5 / 203
プロローグ
5
しおりを挟む
「お、ちょうど空の機嫌も良くなったみたいだな」
すっきりと晴れたわけではないが、土砂降りだった雨はかなり小雨になっている。帰るのであれば今のうちだろう。
「そうね。それじゃ、これ少しの間借りるわね」
私は本田さんに手渡された紙袋を少し掲げて見せると、店の外に向かって歩き出す。そもそも、電気屋なんて目的が終わったら帰るものだ。コーヒーまで出してもらって、喫茶店気分で長居できる電気屋など、探したってそうそう見つかりはしないだろう。
「あぁ、ついでにそこにある傘を持っていくといい。また降られちゃ困るだろ?」
そう言った本田さんの視線の先には、店の自動ドアの脇に立てかけられた傘があった。単純に雨に降られるのは嫌であるが、貴重な機材をお借りするのだ。当然ながら雨に濡れるのは回避したい。ここから徒歩でも10分ちょっとで家だから、それまでの間、天候が崩れないことを祈るだけだ。もし、バケツをひっくり返したような土砂降りになったら、徒歩10分程度の道のりを、泣く泣くタクシーで帰ることになるだろう。決して、給料が良いというわけではないから余計な出費はしたくない。
「何から何までありがとうね。じゃあ、これも機材を返しにくる時に持ってくるから」
店の入り口に立てかけてあった傘を手にすると、再三の礼を言ってから店を後にする。いくら客商売だとはいえ至れり尽くせりで申しわけないような気がする。今度来る時は土産のひとつでも持ってきてあげよう。
外はすっかりと暗くなっていた。もっとも、これから夏本番ということもあり、日は落ちているにも関わらず、なぜだか辺りはほんのりと明るい気がする。もちろん、それの正体は街の明かりであったり、通りを往来する車のヘッドライトだったりするのであるが、しかしこの時期の夜というのは、真夜中になっても明るいような気がしてならない。田舎町ほどではないが、星の光が届くからなのだろう。
小ぶりの雨の中、傘をさしつつ家路を急ぐ。途中でスーパーに寄って買い物をしたかったのであるが、今日は荷物があるからやめておいた。冷蔵庫を開ければ、それなりに食材は残っていたはずであるし、こだわりさえしなければ夕食分には充分足りるはずだ。
幸いなことにマンションに到着するまで土砂降りに見舞われることはなかった。超高層の超高級マンションとまではいかないが、オートロックであり、コンシェルジュ――もとい、管理人さんもしっかりと在中のマンションだ。世の中物騒であるし、曲がりなりにも女の独り暮らしということもあり、最低限のセキュリティーが守られているところを選んだつもりだ。
すっきりと晴れたわけではないが、土砂降りだった雨はかなり小雨になっている。帰るのであれば今のうちだろう。
「そうね。それじゃ、これ少しの間借りるわね」
私は本田さんに手渡された紙袋を少し掲げて見せると、店の外に向かって歩き出す。そもそも、電気屋なんて目的が終わったら帰るものだ。コーヒーまで出してもらって、喫茶店気分で長居できる電気屋など、探したってそうそう見つかりはしないだろう。
「あぁ、ついでにそこにある傘を持っていくといい。また降られちゃ困るだろ?」
そう言った本田さんの視線の先には、店の自動ドアの脇に立てかけられた傘があった。単純に雨に降られるのは嫌であるが、貴重な機材をお借りするのだ。当然ながら雨に濡れるのは回避したい。ここから徒歩でも10分ちょっとで家だから、それまでの間、天候が崩れないことを祈るだけだ。もし、バケツをひっくり返したような土砂降りになったら、徒歩10分程度の道のりを、泣く泣くタクシーで帰ることになるだろう。決して、給料が良いというわけではないから余計な出費はしたくない。
「何から何までありがとうね。じゃあ、これも機材を返しにくる時に持ってくるから」
店の入り口に立てかけてあった傘を手にすると、再三の礼を言ってから店を後にする。いくら客商売だとはいえ至れり尽くせりで申しわけないような気がする。今度来る時は土産のひとつでも持ってきてあげよう。
外はすっかりと暗くなっていた。もっとも、これから夏本番ということもあり、日は落ちているにも関わらず、なぜだか辺りはほんのりと明るい気がする。もちろん、それの正体は街の明かりであったり、通りを往来する車のヘッドライトだったりするのであるが、しかしこの時期の夜というのは、真夜中になっても明るいような気がしてならない。田舎町ほどではないが、星の光が届くからなのだろう。
小ぶりの雨の中、傘をさしつつ家路を急ぐ。途中でスーパーに寄って買い物をしたかったのであるが、今日は荷物があるからやめておいた。冷蔵庫を開ければ、それなりに食材は残っていたはずであるし、こだわりさえしなければ夕食分には充分足りるはずだ。
幸いなことにマンションに到着するまで土砂降りに見舞われることはなかった。超高層の超高級マンションとまではいかないが、オートロックであり、コンシェルジュ――もとい、管理人さんもしっかりと在中のマンションだ。世の中物騒であるし、曲がりなりにも女の独り暮らしということもあり、最低限のセキュリティーが守られているところを選んだつもりだ。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
異国妃の宮廷漂流記
花雨宮琵
キャラ文芸
唯一の身内である祖母を失った公爵令嬢・ヘレナに持ち上がったのは、元敵国の皇太子・アルフォンスとの縁談。
夫となる人には、愛する女性と皇子がいるという。
いずれ離縁される“お飾りの皇太子妃”――そう冷笑されながら、ヘレナは宮廷という伏魔殿に足を踏み入れる。 冷徹と噂される皇太子とのすれ違い、宮中に渦巻く陰謀、そして胸の奥に残る初恋の記憶。
これは、居場所を持たないお転婆な花嫁が、自ら絆を紡ぎ、愛と仲間を得て”自分の居場所”を創りあげるまでの物語。ときに騒がしく、とびきり愛おしい――笑って泣ける、異国妃のサバイバル宮廷譚。最後はハッピーエンドです。
※本作は2年前にカクヨム、エブリスタに掲載していた物語『元敵国に嫁いだ皇太子妃は、初恋の彼に想いを馳せる』を大幅に改稿し、別作品として仕上げたものです。
© 花雨宮琵 2025 All Rights Reserved. 無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる