ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第三章 惨殺による惨殺【過去 高田富臣】

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 ミノタウロスの森へと肝試しに行く。グループ内でその話を出した時、誰よりも食いついたのは朱里だった。子供の頃から禁忌とされている場所に足を踏み入れるのだ。この辺りで育った子供からすれば、おそろしさの反面で好奇心が勝ってしまうような場所でもあった。誰もが一度は、ミノタウロスの森に入ってみたいと思ったことがあるだろう。

 こうして、肝試しを企画しておきながら、いざ当日になったら、待ち合わせの場所には誰も来ない。朱里のことだから、この程度で帰ったりはしないだろう。誰も来ないという事実をポジティブな方向へと思考するはずだ。そして、例え一人であったとしても、ミノタウロスの森に入ろうとするはず。

 こちらは小屋の中で朱里の動きを見守ってやろうという思惑だ。幸いなことに、ミノタウロスの森の周囲には多少の街灯が設置してあるし、いざミノタウロスの森に入ろうとすれば、朱里が持つ明かりが見えるはず。それにくわえて、人間というものは暗闇に慣れる生き物だ。幸いなことに、自転車ですっ転ぶ朱里の姿を拝むことができた。シルエットだけであるが、この時間帯にミノタウロスの森付近まで自転車でやって来るような奴は、朱里くらいしかいない。

「ねぇ、これからどうするの? あいつがミノタウロスの森から出てくるまで待つ?」

 由美香の言葉に茜が冗談混じりに言った。

「でも、もう二度と出てこれないかもしれない。神隠しに遭ってさ――」

 それを鼻で笑ったのは鏑木だった。

「神隠しってのは、そのほとんどが大型の鳥の仕業だ。小さい子を狙って上空からさらうわけだ。それを捕食するなんて話さえある。人が勝手に行方をくらますなんてことは迷信にすぎない」

 どこか冷静で、どこか現実主義。由美香と茜の言葉を一蹴した鏑木。そのクールなルックスにくわえ、高田と仲が良いという条件がなければ、このグループから追放されていたかもしれない。

「だったら試してみるか? ついでに、朱里をびびらせてやろうぜ。ミノタウロスの森なんて、単なる森に過ぎないんだからよ。なぁ、俺達も入ってみようぜ」

 それは高田の自己アピール――顕示欲のようなものだったのかもしれない。自分はミノタウロスの森なんてものに恐怖を抱かない。そんな誰も得しないようなアピール。けれども、思春期の男ならば、誰でもアピールしがちな顕示欲。

「えー、あそこに入るような格好をしてきてないから」

 苦言を呈したのは、ヒールの高いパンプスを履き、しかもミニスカートの由美香だった。
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