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男女一緒に帰る
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「三橋君、じゃあね!」
「お疲れ様。また明日ね」
三橋が控えめに手を振ると、それだけで女子たちがわーってなる。
下校時間になると、イケメンの三橋はたくさんの女子に声をかけられる。本当にモテるなーって思いながら遠くから見ていた。
さて、わたしも帰ろうっと。
そう思いながら、校舎の玄関へと歩いていく。
「篠崎さん、今帰り?」
「うん。それじゃあお疲れ様」
そう言って出ていくと、三橋が付いてくる。
「せっかくだから、一緒に帰ろうよ」
「……まあ、いいけど」
無頓着な彼には分からないだろうけど、中学生の男女って並んで帰っているだけで「あいつら付き合ってるの?」ってなるんだからね。別に、悪い気はしないけど。
「レイレイ、じゃあね~」
そう言って手を振って去っていくクラスメイト。だからさ、わたし達をレイレイでまとめるなっつーの。
そんな心の抗議も届くはずがなく、声をかけてきた女子は先に出た女子グループたちと合流する。向こうから小さく「三橋君と話しちゃった」と聞こえてくるのがイラっとした。あなたは一方的に声をかけただけでしょう?
だけど、当の三橋はのほほんとして帰り道を歩いていた。まあ、たしかにこいつ、イケメンだし? そんなのと歩いているわたしがひときわ特別っていうのはあるよね。考え方を変えてみたら、不満は優越感に変わった。
わたし達の家は、学校から気持ち遠い場所にある。
歩いて二十分ぐらいの所にあるから、ちょっと寝坊すると遅刻が危うくなる。どうしてか自転車通学は禁止になっているので、わたしとご近所さんである三橋はちょっと遠めの所から歩いて学校までやって来る。それもあって帰り道で一緒になると雑談でもしながら歩いて帰ることが結構ある。
「しかし、本当に暑いよね」
「そうだね。今日も三十五度近くまで行ったらしいよ」
絶望的な現実を三橋は涼しい顔で告げる。どうりで目の前の世界が歪んでみえるってわけだ。だって、熱で世界がよじれてしまっている感があるもん。
九月になったというのに、地球はいまだに夏真っ盛りという感じ。何をこんなに温めないといけないの? って神様に訊きたくなる。
セミはいまだに鳴きまくっているし、毎日熱中症で亡くなる人もいるし、そんな中で二学期が始まったのは罰ゲームとしか思えない。温暖化がその原因らしいけど、今の大人は地球をこんな風にした責任をちゃんと取ってほしい。
暑いと汗ばんだ夏服のブラウスも透けてくる。本当に「夏死ね」って思ったことは少なくない。
「三橋は帰ったらどうするの?」
「僕は……本の続きが気になるから、また読んでるんじゃないかな」
「それ、学校と変わらないじゃん」
「まあ、そうだね」
きっと何万回と繰り返した会話を、今日もお約束のように交換する。
会話の中身が変わらなくても良かった。ただ、こうしている時間がとても大事なんだろうなっていうのが本能的な何かで分かっていた。
「そう言えばさ」
わたしは気になっていたことを口にする。
「わたしが幽霊が見えるって言った話、どう思う?」
「どう思うって?」
「ぶっちゃけさ、信じられないでしょ? だって、わたしだって急にそんなことを言われたら『ヤバい奴がキター!』とか思ってそうだもん」
「ああ、それね」
三橋はちょっとおかしそうに笑う。
「別に嘘だなんて思っていないよ。篠崎さんは昔から不思議なところがあったからね」
