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第四章 ミノタウロスはいる【現在 七色七奈】
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「――見ないほうがいい」
もう少し早く言って欲しかった。もう手遅れなのに。
鳥居の梁に太いロープが結びつけられており、そのロープの先端は輪っかになっている。そして、輪っかの中には人の顔がぴたりと嵌っており、ぶらぶらと小刻みに左右に揺れていた。その格好――そして、すっかり生前のものとは異なるが、その顔は紛れもなく湯川智昭のものだった。鳥居の近くには、後ろにオカモチを乗せたバイクが停まっていた。確か、スーパーカブとかいう名前のバイクだったはずだ。
「みなさん! 離れてくださーい! 駐在です。ここから離れて速やかにご帰宅願いまーす!」
大和田は私を置いて、人混みの中へと消えて行く。しかしながら、やはり元は他所の人間であるというレッテルがあるからだろう。誰も大和田の声に従おうとはしない。それどころか、遺体を手分けして降ろそうとしているようだった。
「駐在さん。この森の近くで起きることについては、ここらに昔から住んでる者に任せたらいい」
ここに集まっているのは、当然ながら近所の人達なのであろう。その中でも、特別に威厳を持った雰囲気の男が大和田に言う。もちろん、大和田だって簡単には引き下がれない。
「しかしですね。本部から応援も来ますし、ここから先は警察の仕事――」
「駐在さん。ここで生きていくためにはの、関わらなくていいものに関わらないようにする必要がある。特にこの森は……他所者が近づいていい場所じゃねぇ!」
男に凄まれた大和田は、さすがに少しばかり後退る。
「大体、誰なんだ……駐在なんかに通報を入れたやつは」
男の苛立ちが、今度は一緒にいる男達に向けられる。知らないとばかりに誰もが首を横に振った。いや、人が首を吊って、どう見ても死んでいるのだ。警察に通報を入れるのが当たり前なのではないだろうか。
「まぁ、いい。駐在さん。本部の人達が応援に来るんだかなんだか知りませんけどね、この森には近づけないでくださいよ。もし、ここで騒ぎでも起こしてみな。もうここにはいられなくなるから」
大和田は呆気に取られたようだった。それは私も同じだった。つまりは、事件沙汰にするな――ということなのだろうか。
「ここを離れよう。なんだか、嫌な予感がする」
大和田は私にだけ聞こえるように呟くと、その引きつった表情に無理矢理笑顔を浮かべる。
「わ、分かりました。本部のほうには誤報だったと報告しておきますので」
もう少し早く言って欲しかった。もう手遅れなのに。
鳥居の梁に太いロープが結びつけられており、そのロープの先端は輪っかになっている。そして、輪っかの中には人の顔がぴたりと嵌っており、ぶらぶらと小刻みに左右に揺れていた。その格好――そして、すっかり生前のものとは異なるが、その顔は紛れもなく湯川智昭のものだった。鳥居の近くには、後ろにオカモチを乗せたバイクが停まっていた。確か、スーパーカブとかいう名前のバイクだったはずだ。
「みなさん! 離れてくださーい! 駐在です。ここから離れて速やかにご帰宅願いまーす!」
大和田は私を置いて、人混みの中へと消えて行く。しかしながら、やはり元は他所の人間であるというレッテルがあるからだろう。誰も大和田の声に従おうとはしない。それどころか、遺体を手分けして降ろそうとしているようだった。
「駐在さん。この森の近くで起きることについては、ここらに昔から住んでる者に任せたらいい」
ここに集まっているのは、当然ながら近所の人達なのであろう。その中でも、特別に威厳を持った雰囲気の男が大和田に言う。もちろん、大和田だって簡単には引き下がれない。
「しかしですね。本部から応援も来ますし、ここから先は警察の仕事――」
「駐在さん。ここで生きていくためにはの、関わらなくていいものに関わらないようにする必要がある。特にこの森は……他所者が近づいていい場所じゃねぇ!」
男に凄まれた大和田は、さすがに少しばかり後退る。
「大体、誰なんだ……駐在なんかに通報を入れたやつは」
男の苛立ちが、今度は一緒にいる男達に向けられる。知らないとばかりに誰もが首を横に振った。いや、人が首を吊って、どう見ても死んでいるのだ。警察に通報を入れるのが当たり前なのではないだろうか。
「まぁ、いい。駐在さん。本部の人達が応援に来るんだかなんだか知りませんけどね、この森には近づけないでくださいよ。もし、ここで騒ぎでも起こしてみな。もうここにはいられなくなるから」
大和田は呆気に取られたようだった。それは私も同じだった。つまりは、事件沙汰にするな――ということなのだろうか。
「ここを離れよう。なんだか、嫌な予感がする」
大和田は私にだけ聞こえるように呟くと、その引きつった表情に無理矢理笑顔を浮かべる。
「わ、分かりました。本部のほうには誤報だったと報告しておきますので」
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