ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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プロローグ

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 ――ミノタウロスの森。昔から神隠しが多く発生し、大人でも近づきたがらない忌み嫌われた場所。どうやら、カメラの向こう側にいる彼女は、これからそこに向かおうとしているようだ。

『現在、平成25年の5月5日。ゴールデンウィークの真っ最中だけど、なんだか少し損をしているような気がしてしまう夕方。もう少ししたら、集合場所に向かおうと思います』

 髪型が気に入らないのか、カメラに向かいながらも、何度も前髪をいじる朱里。よく見るとうっすらと化粧をしているようにも見える。

「えっと――平成25年ってことは、中学3年生の頃か」

 私は自分の年齢から引き算をする。今が令和4年であり、私の年齢が24歳。平成と令和の切り替わりがやや面倒であるが、今から9年前ということになる。すなわち、当時の私達は15歳になる年である。小学校4年歳以来会っていない朱里が、どこか大人びて見えるのは、中学3年生まで成長した姿を見ているからなのであろう。

『あ、もうそろそろ準備を始めなきゃ』

 そう言ってカメラの前を離れ、何やら準備を始める朱里。どうせなら一度カメラを切ってしまえばいいのに――なんて画面の向こうに対して思ったところで、どうすることもできない。画面から朱里の姿は消え、しかし荷物の用意をしているのか、何やら準備をする音だけは聞こえるという状態が続く。

『――準備をしながらで悪いけど、これを見ている人は聞いてくださーい』

 いい加減早送りしてやろうかと思い始めた頃になって、ようやく画面外から朱里の声がした。酒のつまみとしては微妙な映像であったが、ビールを片手に見守る私がいた。

『知っているかどうかは分からないけど、これから私達が行くミノタウロスの森は、地元でも有名な心霊スポットでーす。大人は絶対に近づくなって言うし、子供達は怖がって誰も近づきませーん。でも、私達もいい大人だし、きっと大人達が言ってるほど怖い場所じゃないと思うんだよねー。だから、私達でそれを証明しようと思ってまーす』

 あぁ、これは痛い。この年頃独特の大人に対する妙な対抗心と反抗心。そして、それを格好いいものだと自己陶酔できるメンタル。その一時的な衝動に駆られて、彼女はミノタウロスの森に向かうらしい。私達――と言っている辺り、おそらく複数人で行くのだろうが。

 この時の私は、まだ微笑ましくビデオの映像を眺めることができた。ビールを片手に料理をつまみつつ……。これがミノタウロスの森で起きた惨殺事件の記録であり、私もまた時を経てその狂気に巻き込まれてしまうことを、まだ知るよしもなかった。
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