ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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「あっ、その――」

 まさか、こんな廃校に人が……しかも警察の人が来るなんて思っていなかった私は、とっさに8ミリのビデオテープを背中の後ろに隠す。

「駄目だよ。一応、ここは市の持ち物ってことになってんだから。前庭に見慣れない車が停まってる――なんて通報受けたから来てみたらこれだ。困るよ。あのね、ここは心霊スポットでもなんでもねぇの」

 警察官が近づいてくるにつれて顔がはっきりと見える。外から差し込んだ自然の明かりが照らし出したのは、私と同じか……もしくは少し年上くらいの男性の顔だった。なまりが強い独特のイントネーションは、この辺りのおじいちゃんやおばあちゃんの喋り方そのものだった。幼い記憶ながら、なんだか懐かしさがある。

「あの、すいませんでした。すぐに出ますので」

 とにかく、ここで警察なんてものに拘束されてしまっては、どれだけ時間を浪費するか分からない。急ぐ必要もないが、しかし8ミリビデオテープの中身が気になっていた私は、謝って学校を後にしようとした。8ミリビデオテープは小さく、どさくさに紛れて衣服のポケットの中に突っ込むことができた。

「いや、ちょっと待ってよ。通報があった以上、こっちも報告っちゅうもんをせねばならん。すぐそこだから、駐在所寄ってもらうよ」

 手錠こそかけなかったが、私の手を強く掴んだ警察官。自然と大きな溜め息が出てしまった。さっそく、田舎の洗礼を受けてしまったようだ。都会ならば、例え廃校の前庭に車が停まっていたとしたも、簡単に警察に通報したりはしないだろう。けれども、田舎ともなればそうもいかない。日常に少しでも変化があろうものなら、問答無用でこの有様だ。きっと、駐在という形で、都会よりも警察との距離が近いのも、その要因であろう。

「あの、ちょっと急ぐので――」

 なんとか抵抗してはみたものの、しかし警察官は首を横に振るばかり。ただ、それには田舎特有の理由があったらしい。

「あんた、見慣れない顔だから知らないかもしれないけど、田舎ってのは良くも悪くも監視社会なの。だから形だけでもあんたを駐在所まで連れていかなきゃいけねぇ。これがセンター経由で通報されたものだったら、本当に報告やら面倒なことせんばならんけど、俺の家に直接電話がかかってきただけだから。形だけ同行してもらえば、すぐに解放すっから。な?」

 その言葉を聞いて安堵の溜め息が漏れる。すなわち、警察官は地域に対して取り繕えればいいと言っているのだ。この田舎では、直接家にかかってきた電話だとしても、対応した素振りを見せないと、すぐに噂が広がったりするのだろう。
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