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プロローグ
プロローグ1
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私――こと七色七奈が本田電器店を訪ねたのは、仕事帰りの夕方。ちょうど夕立に見舞われた頃のことだった。
本田電器店は商店街にある小さな電気屋さんだ。今や家電量販店が多大なシェアを占めている中、まだ地域に根付いて生き残っている。もっとも、家電量販店では取り扱っていないようなマニアックな商品から、少しばかりレトロな商品、それらの修理などを請け負っているからこそ、需要があり、生き残っているのだろう。事実、私は昭和レトロの家電に惹かれるものがあり、暇があっては仕事帰りに立ち寄って、店主である本田和彦と話に花を咲かせるのだ。もちろん、ボーナスが入った時には、今では手に入らない昭和レトロのアイテムを、大枚はたいて購入したりもする。そして、この店には、そんな客がけっこういて、客同士のコミュニティも築かれていた。
「七奈ちゃん。こいつはまた随分と古い8ミリビデオテープだな。まぁ、レトロチックで嫌いじゃないが」
私が本田電器店に寄ったのは、いつものように本田さんと井戸端会議をするためではなかった。私の元に奇妙なものが届いたのだ。店の奥にあるカウンターを挟んで、本田さんは8ミリビデオテープを眺める。
こんなご時世だから仕方ないが、マスクをした女性が店の奥から出てきて、カウンターに私と本田さんの分であろうコーヒーカップを置く。
「あぁ、西尾さん。お構いなく」
彼女は西尾さんという。大きなマスクで顔のほとんどが隠れており、素顔を見たことはない。かくいう私達だって、ここを訪れる時は大抵マスクをしているわけだから、素顔が分からないのはお互い様かもしれない。少し前から働いているパートらしい。
何が理由かは分からないが、私は西尾さんからあまり良く思われていないらしい。私がかけた言葉には返事さえせず、頭を小さく下げると、そそくさと店の奥へと引っ込んでしまう。
「あぁ、気にするな。西尾さんは、俺に対してもあんな感じだから。まぁ、俺が客と馬鹿話している間、店のことはなんでもやってくれるしよ、ちょっとくらい人見知りでも問題ないけどな」
そういうと、本田さんは8ミリビデオテープをカウンターの上へと置いた。
「こいつを再生するには、VHSに変換するアダプターか、8ミリのハンディカムビデオカメラが必要だな。家のテレビで観たいのなら、ビデオデッキも必要になるか。ちょっと待ってな。確か昔の在庫が――」
本田電器店は商店街にある小さな電気屋さんだ。今や家電量販店が多大なシェアを占めている中、まだ地域に根付いて生き残っている。もっとも、家電量販店では取り扱っていないようなマニアックな商品から、少しばかりレトロな商品、それらの修理などを請け負っているからこそ、需要があり、生き残っているのだろう。事実、私は昭和レトロの家電に惹かれるものがあり、暇があっては仕事帰りに立ち寄って、店主である本田和彦と話に花を咲かせるのだ。もちろん、ボーナスが入った時には、今では手に入らない昭和レトロのアイテムを、大枚はたいて購入したりもする。そして、この店には、そんな客がけっこういて、客同士のコミュニティも築かれていた。
「七奈ちゃん。こいつはまた随分と古い8ミリビデオテープだな。まぁ、レトロチックで嫌いじゃないが」
私が本田電器店に寄ったのは、いつものように本田さんと井戸端会議をするためではなかった。私の元に奇妙なものが届いたのだ。店の奥にあるカウンターを挟んで、本田さんは8ミリビデオテープを眺める。
こんなご時世だから仕方ないが、マスクをした女性が店の奥から出てきて、カウンターに私と本田さんの分であろうコーヒーカップを置く。
「あぁ、西尾さん。お構いなく」
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そういうと、本田さんは8ミリビデオテープをカウンターの上へと置いた。
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