面白さを感じた。勿論、味も文句のつけようがなく美味であったよ」

「ありがとうございます。その言葉を聞いた料理人達はきっと大喜びするでしょう」

「なんのなんの、わしの正直な感想を述べたまでじゃ。ところで、食事も終わった事だし明日の正式な会談前に、我らが今回訪問団を結成してエリオット殿を訪問した真の目的を話しておこう」

「訪問団の……真の目的ですか?」

 ロイズさんが言い出した真の目的とは何だろうか。俺の認識では今回の訪問団はクライス地方獲得のお祝いと、久しぶりに周辺地域の友人達が一堂に会して親睦を深めるのが目的のはずだが。少し考えてみたが、事前の情報でもそういう話はなかったし材料が少なすぎてわからないな。

「うむ、これは訪問団の総意としてエリオット殿への願い事だ。この願い事はモネコ地方の領主のトガイ・ダシン殿、コウトの街のレイモン、そして誰よりもこのロイズ・ガルニエが望んでいる願い事なのじゃ」

「改めて聞きますが。訪問団の総意という事は…モネコ地方のトガイ殿も含めてですよね?」

「そうです。私もその願いを望んでいます」

「それで、ロイズさん。その俺への願い事とは何ですか?」

 ロイズさんが俺の目に視線を合わして真剣な表情になる。晩餐会の会場内に居る訪問団全員も厳粛な顔をしながら俺を見つめてきた。ふむ、この俺への願い事は訪問団全員の知るところであり事前に打ち合わせて決まっていた願い事なんだろうな。さて、真剣な表情で俺を見つめるロイズさんから聞かされる願い事はどんなものなのだろうか?

「単刀直入に言おう。エリオット殿、この場に集まった我ら全てを傘下にして国を興して欲しいのじゃ!」

「お、俺に国を興せって!」

 なんと、ロイズさん達訪問団の真の目的とは俺に国を興してもらい、自分達をその傘下に入れてくれというものだった。
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