この世で一番嫌いな自慢の彼女

僧侶A

文字の大きさ
24 / 37

第24話

しおりを挟む
「ほら。あれだけ怖がっている人が居るってことは怖いじゃないですか」

「あれは悲鳴じゃなくて歓喜の声だよ」

 声の主は二宮花だった。自分のクラスであるという職権を乱用して楽しんでいるようだった。

「じゃあ次に行きましょう」

 何事もなかったかのように俺を引っ張る加賀美が連れてきたのは写真部の出し物のプリクラ撮影だった。

 女子生徒の間では取った後の時間が無限だから何でも出来るということで結構前から評判であり、案の定女子による大行列が出来ていた。

 ということで二人っきりで行列に並ぶのだが、つまりは会話を強制させられるということで。

「話聞いてますか?」

「聞いてない」

 スマホを見ることで避けようとしたが無駄なようだ。

「なんでこんなことやってるんだ?」

「楽しいからですよ」

「空しくなったりはしなかったのか?」

「いえ?大満足の反応です」

 こいつってMなのだろうか。怖くなってきた。

 そんな会話をしていると、ついに俺たちの順番が来た。

「いきますよー。はい、チーズ」

 見事加賀美の策略通り付き合って初めてのツーショットを撮ることになった。

 そしてノリノリで絵を描きだす加賀美。プリクラという浮ついたものに対してガチの画力を乗っけようとしていた。

「流石にプリクラに絵画を描く奴は居ねえぞ……」

 流石にツッコミを入れざるを得なかった。

「そうなんですか?プリクラには環と行くことはあったのですが自分で絵を描くという経験が無くて」

「にしてもだろ。小野田さんもそんな絵描いて無かったろ?」

「ピカソみたいな絵を描いてましたけど?」

 小野田環に絵を描かせてはいけないということはよく分かった。

「基本的に現代の遊びは小野田さん経由なんだな」

「そうですね。何よりも環と遊ぶのが好きでしたから」

 こいつ俺と出会うまでは本当に環しか見えていなかったんだな。

 というか環はこいつに好意を向けているはずだよな?あの裏表が一切無さそうな小野田さんがこれだけ一緒にいるってことはそういうことのはずなのに。

「環の事本当に好きなんだな」

「ええ、勿論。唯一の親友ですから」

「そうか」

 その後様々な出店を回り、俺の精神が散々疲弊したのち、文化祭終了の鐘がなった。

「とても楽しかったです」

 キャラに合わない裏表の無さそうな満面の笑みで言う加賀美。

「そりゃあ良かったな」

 たとえ加賀美が相手といえど楽しかったと言われると気持ちがいいものだ。

「じゃあ帰るぞ」

「はい」

 俺たちは自分たちの教室へと戻った。

 戻ったら、全員教室に居た。

「よう悠理。お前が見捨てた晴だよ」

「俺はいつでもお前の事を大切に思っているぜ。見捨てるだなんてなあ」

「剣でぶった切ってやろうか」

「ひゅうおっかねえ。んでどうだったんだ?」

 加賀美が後ろに居るのに聞いてくる。

「最悪の気分だった」

 あえて何も言わずにそう言ってみる。

「あ、めちゃくちゃトラブルにでもあったのか?」

 悠理にも人の心はあるので、後ろに居る女に気遣いのようなフォローをしようと試みていた。

「いや純粋に嫌だった」

 ストレートに言ってみる。驚いた悠理は俺の首元についていたネクタイを引っ張り、

「こんなところでそんなこと言っていいのかよ?嫌いなの隠してんだろ?」

「あいつ最初から知ってやがった」

「マジかよ」

「ということで改めてこいつが加賀美千佳だ」

「よろしくお願いします」

「おう、よろしく。別に俺はお前の事はどうも思ってねえからな」

「存じております」

「細かいとこは帰りにな」

「分かった」

 細かいところはクラスの中で話すもんじゃねえしな。

 それに、

「あんな明るく笑っている加賀美さん初めて見た!」

「流石晴!王子なだけあるわ」

 全く気付かなかったが、二人で文化祭を回っている様子をかなりの人数が目撃していたようで、その話が俺たちを知っている連中に広まっていたらしい。

 軽く加賀美を見ると、してやったりと言いたげな顔をしていた。

 ただ付き合っているだけでは別れてもおかしくないからと、外堀を一気に埋める目的だったようだ。

 俺は諦めてその評価を受け取ることにした。

 その後体育館に向かい、全体での表彰などが行われた。

 ステージ発表系は案の定俺たちのクラスが優勝し、委員長が表彰を受けた。

 ちなみに、出店等のその他の部門については、例の筋肉お化け屋敷が取っていた。

 表彰者から出展内容の解説をされており、事情を知らず怖がっていた女子が困惑し、それを知っていた人たちはそれを見て笑っていた。

 名実ともに注目を集めていたのは確実にあそこだろう。

 そしてそのままホームルームを終え、放課後となった。

 小野田さんは用事があるとのことで先に帰っていった。

「んで、事情を説明してもらおうじゃねえの」

 というわけで悠理による俺と加賀美への尋問タイムが始まった。

 といっても文化祭を二人でまわった時の話をするだけだ。

「お前結局バレてたのか。とんだピエロだなお前さんは。と言っても今回に限っては加賀美家のパワーが異常に高いから仕方ないんだろうが」

「ほんとだよ。こいつと付き合うって許可してしまったのが最大の敗因だよ」

「あら。酷いです。大事な彼女にそんなことを言うなんて……」

 わざとらしく嘘泣きをする加賀美。ぶん殴ってやりたい。

「ま、晴の選択に俺は関係ないし、どうなろうが面白いから良いんだ」

 そう言い切った後、真剣な顔をして加賀美に質問する。

「晴を調べたってことは俺も調べ上げてんだろ?どこまで知っている?」

 と。まるで人生がかかっているかのように。

「はい、全て存じております」

 悠理はそれを聞いて大きくため息をついた。

「それについてお前さんはどう思う?」

「別に構わないことだとは思いますが」

「ならいい。帰るぞ晴」

「分かった」

 俺たちはそのまま解散となった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

(完結)私のことが嫌いなら、さっさと婚約解消してください。私は、花の種さえもらえれば満足です!

水無月あん
恋愛
辺境伯の一人娘ライラは変わった能力がある。人についている邪気が黒い煙みたいに見えること。そして、それを取れること。しかも、花の種に生まれ変わらすことができること、という能力だ。 気軽に助けたせいで能力がばれ、仲良くなった王子様と、私のことが嫌いなのに婚約解消してくれない婚約者にはさまれてますが、私は花の種をもらえれば満足です! ゆるゆるっとした設定ですので、お気楽に楽しんでいただければ、ありがたいです。 ※ 番外編は現在連載中です。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...