ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【過去 赤松朱里】

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 そうだ。どうせならば、出発前の挨拶みたいなものをしてみよう。後になって、これを誰かに見せる予定はない。数年後になって、ニヤニヤとしながら、当時のことを思い出しつつ再生することがあるかないかくらいだ。もしかして撮影するだけ撮影して、一度もテープを見返さないことだってあり得る。このハンディカムビデオカメラは、記録のために持ち出すのではない。雰囲気作りのためだ。

 机の上に置いてテープを回してみる。カメラに向かって簡単に挨拶をして、これから自分がどこに向かうのかなどを説明する。ついでに今日の日付なんかも入れてみて、それっぽいドキュメンタリーっぽくしてみる。

 ようやく日がゆっくりと落ちてきており、空は昼から夕方、夕方から夜へと移り変わりつつある。集合予定時間は午後の7時半。比較的、ミノタウロスの森の近くにある公民館にて集合することになっていた。

 撮影したテープを巻き戻して再生してみる。小さな液晶画面には、画面の外に向かって話しかける自分がいるわけだが、なんだか自分のように思えなかった。自分で思っている声質と、こうして記録媒体で録った時の声質が異なって聞こえているからだろうか。

 とりあえずハンディカムビデオカメラは正常に動くことが確認できた。何度も確認したが、荷物も問題なし。後は時間が来るのを待つだけである。少し早いが、夕食をさっさと食べてしまおうか。そう考えて、朱里はふと思いつく。

「あ、ちょっとしたお菓子とか持って行ったほうがいいか」

 朱里は自分の部屋の押し入れの中からお菓子を取り出す。ここは秘密の空間であり、お小遣いなどで買ったお菓子をストックしておくところである。チョコレートに飴玉。スナック菓子などをリュックに詰め込んだ。

 さて、腹が減ってはなんとやら。少し早いが夕食を食べてしまおう。本当ならば、親と一緒に食べるのであるが、今日ばかりは特別だ。すでに台所では母親が夕食を作り始めているようだし、今夜外出する旨を伝えるのも兼ねて、早めの夕食としよう。

 下に降り、母親に今夜のことを伝える。もっと早く言いなさい――と怒られはしたが、やはり昼間の働きが認められたのか、一発でオッケーをもらえた。ついでに卵焼きとウインナーをさっと焼いてもらい、それをおかずにして晩御飯を済ませた。父親のほうは、まだ作業小屋のほうで農機具を構っているのだろう。まぁ、母親に許可をもらったから問題はないが。
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