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第2話 ねた魅
(13)ひとつでも違えば
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『……あぁ、厭ましい。あな口惜しや。……ただ妬ましいっ!』
ガバリと布団から身を起こす。
はぁはぁと、荒い息が己の口からこぼれる。
真夏でもないのに、ぐっしょりと濡れた夜着。
よくぞ、こんなにも己の身に含まれていたものよ。
そう思うほどの汗が、まとわりついている。
布団をあげると、床が己の形通りにじっとりと濡れている。
それは、しかばねのようにも見える。
気味の悪さに、長吉は、床を手拭いでゴシゴシとこする。
ここしばらく、うまく眠れていない。
起きる頃合いになると、必ず、あの声が耳朶に響く。
恨みがましい声は、誰のものかは分からない。
毎日、違う声のようにも思える。
ひとりの声のようにも感じるし、数十人の声にも聞こえる。
「長吉っちゃん、ちょっといいかい?」
半助の声に、ハッと手を止める。
近頃は、いつもこうだ。
目覚めて、床を拭う。
そこまでは確かなのに、そのあとは、気づけば仕事場にいる。
長吉の手は、長吉よりも仕事を覚えているらしく。
長吉が、心ここに在らずでも、次々と品を拵えていく。
「おう。半助、なんだよ?」
「うん。あの……、巾着と紙入れが売れた祝いをね。
皆でするってぇ話があるんだけどさ。その席にね。
長吉っちゃんが、来てくれないと困っちまうんだ」
「はぁ? 俺ひとりいなくたって、構わねぇだろ?」
「いやいやいや! 今度の席だけは、長吉っちゃんにいてもらわないと」
「なんでだよ? 皆は、酒が飲めりゃ、それでいいんだろ?」
「う、うん。まぁ、皆は、そうだろうね。でもさ……。
えぇっと。旦那さんとお嬢さんがね、来て欲しいって。
なんだか大事な話があるらしいんだよ」
「大事な話って、なんだ?」
「それは……、今は、言えないんだよ。ごめん」
「おめぇは知ってんのか?」
「あぁ、うん。だけど……」
「別に構わねぇ。行くよ」
「本当かい? 助かるよ、ありがとう。長吉っちゃん」
己の役目を果たしたと言わんばかりの様子で、半助が去っていく。
今にも口笛でも吹きそうな、軽やかな足取り。
その後ろ姿を見送る長吉の胸に、じわりと黒いものが滲み出る。
(わざわざ話ってのは、なんだ? 店で出来ねぇ話なのか?)
(俺が知らねぇのに、半助が知ってる話?)
(旦那さんだけじゃあなくて、お嬢さんからも聞かせたい話だと?)
(……近頃、半助とお嬢さんは、ますます仲がいい。……まさか)
(俺ァ、追い出されるのか? ここまで尽くしてきたってのに?)
(そうだ、そうに違ぇねぇ! 許せねぇ!)
(それなら、一泡吹かせてやらなくちゃ気が済まねぇ!)