「何よそれ、バカにしてんの?」
「バカになんかしていないって。ミステリアスで魅力的だよ」
なんだか難しい言葉で上手く丸め込まれた感がしないでもないけど、三橋としてはわたしのことを信じてくれているみたい。
わたし自身にもなんでこんな能力が芽生えたのかは分からない。可能性として考えられるのは、この帰り道で車にはねられたせいで生死の境をさまよったことが大きいんじゃないかと思っている。
あの時は臨死体験というか、倒れた自分の姿や他の人々の姿を上から眺めているような映像が見えた。きっとわたしは本当に死にかけていて、幽体離脱をしていたのだと思う。
それで目が覚めたら死んでいるはずの人や幽霊が見えるようになっていた。当初はビックリしたけど、そんなことを言えば頭を打ったとかで大ごとになりそうだったので黙っていることにしていた。実際それで正解だったと思う。
そういう背景もあったので、三橋の霊視の能力を打ち明けるのはとても勇気がいる行為だった。それなのに「嘘だなんて思っていない」とはっきり言われてしまうと、それはそれでどこか力が抜ける。
というか、あまりにも抵抗なく信じているよって言われるのも、なんかうさんくさいというか、特にこんな知的キャラの人がそう言ってると「軽くあしらわれているだけじゃない?」って気持ちがわいてくるのも事実だ。
それもあって、わたしはまた口を開く。
「じゃあさ、もし幽霊か何かで困ったことがあれば、わたしに相談してみてよ。わたしが幽霊とコンタクトしてさ、どんなことも解決してやるんだから」
「……そう。じゃあ、悪い霊で困ったら篠崎さんに相談してみるよ」
そう言って三橋が微笑んだ。苦笑いにも見えなくない。
「任せといて。わたしがバッチリ退治してやるんだから!」
自分で言ってから、さすがに言い過ぎたんじゃないかって後悔しはじめる。まあいいや。もう口に出してしまったものは仕方がない。今さら撤回するなんてダサすぎる。
そんな会話で盛り上がっている内に三橋の家付近に来た。そこでわたし達は別れる。
「じゃあ篠崎さん、また明日ね」
「うん、またね」
わたし達は手を振って別れる。一人になってから、中学生にもなってこんな風に仲が良い友達の男女って珍しいかも、なんて思う。
それはそうと、一人になったことでわたしは気が沈んでくる。
あーあ、一人になっちゃった。
それは単に三橋と別れたからだけじゃない。
最近の帰宅時には、いつも嫌~な気分になりながら歩いている。その理由は、わたしの家にあった。
「お疲れ様。また明日ね」
三橋が控えめに手を振ると、それだけで女子たちがわーってなる。
下校時間になると、イケメンの三橋はたくさんの女子に声をかけられる。本当にモテるなーって思いながら遠くから見ていた。
さて、わたしも帰ろうっと。
そう思いながら、校舎の玄関へと歩いていく。
「篠崎さん、今帰り?」
「うん。それじゃあお疲れ様」
そう言って出ていくと、三橋が付いてくる。
「せっかくだから、一緒に帰ろうよ」
「……まあ、いいけど」
無頓着な彼には分からないだろうけど、中学生の男女って並んで帰っているだけで「あいつら付き合ってるの?」ってなるんだからね。別に、悪い気はしないけど。
「レイレイ、じゃあね~」
そう言って手を振って去っていくクラスメイト。だからさ、わたし達をレイレイでまとめるなっつーの。
そんな心の抗議も届くはずがなく、声をかけてきた女子は先に出た女子グループたちと合流する。向こうから小さく「三橋君と話しちゃった」と聞こえてくるのがイラっとした。あなたは一方的に声をかけただけでしょう?
