65 / 178
第二話 Q&A【事件編】
10
しおりを挟む
【2】
生活安全課総務。巌鉄もまた安全生活課の人間ではあるが、総務の人間とは業務的なやり取りをするばかりで、そこまで親しくはない。そもそも、捜査一課からの爪弾き者であるため、生活安全課にいても巌鉄の肩身は狭い。もう生活安全課に来て数年経つのだから慣れてもいいようなものなのだが、総務の連中の、それこそ人を見下したような態度は気に入らなかった。
「おい、まだか。まず間違いなく、直近で相談に来ていたはずだぞ。それとも、面倒で門前払いしたから、その記録すら残っていないか?」
本来なら相談に訪れる人が座るはずの椅子に座り、総務のやつを急かす巌鉄。総務のやつには肩身の狭い思いをさせられているから、そのうっぷんが溜まっていたのかもしれない。巌鉄自身、いい性格をしていると思っている。
「あのねぇ、大から小まで分類するとね、どれだけの相談があると思います? しかも、事件にも発展していなさそうな相談なんて山ほどある。大体、付きまといなんて、別に危害を加えられたわけじゃないんだから、被害届を出せないでしょ? その辺り理解してくれてます? 先生」
巌鉄のことを先生と呼ぶのは、きっと署内でもこの男だけだろう。皮肉を込めて呼んでいるのが分かる辺り、やはり人を下に見ている気がする。
「だが事実、付きまとっていた男が殺人行為に及んだ可能性があるんだ。実害が出た以上、予期できた事件を未然に防げなかった責任は――俺達にあるとは思わないか?」
ファイルが並んだ棚の前で、ひとつのファイルを取り出しては中身を確認すると戻し、また次のファイルを取り出し確認するという動作を繰り返しつつ、男は返してくる。
「思いませんね。そもそも、なぜ好意を持っている相手に危害を加えるんですか?」
「自分の思い通りにならねぇからだよ。最近、わがままで幼稚な大人が増えたみたいでな。自分の思い通りにならねぇだけで、人を殺すやつまで出てきてる。総務にいるからって他人事じゃねぇんだ」
男の意見をねじ伏せてやると、煙草をくわえようとする巌鉄。
「ここ、禁煙なんですけど」
ファイルを取り出す手を止めると、明らかに侮蔑するような眼差しを向けてくる彼は遠田圭介という。巌鉄が少年課に来る前から総務にいるくせに、年齢は明らかに巌鉄より下。縁の太い眼鏡の奥に見える細い目が、彼の性格を体現していた。
「細かいこと言うなよ――」
「決まりですから。それにね、知ってます? 煙草は吸っている本人よりも、周りにいる人間のほうが副流煙によって健康被害に遭うんですよ」
間髪入れずに巌鉄に返してくる遠田。しぶしぶと巌鉄は煙草をしまった。
生活安全課総務。巌鉄もまた安全生活課の人間ではあるが、総務の人間とは業務的なやり取りをするばかりで、そこまで親しくはない。そもそも、捜査一課からの爪弾き者であるため、生活安全課にいても巌鉄の肩身は狭い。もう生活安全課に来て数年経つのだから慣れてもいいようなものなのだが、総務の連中の、それこそ人を見下したような態度は気に入らなかった。
「おい、まだか。まず間違いなく、直近で相談に来ていたはずだぞ。それとも、面倒で門前払いしたから、その記録すら残っていないか?」
本来なら相談に訪れる人が座るはずの椅子に座り、総務のやつを急かす巌鉄。総務のやつには肩身の狭い思いをさせられているから、そのうっぷんが溜まっていたのかもしれない。巌鉄自身、いい性格をしていると思っている。
「あのねぇ、大から小まで分類するとね、どれだけの相談があると思います? しかも、事件にも発展していなさそうな相談なんて山ほどある。大体、付きまといなんて、別に危害を加えられたわけじゃないんだから、被害届を出せないでしょ? その辺り理解してくれてます? 先生」
巌鉄のことを先生と呼ぶのは、きっと署内でもこの男だけだろう。皮肉を込めて呼んでいるのが分かる辺り、やはり人を下に見ている気がする。
「だが事実、付きまとっていた男が殺人行為に及んだ可能性があるんだ。実害が出た以上、予期できた事件を未然に防げなかった責任は――俺達にあるとは思わないか?」
ファイルが並んだ棚の前で、ひとつのファイルを取り出しては中身を確認すると戻し、また次のファイルを取り出し確認するという動作を繰り返しつつ、男は返してくる。
「思いませんね。そもそも、なぜ好意を持っている相手に危害を加えるんですか?」
「自分の思い通りにならねぇからだよ。最近、わがままで幼稚な大人が増えたみたいでな。自分の思い通りにならねぇだけで、人を殺すやつまで出てきてる。総務にいるからって他人事じゃねぇんだ」
男の意見をねじ伏せてやると、煙草をくわえようとする巌鉄。
「ここ、禁煙なんですけど」
ファイルを取り出す手を止めると、明らかに侮蔑するような眼差しを向けてくる彼は遠田圭介という。巌鉄が少年課に来る前から総務にいるくせに、年齢は明らかに巌鉄より下。縁の太い眼鏡の奥に見える細い目が、彼の性格を体現していた。
「細かいこと言うなよ――」
「決まりですから。それにね、知ってます? 煙草は吸っている本人よりも、周りにいる人間のほうが副流煙によって健康被害に遭うんですよ」
間髪入れずに巌鉄に返してくる遠田。しぶしぶと巌鉄は煙草をしまった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる