ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
4 / 203
プロローグ

4

しおりを挟む
 手紙を開いてみると、そこには意味深な文字列が、赤いペンで並んでいた。

 ――ミノタウロスの森で待つ。

 その文字の羅列に、私は久方ぶりに小学生低学年の頃に連れ戻された。当時、私が住んでいたのは、地方都市の中心部から外れた郊外。辺り一面田畑に囲まれているような田舎町だった。何をするにも都市部にいかなければ用事が済まないような小さな町。小さな商店と診療所、学校くらいはあったものの、その面積のほとんどが田畑という、山のふもとにある町だった。

 学校から山の方に向かい、神社を過ぎて山肌が見える頃になると、それは見えてくる。山に向かって鬱蒼うっそうと生い茂る木々の間に、紫の鳥居が。鳥居の近くには御神木らしく、しめ縄が巻かれた大木がそびえていた。

 ――絶対に子供達だけで入ってはいけない。

 あの町に住んでいる子どもならば、一度は必ず親から聞かされる。あの紫の鳥居は、美濃田みのだの居留守を許す森。かつて、この町の辺りが美濃田と呼ばれていることは周知の事実であったが、子ども心ながらに居留守の意味が分からなかった。ただ、どうやら美濃田の居留守という言葉が、いつしかミノタウロスの森になったという話は聞いたことがある。

 そこは、町の大人でも近づきたがらない場所。実際のところ、入ったところでほとんど一本道であり、山肌の中腹には山小屋があったりするらしいのであるが、昔から神隠しが多く起きる場所らしく、忌み嫌われている場所でもあった。

 私は当たり前だが、ミノタウロスの森に入ったことなどない。両親から口酸っぱく言われていたし、晴れた日でも木々に囲まれて薄暗い森へと足を踏み入れようなどとは思わなかった。何よりも紫色の鳥居が不気味だったことを覚えていた。

 一体、何のためにかつてのクラスメイト――それも、仲が良かったわけでもない子から8ミリのビデオテープが送られてきたのか。そして、ミノタウロスの森が意味することはなんなのか。私は不気味さを覚えると同時に、新聞社の人間としての好奇心に襲われた。別に記事にするつもりはなかったのであるが、何か話のネタになるかもしれない。それに、気になったものは調べないと気が済まない性分の私に、そのまま8ミリビデオテープを無視することなどできなかった。

 仕事に出る時に8ミリビデオテープをバッグの中に入れ、終業ギリギリで頼まれる残業をなんとか断り、途中で夕立に降られつつ店に飛び込み、現在へといたる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

冷たい舌

菱沼あゆ
キャラ文芸
 青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。  だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。  潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。  その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。  透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。  それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...