ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作

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第二話 Q&A【事件編】

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「……なにか訳ありですか?」

 巌鉄が良からぬお願いをしようとしていることは、電話越しでも伝わったのであろう。自然と倉科は声をひそめた。

「あぁ、とんでもなく訳ありなんだ。ただ、俺はこんなことでお前さんのキャリアに傷をつけたくはないし、妙なことに巻き込むつもりもない。だから、どうするかは――」

「勤務時間外なら問題ありませんよね? 行けます。どこにおられますか?」

 普通に考えたら面倒なことを頼まれたものだと、ため息のひとつでも漏らしていても不思議ではない。しかしながら、倉科はむしろ少しばかり嬉しそうな反応を見せた。こんなことに巻き込もうとしていることが申し訳なく思えるほどだ。

「いや、勤務時間外だとか、そういうのは問題じゃないんだが。えっと、来てくれるのであれば、とりあえずだな」

 けれども、倉科の力を借りなければ、この状況をどう処理していいか分からない。このまま放ったまま現場を離れることもできなくはないが、それだけはしたくなかった。巌鉄にだって、刑事としての矜持くらいはある。簡単に最寄りの住所を口にすると、倉科は「今から向かいます」と、小声ながら力強く言い放ち、さっさと電話を切ってしまった。

「――こんな短時間で済むんだったら10円で充分だったな」

 当時の公衆電話というものは、入れた小銭の金種によって、話せる時間が決まるものがほとんどだった。といっても使えるのは10円玉と100円玉のみ。もちろん、100円玉のほうが長時間通話できるわけだが、お釣りが返ってこないという致命的な欠点があった。つまり、薄給の巌鉄からすれば、貴重な数十円が消えるという悲劇が起きたわけだ。もっとも、彼の目の前で起きた悲劇に比べれば可愛いものであるが。

 倉科と落ち合うにしても、この現場ではよろしくない。結果、途中で寄った居酒屋の前で合流することにした。夜の街へと出て、たまたまではあるが倉科がまだ残っていてくれたことに感謝する。研修なんて適当にこなしていればいいだけなのに、妙に熱心というか、連日のように遅くまで署に残っていたから、その印象が強かったのかもしれない。

 煙草を吸いながら待つことしばらく。3本目の煙草を手に取ろうとしたところで、後ろから肩を叩かれた。振り返ると倉科が無言で敬礼をする。本人からすれば、目立たずに隠密行動をしているつもりなのであろう。

「おう、倉科。早かったな」

 せっかくだから3本目の煙草にも火を点けてしまう巌鉄。健康診断で控えるように言われているのだが、こればかりは仕方がない。
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