ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第二章 動き出す狂気【過去 宝田羽衣】

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「いや、やっぱりみんなが来るまで待とう。見た感じ中は真っ暗だし、迷ったらやばいよ」

 一度は中に入るとまで言い出した谷だったが、鳥居の向こう側に恐怖を感じたのか、自ら前言撤回を行う。おだてて、そのまま森の中で二人きりになる作戦は、早速頓挫しつつあった。

「大丈夫だって。それにほら、これもあるし」

 羽衣はそう言うと、自分の手荷物の中から懐中電灯を取り出した。別に万全の準備をしてきたわけではないが、まさか谷が手ぶらでやってくるとは思っていなかった。なんだか、少しずつであるが、谷の悪いところが見えてきている。それをなんとか挽回して欲しいところだ。片想いしていた日々が無駄になる。

 懐中電灯を手渡された谷は、小さく「お、おぅ」と呟き、懐中電灯を点けて鳥居の向こう側を照らしてみる。限定的な範囲しか照らさない光の輪が、鬱蒼とした木々を照らし出した。もちろん、地面は舗装などされておらず、獣道のようなものが続いている。

「――もうしばらくすれば、他のみんなも来るだろうし、そんなに入り口から離れなければ大丈夫だって。逆に、ここで待ってるほうが怖くない? 近所の人がここの前を通らないって保証はないわけだしさ」

 この辺りは田畑が広がっているだけで、夜になると人の気配が一切消えてしまう。まず間違いなく、車が通ったりはしないのであるが、しかし万が一ということは充分にあり得るし、谷の様子を見ていると、こうでも言わなければ動かなそうだ。これ以上、幻滅させないで欲しい。

「そ、それもそうだな。よし、行こう」

 これでも尻込みしていたら、さすがに格好悪いと思ったのであろう。懐中電灯の光の輪は少しばかり左右にぶれてはいたが、しかし谷は覚悟を決めたらしい。谷と二人きりになれるのであれば、何でも構わない羽衣からすれば、ミノタウロスの森など恐るるに足りぬ。

 こうして、ようやくミノタウロスの森へと足を踏み入れることになった羽衣と谷。もちろん谷が先頭となり、辺りを無駄に懐中電灯で照らしてから、その記念すべき第一歩を踏み出した。羽衣は両手を谷の背中にそえながら鳥居をくぐる。

 当たり前だが、まだ振り返れば引き返すことも可能だ。それを阻止しようと、羽衣は谷の背中をやや強めに押していた。

 一歩、また一歩と進むと、とうとう月明かりさえ届かなくなってしまった。木々が鬱蒼と生い茂り、まるでトンネルを形成しているかのようだ。ミノタウロスの森に飲み込まれたような感覚。
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