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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】
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「まぁ、それでいいなら――」
大和田は苦笑いを浮かべつつ、電話の受話器を手に取る。受話器を耳に当ててダイヤルボタンを押すと、しばらくしてから口を開いた。
「あ、どうも駐在の大和田です。えっと、チャーシュー麺、中盛りと大盛り。それと餃子を3人前で。ん? あー、そうそう。今日はお客さんがきてるんだ。うん、いつも通りの時間で頼みます」
かなりフランクな感じで注文をする大和田。中盛り――という選択があるなら、それを勧めてくれても良かったのに。
「これでよし。じきに来ると思うから、ちょっと休まないか? ずっと画面を見つめたままじゃ、目が疲れるだろうに」
確かに、何度かリピートしているうちに、目は疲れを訴え始めた。表面が乾き、まばたきの数が嫌でも増える。それでも私は画面と向き合っていた。きっと、大和田に声をかけられなければ、まだ画面との睨めっこを続けていたことだろう。
正直なところ、やるべきことが見えてこなかった。ビデオテープを探し出すのはいいとして、そもそもの目的が不明であるため、どの方向に進んでいいのか分からなかったのである。こうしている今だって、このままビデオテープを探し回って何になるのだろうかと思う。ミノタウロスの正体を暴いて、だから何になるというのか。
とりあえず有給休暇はたっぷりとってある。けれども、私は心のどこかで後悔を始めていた。テープを探したところで、中身は年頃の男女がそれぞれミノタウロスの森に肝試しに向かうというものばかり。作り物であるような感覚も払拭できていないから、なおさらに何をやっているのだろうという虚無感に襲われる。
――まだ初日である。まだ初日であるにも関わらず、私は進むべき方向を失いそうになっていた。
私にビデオテープを送りつけた本人の意図が分からない。意図が分からないから、なにをするべきなのかも分からない。
例えば、1週間以内に謎を解き明かさねば、呪われて死んでしまう――とか、そんな余計な設定でもあってくれたほうが、まだ本腰が入るというものだ。
なんというか、緊張感がない。いつでもやめて帰ろうと思えば帰ることができる状況に私はいて、だからこそビデオテープ探しも、ミノタウロスの正体を考えることも、なんだか面倒になりつつある。
ここまま全てを放り投げて帰ったところで、私に不利益はないだろう。そして、根拠よくビデオテープを探して回り、ミノタウロスの正体を突き止めたとしても、私に利益はない。
大和田は苦笑いを浮かべつつ、電話の受話器を手に取る。受話器を耳に当ててダイヤルボタンを押すと、しばらくしてから口を開いた。
「あ、どうも駐在の大和田です。えっと、チャーシュー麺、中盛りと大盛り。それと餃子を3人前で。ん? あー、そうそう。今日はお客さんがきてるんだ。うん、いつも通りの時間で頼みます」
かなりフランクな感じで注文をする大和田。中盛り――という選択があるなら、それを勧めてくれても良かったのに。
「これでよし。じきに来ると思うから、ちょっと休まないか? ずっと画面を見つめたままじゃ、目が疲れるだろうに」
確かに、何度かリピートしているうちに、目は疲れを訴え始めた。表面が乾き、まばたきの数が嫌でも増える。それでも私は画面と向き合っていた。きっと、大和田に声をかけられなければ、まだ画面との睨めっこを続けていたことだろう。
正直なところ、やるべきことが見えてこなかった。ビデオテープを探し出すのはいいとして、そもそもの目的が不明であるため、どの方向に進んでいいのか分からなかったのである。こうしている今だって、このままビデオテープを探し回って何になるのだろうかと思う。ミノタウロスの正体を暴いて、だから何になるというのか。
とりあえず有給休暇はたっぷりとってある。けれども、私は心のどこかで後悔を始めていた。テープを探したところで、中身は年頃の男女がそれぞれミノタウロスの森に肝試しに向かうというものばかり。作り物であるような感覚も払拭できていないから、なおさらに何をやっているのだろうという虚無感に襲われる。
――まだ初日である。まだ初日であるにも関わらず、私は進むべき方向を失いそうになっていた。
私にビデオテープを送りつけた本人の意図が分からない。意図が分からないから、なにをするべきなのかも分からない。
例えば、1週間以内に謎を解き明かさねば、呪われて死んでしまう――とか、そんな余計な設定でもあってくれたほうが、まだ本腰が入るというものだ。
なんというか、緊張感がない。いつでもやめて帰ろうと思えば帰ることができる状況に私はいて、だからこそビデオテープ探しも、ミノタウロスの正体を考えることも、なんだか面倒になりつつある。
ここまま全てを放り投げて帰ったところで、私に不利益はないだろう。そして、根拠よくビデオテープを探して回り、ミノタウロスの正体を突き止めたとしても、私に利益はない。
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