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Case.03【盛夏の潮騒】
day1─夏の訪れと、優雅な花─
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蝉の声が、校舎の外壁を震わせていた。
白く光る夏の陽射し。窓から差し込む風が、優しく頬を撫でる。
「ねぇねぇ、もう直ぐ夏休みじゃん。海行かない?」
昼休みの教室。机を寄せ合って弁当を広げる三人の少女のうち、黒い三つ編みの京香が、眼鏡の奥をきらりと光らせながら切り出した。
「海?」
「そう、海水浴! 去年、いとこが行ったって言ってた海水浴場、すっごく綺麗なんだって!」
「ふーん……でも、暑いだけじゃない?」と絢葉が箸を止める。
「なにそれ、若者らしくない!」と文子が口を挟む。
茶髪のボブを揺らしながら、快活な笑みを浮かべる文子。
「夏といえば海! 絢葉も水着くらい持ってるでしょ?」
「うーん、去年ので入るかな……」
「大丈夫大丈夫! 一緒に買いに行こ!」
京香の目が、完全に“バカンスモード”で輝いている。
「……まぁ、海くらいならいいけど」
「やった!」
二人の声が重なり、教室の窓の外で風鈴が鳴った。
────
放課後。
日が傾き始めた廊下を抜け、絢葉は優雅部の部室へ向かっていた。
涼しい風が通り抜ける部屋の中には、誰の姿もない。
「……あれ? 呉宮先輩、いない」
机の上にはいつものティーセット。まだ少しだけ温もりが残っている。
ふと、窓の外を覗くと、花壇の前に見慣れた背中があった。
白いシャツの袖をまくり、ジョウロを傾ける姿。
傾いた陽に髪が金色に透ける。
史桜だった。
花壇には見事な花々が並び、どれもよく手入れされている。
彼は水をやり終えると、ふっと微笑んで言った。
「実に優雅に咲いてくれたね」
その言葉はまるで、誰かに語りかけるようだった。
(なんかこの人、何してても絵になるな……)
絢葉は思わず苦笑しながら窓を開ける。
「先輩、部室に戻らないんですか?」
「ん? ああ、東雲君か。すまないね、つい見惚れていたよ」
「……自分の育てた花に、ですか」
「そうとも。命あるものが懸命に咲く姿ほど、優雅なものはない」
その言葉は、あまりに真っ直ぐすぎて少し照れくさかった。
「そういえば、夏休みに友達と海に行こうって話になって」
「海?」
「はい。京香と文子が、海水浴行こうって」
「いいじゃないか。青春の香りがする」
「そういう言い方されると、なんか気恥ずかしいです……」
史桜はくすりと笑い、ジョウロを置いた。
「女子ばかりでは何かと不安もあるだろう。奏汰を連れていくといい」
「え、天野先輩を?」
「彼なら、きっと役に立つよ。何より、護衛としてもね」
「……先輩、また勝手に決めてません?」
「優雅な休日には、優雅な護衛が必要なんだ。……まぁ、勿論無理にとは言わない。女子だけでの方が楽しめるだろうしね」
絢葉は少し考える。中学生の頃、同じように海に遊びに行って、しつこくナンパされて少し危ない目に遭った事を思い返し、
「……お願いしようかな。どうせなら、呉宮先輩も一緒にどうです?」
「嬉しい申し出だが、私は遠慮しておこう。夏休み中は忙しくなりそうでね」
(自分は断るのに、天野先輩の同行は勝手に決めるんだ……)
相変わらずの史桜の調子に、絢葉は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
────
夜。
自室の窓を開け放つと、夏の湿った風がカーテンを揺らした。
遠くで花火が上がる音がする。
布団に寝転がった絢葉のスマホが震えた。
【おい、なんだ海水浴って。なんだそれ。え? マジでオレも行くのか?】
奏汰からのメッセージだった。
絢葉は思わずため息をついた。
【ごめんなさい。ご迷惑なら断って頂いても】
【別に良いよ。断った方がめんどいことになりそうだし】
(……どういうことだろ? でも、来てくれるなら助かるかも)
スマホを置いて、窓の外を見上げた。
