ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

文字の大きさ
49 / 178
第一話 コレクター【解決編】

11

しおりを挟む
 銀山の暴走に加えて、マスターが警察に通報しなかったという事実は、楠野にとってプラスにしかならなかった。警察への通報が遅れてくれれば、それだけ楠野の痕跡も消えることになる。目玉の味を一度覚えてしまい、しかも知り合いの目玉がどれだけ美味なものであるかを知ってしまった以上、まだまだ捕まるわけにはいかなかった。

 銀山が馬鹿だったおかげで、その疑いは全面的に坂田へと向けられた。普段から素行が悪く、銀山に楯突いていた坂田が疑われるのは、なかば計算していたことではあったが、あまりにも上手くことが運んでくれるものだから、少しばかり怖くもなった。

 銀山達が総出で坂田を探し始める。楠野は坂田をサポートするという形をとりながら、しかし裏では坂田へと疑いが向くように仕向けていた。頃合いを見計らって警察にも連絡したが、そこで犯人は坂田であることを匂わせておいたのだ。坂田は素行が悪いおかげで、警察に何度も世話になっている。だから、坂田の名前を出せば、必然的に警察の疑いも坂田に向くのではないかと考えた。

 ――そう、上手くいっていたのだ。全てが上手くいっていたはずだった。まさか、嵌めようと思っていた坂田に嵌められる形になるまでは。

 あの口触りの悪かったコンタクトレンズ。紫衣流が眼鏡からコンタクトレンズに切り替えた絶妙なタイミングで、楠野は犯行に及んでしまったがゆえに、自らが犯人であることを露呈させてしまった。でも、まだ捕まるわけにはいかない。捕まるくらいなら、いっそのこと――。

 坂田が楠野のことを犯人だと名指しし、それを楠野が認めてから、どれくらいの時間が経っただろうか。まるで互いに金縛りにあったかのごとく、坂田と目を合わせたまま楠野は動かない。

「マスター。近くに交番があったはずだ。そこまでちょいと行って、応援を呼んできてくれないか? 巌鉄からの頼みだって言ってくれれば、話は通じると思う」

 自らが刑事だろうに、なんとも情けない男だ。応援がないと何もできないか。巌鉄の指示を受けても戸惑っている様子のマスターを「早くっ!」と急かす。マスターは慌てて店を飛び出して行った。

「おっさん、優しいなぁ。マスターに刺激の強い場面を見せたくねぇってか?」

 マスターが出て行った扉を眺めつつ、坂田はかすかに笑みを浮かべる。

「馬鹿言え。善良な市民様にはお見せできんだろ? 暴力刑事が大活躍する場面をな」

 その言葉と共に巌鉄の表情が変わった。いいや、雰囲気までもがだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...