だけど、当の三橋はのほほんとして帰り道を歩いていた。まあ、たしかにこいつ、イケメンだし? そんなのと歩いているわたしがひときわ特別っていうのはあるよね。考え方を変えてみたら、不満は優越感に変わった。
わたし達の家は、学校から気持ち遠い場所にある。
歩いて二十分ぐらいの所にあるから、ちょっと寝坊すると遅刻が危うくなる。どうしてか自転車通学は禁止になっているので、わたしとご近所さんである三橋はちょっと遠めの所から歩いて学校までやって来る。それもあって帰り道で一緒になると雑談でもしながら歩いて帰ることが結構ある。
「しかし、本当に暑いよね」
「そうだね。今日も三十五度近くまで行ったらしいよ」
絶望的な現実を三橋は涼しい顔で告げる。どうりで目の前の世界が歪んでみえるってわけだ。だって、熱で世界がよじれてしまっている感があるもん。
九月になったというのに、地球はいまだに夏真っ盛りという感じ。何をこんなに温めないといけないの? って神様に訊きたくなる。
セミはいまだに鳴きまくっているし、毎日熱中症で亡くなる人もいるし、そんな中で二学期が始まったのは罰ゲームとしか思えない。温暖化がその原因らしいけど、今の大人は地球をこんな風にした責任をちゃんと取ってほしい。
暑いと汗ばんだ夏服のブラウスも透けてくる。本当に「夏死ね」って思ったことは少なくない。
「三橋は帰ったらどうするの?」
「僕は……本の続きが気になるから、また読んでるんじゃないかな」
「それ、学校と変わらないじゃん」
「まあ、そうだね」
きっと何万回と繰り返した会話を、今日もお約束のように交換する。
会話の中身が変わらなくても良かった。ただ、こうしている時間がとても大事なんだろうなっていうのが本能的な何かで分かっていた。
「そう言えばさ」
わたしは気になっていたことを口にする。
「わたしが幽霊が見えるって言った話、どう思う?」
「どう思うって?」
「ぶっちゃけさ、信じられないでしょ? だって、わたしだって急にそんなことを言われたら『ヤバい奴がキター!』とか思ってそうだもん」
「ああ、それね」
三橋はちょっとおかしそうに笑う。
「別に嘘だなんて思っていないよ。篠崎さんは昔から不思議なところがあったからね」
「何よそれ、バカにしてんの?」
「バカになんかしていないって。ミステリアスで魅力的だよ」
なんだか難しい言葉で上手く丸め込まれた感がしないでもないけど、三橋としてはわたしのことを信じてくれているみたい。
わたし自身にもなんでこんな能力が芽生えたのかは分からない。可能性として考えられるのは、この帰り道で車にはねられたせいで生死の境をさまよったことが大きいんじゃないかと思っている。
あの時は臨死体験というか、倒れた自分の姿や他の人々の姿を上から眺めているような映像が見えた。きっとわたしは本当に死にかけていて、幽体離脱をしていたのだと思う。
それで目が覚めたら死んでいるはずの人や幽霊が見えるようになっていた。当初はビックリしたけど、そんなことを言えば頭を打ったとかで大ごとになりそうだったので黙っていることにしていた。実際それで正解だったと思う。
そういう背景もあったので、三橋の霊視の能力を打ち明けるのはとても勇気がいる行為だった。それなのに「嘘だなんて思っていない」とはっきり言われてしまうと、それはそれでどこか力が抜ける。
というか、あまりにも抵抗なく信じているよって言われるのも、なんかうさんくさいというか、特にこんな知的キャラの人がそう言ってると「軽くあしらわれているだけじゃない?」って気持ちがわいてくるのも事実だ。
それもあって、わたしはまた口を開く。
「じゃあさ、もし幽霊か何かで困ったことがあれば、わたしに相談してみてよ。わたしが幽霊とコンタクトしてさ、どんなことも解決してやるんだから」
「……そう。じゃあ、悪い霊で困ったら篠崎さんに相談してみるよ」
そう言って三橋が微笑んだ。苦笑いにも見えなくない。
「任せといて。わたしがバッチリ退治してやるんだから!」
自分で言ってから、さすがに言い過ぎたんじゃないかって後悔しはじめる。まあいいや。もう口に出してしまったものは仕方がない。今さら撤回するなんてダサすぎる。
そんな会話で盛り上がっている内に三橋の家付近に来た。そこでわたし達は別れる。
「じゃあ篠崎さん、また明日ね」
「うん、またね」
わたし達は手を振って別れる。一人になってから、中学生にもなってこんな風に仲が良い友達の男女って珍しいかも、なんて思う。
それはそうと、一人になったことでわたしは気が沈んでくる。
あーあ、一人になっちゃった。
それは単に三橋と別れたからだけじゃない。
最近の帰宅時には、いつも嫌~な気分になりながら歩いている。その理由は、わたしの家にあった。
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