カーテンの隙間から覗く夜空には、夏の星々が滲んでいる。
若き学生たちが待ち望む夏休みは、もう指先で掴めそうなところまで来ていた。
白く光る夏の陽射し。窓から差し込む風が、優しく頬を撫でる。
「ねぇねぇ、もう直ぐ夏休みじゃん。海行かない?」
昼休みの教室。机を寄せ合って弁当を広げる三人の少女のうち、黒い三つ編みの京香が、眼鏡の奥をきらりと光らせながら切り出した。
「海?」
「そう、海水浴! 去年、いとこが行ったって言ってた海水浴場、すっごく綺麗なんだって!」
「ふーん……でも、暑いだけじゃない?」と絢葉が箸を止める。
「なにそれ、若者らしくない!」と文子が口を挟む。
茶髪のボブを揺らしながら、快活な笑みを浮かべる文子。
「夏といえば海! 絢葉も水着くらい持ってるでしょ?」
「うーん、去年ので入るかな……」
「大丈夫大丈夫! 一緒に買いに行こ!」
京香の目が、完全に“バカンスモード”で輝いている。
「……まぁ、海くらいならいいけど」
「やった!」
二人の声が重なり、教室の窓の外で風鈴が鳴った。
────
放課後。
日が傾き始めた廊下を抜け、絢葉は優雅部の部室へ向かっていた。
涼しい風が通り抜ける部屋の中には、誰の姿もない。
「……あれ? 呉宮先輩、いない」
机の上にはいつものティーセット。まだ少しだけ温もりが残っている。
ふと、窓の外を覗くと、花壇の前に見慣れた背中があった。
白いシャツの袖をまくり、ジョウロを傾ける姿。
傾いた陽に髪が金色に透ける。
史桜だった。
花壇には見事な花々が並び、どれもよく手入れされている。
彼は水をやり終えると、ふっと微笑んで言った。
「実に優雅に咲いてくれたね」
その言葉はまるで、誰かに語りかけるようだった。
(なんかこの人、何してても絵になるな……)
絢葉は思わず苦笑しながら窓を開ける。
「先輩、部室に戻らないんですか?」
「ん? ああ、東雲君か。すまないね、つい見惚れていたよ」
「……自分の育てた花に、ですか」
「そうとも。命あるものが懸命に咲く姿ほど、優雅なものはない」
その言葉は、あまりに真っ直ぐすぎて少し照れくさかった。
「そういえば、夏休みに友達と海に行こうって話になって」
「海?」
「はい。京香と文子が、海水浴行こうって」
「いいじゃないか。青春の香りがする」
「そういう言い方されると、なんか気恥ずかしいです……」
史桜はくすりと笑い、ジョウロを置いた。
「女子ばかりでは何かと不安もあるだろう。奏汰を連れていくといい」
「え、天野先輩を?」
「彼なら、きっと役に立つよ。何より、護衛としてもね」
「……先輩、また勝手に決めてません?」
「優雅な休日には、優雅な護衛が必要なんだ。……まぁ、勿論無理にとは言わない。女子だけでの方が楽しめるだろうしね」
絢葉は少し考える。中学生の頃、同じように海に遊びに行って、しつこくナンパされて少し危ない目に遭った事を思い返し、
「……お願いしようかな。どうせなら、呉宮先輩も一緒にどうです?」
「嬉しい申し出だが、私は遠慮しておこう。夏休み中は忙しくなりそうでね」
(自分は断るのに、天野先輩の同行は勝手に決めるんだ……)
相変わらずの史桜の調子に、絢葉は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
────
夜。
自室の窓を開け放つと、夏の湿った風がカーテンを揺らした。
遠くで花火が上がる音がする。
布団に寝転がった絢葉のスマホが震えた。
【おい、なんだ海水浴って。なんだそれ。え? マジでオレも行くのか?】
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【別に良いよ。断った方がめんどいことになりそうだし】
(……どういうことだろ? でも、来てくれるなら助かるかも)
スマホを置いて、窓の外を見上げた。
カーテンの隙間から覗く夜空には、夏の星々が滲んでいる。
若き学生たちが待ち望む夏休みは、もう指先で掴めそうなところまで来ていた。
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