どれだけ胸の内が黒いものに包まれようと、長吉の手は仕事を続ける。
その手は、黙々と美しい品を生み出し続ける。
だから、長吉の異変が表立つことは無かった。
***
「あの蛇が死んじまってから、おかしくなっちまったみてぇだなぁ。
長吉のやつはよぅ……」
「もしかすると、あの蛇は、大勢の悪い気を吸っていたのかも知れません。
それが、全て、長吉さんに向かってしまったとしたら……」
「そりゃあ、マズいよなぁ。お江戸の、この人の数だ。
悪い気なんざ、そこら中にウヨウヨ浮かんでるに違ぇねぇ」
「ええ。もはや、何を聞いても悪いようにしか聞こえなくなるでしょう」
「そんな時に限って、悪りぃ話っては、耳に入っちまうんだよなぁ」
「そうですね、ほら、やはり……」
巳之吉と桔梗が見ているのは、長吉の仕事場の裏に当たる板塀。
世間話をしているおなごが、ふたり。
店表が客でいっぱいだからと、裏側のこの場所で立ち話に興じている。
「ほら、ここから真っ直ぐいったところの黒板塀の」
「あぁ、あの、どこぞのお大尽の囲われ様の」
「そうそう。そこの植木の花が大層、綺麗でね。
落ちた花びらだけでも持って帰ろうとしたらさ」
「あら、ケチでもつけられたのかい?」
「それが違うのよ、そこの下男がさ、花びらを掃きながら言うのよ。
『姐さん、それは持って行っても構いませんがね。毒花ですよ。
よぉく手を洗わなきゃ、お腹を壊しちまいますよ』ってね」
「花びらを拾っただけでかい?」
「うん。なんだか怖くなっちまってね。一枚も拾わなかったんだよ」
「あら、怖い。そんな花が、その辺に咲いてるなんてねぇ」
おなごたちの話は、次々と移り変わっていく。
ゆく川の流れのように、続いてはいるが、中身は変わっていく。
毒花の話をしたことなど、おなごたちは、おそらく覚えてはいまい。
けれど、その話は、長吉の耳には、しかと残っていた。
***
花びらが浮かぶ杯。
祝いの席にふさわしい、それはそれは美しい杯。
次々と飲み干す店の者たち。
長吉も、疑われぬよう共に飲み干す。
やがて、総身に震えが走り始める。
喉が焼けるように熱い。
指を喉に突っ込んで、胃の腑のものを吐き出す。
目が、かすむ。
半助……、どこだ?
助けてくれ。
お嬢さん……、死なないでくれ……。
*****
またも陰惨な宴を見せられたあと、巳之吉と桔梗は繭から放り出された。
巳之吉は、口惜しそうな顔を隠そうとはしない。
「桔梗よぅ。俺ァ、怖くなっちまったよ。その辺りで叩いた軽口がよ?
誰かの命を奪っちまうかも知んねぇってことだろ?」
「そうです。それが、因というもの。
長吉さんが、蛇に出会ったのも因。
蛇が殺されてしまい、悪い気が出てしまったのも因。
どこかひとつでも違えば、此度の惨事は起きずに済んだでしょう」
「でもなぁ、思い返せば分かることでも、そん時はなぁ……」
「そう、分かるはずが無いのです。ですから、私たちが今、ここにっ!」
最後の言葉と共に、桔梗が巳之吉を抱えて横に飛ぶ。
さっきまでふたりがいた場所が、ドロドロぶくぶくと溶けている。
溶け落ちた場所からは、紅色の瘴気が漂い始める。
桔梗に抱えられたまま、巳之吉が振り返る。
鎌首をもたげた大蛇が、そこに現れていた。
真っ黒な身に、禍々しいほどの紅色の舌をのぞかせて。
ビリッ! ビリビリリィィィ!
