ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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プロローグ

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「お、ちょうど空の機嫌も良くなったみたいだな」

 すっきりと晴れたわけではないが、土砂降りだった雨はかなり小雨になっている。帰るのであれば今のうちだろう。

「そうね。それじゃ、これ少しの間借りるわね」

 私は本田さんに手渡された紙袋を少し掲げて見せると、店の外に向かって歩き出す。そもそも、電気屋なんて目的が終わったら帰るものだ。コーヒーまで出してもらって、喫茶店気分で長居できる電気屋など、探したってそうそう見つかりはしないだろう。

「あぁ、ついでにそこにある傘を持っていくといい。また降られちゃ困るだろ?」

 そう言った本田さんの視線の先には、店の自動ドアの脇に立てかけられた傘があった。単純に雨に降られるのは嫌であるが、貴重な機材をお借りするのだ。当然ながら雨に濡れるのは回避したい。ここから徒歩でも10分ちょっとで家だから、それまでの間、天候が崩れないことを祈るだけだ。もし、バケツをひっくり返したような土砂降りになったら、徒歩10分程度の道のりを、泣く泣くタクシーで帰ることになるだろう。決して、給料が良いというわけではないから余計な出費はしたくない。

「何から何までありがとうね。じゃあ、これも機材を返しにくる時に持ってくるから」

 店の入り口に立てかけてあった傘を手にすると、再三の礼を言ってから店を後にする。いくら客商売だとはいえ至れり尽くせりで申しわけないような気がする。今度来る時は土産のひとつでも持ってきてあげよう。

 外はすっかりと暗くなっていた。もっとも、これから夏本番ということもあり、日は落ちているにも関わらず、なぜだか辺りはほんのりと明るい気がする。もちろん、それの正体は街の明かりであったり、通りを往来する車のヘッドライトだったりするのであるが、しかしこの時期の夜というのは、真夜中になっても明るいような気がしてならない。田舎町ほどではないが、星の光が届くからなのだろう。

 小ぶりの雨の中、傘をさしつつ家路を急ぐ。途中でスーパーに寄って買い物をしたかったのであるが、今日は荷物があるからやめておいた。冷蔵庫を開ければ、それなりに食材は残っていたはずであるし、こだわりさえしなければ夕食分には充分足りるはずだ。

 幸いなことにマンションに到着するまで土砂降りに見舞われることはなかった。超高層の超高級マンションとまではいかないが、オートロックであり、コンシェルジュ――もとい、管理人さんもしっかりと在中のマンションだ。世の中物騒であるし、曲がりなりにも女の独り暮らしということもあり、最低限のセキュリティーが守られているところを選んだつもりだ。

 
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