巳之吉を大蛇からひとまず遠ざけると、桔梗は己の着物の袖を引き裂く。
『何を?』と巳之吉が問う前に、桔梗が早口で答える。
「こちらで、顔を覆ってください。あの瘴気は、毒です」
桔梗から渡された袖は、片側が閉じられ、袋の形に変わっている。
巳之吉は、ためらうことなく、ズボリッと頭にかぶる。
中は清浄な気に包まれていて、息がしやすい。
不思議なことに布を通しても、向こう側が見えている。
「桔梗! おめぇさんは、大丈夫かい?」
「はいっ。ただし、あの吐き出される毒水らしきものは、いけません。
巳之吉様も、絶対に触れぬように願います」
「承知。けどよ、策は、あんのかい? あの毒水をどうにかする策が」
「ええ。それには、黒助殿の助けが要ります」
「よくぞ申した、桔梗。我は、待ちくたびれたぞ」
「黒助⁉︎ おまえさん、いつから聞いてたんだい?」
「ずっと聞こえておるわ。おまえたちを慮って、黙っておるのよ」
「へぇ! さっすが黒助」
「ほんに、おぬしは適当な。まぁ、良い。桔梗、策を聞かせぃ!」
ガバリと布団から身を起こす。
はぁはぁと、荒い息が己の口からこぼれる。
真夏でもないのに、ぐっしょりと濡れた夜着。
よくぞ、こんなにも己の身に含まれていたものよ。
そう思うほどの汗が、まとわりついている。
布団をあげると、床が己の形通りにじっとりと濡れている。
それは、しかばねのようにも見える。
気味の悪さに、長吉は、床を手拭いでゴシゴシとこする。
ここしばらく、うまく眠れていない。
起きる頃合いになると、必ず、あの声が耳朶に響く。
恨みがましい声は、誰のものかは分からない。
毎日、違う声のようにも思える。
ひとりの声のようにも感じるし、数十人の声にも聞こえる。
「長吉っちゃん、ちょっといいかい?」
半助の声に、ハッと手を止める。
近頃は、いつもこうだ。
目覚めて、床を拭う。
そこまでは確かなのに、そのあとは、気づけば仕事場にいる。
長吉の手は、長吉よりも仕事を覚えているらしく。
長吉が、心ここに在らずでも、次々と品を拵えていく。
「おう。半助、なんだよ?」
「うん。あの……、巾着と紙入れが売れた祝いをね。
皆でするってぇ話があるんだけどさ。その席にね。
長吉っちゃんが、来てくれないと困っちまうんだ」
「はぁ? 俺ひとりいなくたって、構わねぇだろ?」
「いやいやいや! 今度の席だけは、長吉っちゃんにいてもらわないと」
「なんでだよ? 皆は、酒が飲めりゃ、それでいいんだろ?」
「う、うん。まぁ、皆は、そうだろうね。でもさ……。
えぇっと。旦那さんとお嬢さんがね、来て欲しいって。
なんだか大事な話があるらしいんだよ」
「大事な話って、なんだ?」
「それは……、今は、言えないんだよ。ごめん」
「おめぇは知ってんのか?」
「あぁ、うん。だけど……」
「別に構わねぇ。行くよ」
「本当かい? 助かるよ、ありがとう。長吉っちゃん」
己の役目を果たしたと言わんばかりの様子で、半助が去っていく。
今にも口笛でも吹きそうな、軽やかな足取り。
その後ろ姿を見送る長吉の胸に、じわりと黒いものが滲み出る。
(わざわざ話ってのは、なんだ? 店で出来ねぇ話なのか?)
(俺が知らねぇのに、半助が知ってる話?)
(旦那さんだけじゃあなくて、お嬢さんからも聞かせたい話だと?)
(……近頃、半助とお嬢さんは、ますます仲がいい。……まさか)
(俺ァ、追い出されるのか? ここまで尽くしてきたってのに?)
(そうだ、そうに違ぇねぇ! 許せねぇ!)
(それなら、一泡吹かせてやらなくちゃ気が済まねぇ!)
どれだけ胸の内が黒いものに包まれようと、長吉の手は仕事を続ける。
その手は、黙々と美しい品を生み出し続ける。
だから、長吉の異変が表立つことは無かった。
***
「あの蛇が死んじまってから、おかしくなっちまったみてぇだなぁ。
長吉のやつはよぅ……」
「もしかすると、あの蛇は、大勢の悪い気を吸っていたのかも知れません。
それが、全て、長吉さんに向かってしまったとしたら……」
「そりゃあ、マズいよなぁ。お江戸の、この人の数だ。
悪い気なんざ、そこら中にウヨウヨ浮かんでるに違ぇねぇ」
「ええ。もはや、何を聞いても悪いようにしか聞こえなくなるでしょう」
「そんな時に限って、悪りぃ話っては、耳に入っちまうんだよなぁ」
「そうですね、ほら、やはり……」
巳之吉と桔梗が見ているのは、長吉の仕事場の裏に当たる板塀。
世間話をしているおなごが、ふたり。
店表が客でいっぱいだからと、裏側のこの場所で立ち話に興じている。
「ほら、ここから真っ直ぐいったところの黒板塀の」
「あぁ、あの、どこぞのお大尽の囲われ様の」
「そうそう。そこの植木の花が大層、綺麗でね。
落ちた花びらだけでも持って帰ろうとしたらさ」
「あら、ケチでもつけられたのかい?」
「それが違うのよ、そこの下男がさ、花びらを掃きながら言うのよ。
『姐さん、それは持って行っても構いませんがね。毒花ですよ。
よぉく手を洗わなきゃ、お腹を壊しちまいますよ』ってね」
「花びらを拾っただけでかい?」
「うん。なんだか怖くなっちまってね。一枚も拾わなかったんだよ」
「あら、怖い。そんな花が、その辺に咲いてるなんてねぇ」
おなごたちの話は、次々と移り変わっていく。
ゆく川の流れのように、続いてはいるが、中身は変わっていく。
毒花の話をしたことなど、おなごたちは、おそらく覚えてはいまい。
けれど、その話は、長吉の耳には、しかと残っていた。
***
花びらが浮かぶ杯。
祝いの席にふさわしい、それはそれは美しい杯。
次々と飲み干す店の者たち。
長吉も、疑われぬよう共に飲み干す。
やがて、総身に震えが走り始める。
喉が焼けるように熱い。
指を喉に突っ込んで、胃の腑のものを吐き出す。
目が、かすむ。
半助……、どこだ?
助けてくれ。
お嬢さん……、死なないでくれ……。
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またも陰惨な宴を見せられたあと、巳之吉と桔梗は繭から放り出された。
巳之吉は、口惜しそうな顔を隠そうとはしない。
「桔梗よぅ。俺ァ、怖くなっちまったよ。その辺りで叩いた軽口がよ?
誰かの命を奪っちまうかも知んねぇってことだろ?」
「そうです。それが、因というもの。
長吉さんが、蛇に出会ったのも因。
蛇が殺されてしまい、悪い気が出てしまったのも因。
どこかひとつでも違えば、此度の惨事は起きずに済んだでしょう」
「でもなぁ、思い返せば分かることでも、そん時はなぁ……」
「そう、分かるはずが無いのです。ですから、私たちが今、ここにっ!」
最後の言葉と共に、桔梗が巳之吉を抱えて横に飛ぶ。
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溶け落ちた場所からは、紅色の瘴気が漂い始める。
桔梗に抱えられたまま、巳之吉が振り返る。
鎌首をもたげた大蛇が、そこに現れていた。
真っ黒な身に、禍々しいほどの紅色の舌をのぞかせて。
ビリッ! ビリビリリィィィ!
巳之吉を大蛇からひとまず遠ざけると、桔梗は己の着物の袖を引き裂く。
『何を?』と巳之吉が問う前に、桔梗が早口で答える。
「こちらで、顔を覆ってください。あの瘴気は、毒です」
桔梗から渡された袖は、片側が閉じられ、袋の形に変わっている。
巳之吉は、ためらうことなく、ズボリッと頭にかぶる。
中は清浄な気に包まれていて、息がしやすい。
不思議なことに布を通しても、向こう側が見えている。
「桔梗! おめぇさんは、大丈夫かい?」
「はいっ。ただし、あの吐き出される毒水らしきものは、いけません。
巳之吉様も、絶対に触れぬように願います」
「承知。けどよ、策は、あんのかい? あの毒水をどうにかする策が」
「ええ。それには、黒助殿の助けが要ります」
「よくぞ申した、桔梗。我は、待ちくたびれたぞ」
「黒助⁉︎ おまえさん、いつから聞いてたんだい?」
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