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第四章 ミノタウロスはいる【過去 鏑木孝義】
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焦っている様子の茜。間違いである可能性を否定できずにいる鏑木。その迷いを打ち消すかのごとく、今一度同じようなトーンで、悲鳴らしきものが聞こえた。しかも、確実にそれが人間の発したものだと分かるように。
「今、間違いなく【助けて】って言ってたよね?」
不安からなのか、茜の距離が自然と近くなる。もちろん、下心なんてものは一切なしだ。
「あぁ、確かに聞こえたな。――行こう」
誰がどう聞いても、今しがたの悲鳴には日本語が含まれていた。それを聞いておきながら無視することはできない。何が起きているのかは分からないが、せめて由美香達を置いてきた場所までは戻らないと。
必然的に鏑木が先頭になり、それに茜が続く形でミノタウロスの森へと入る。ついさっきまで、お化け屋敷感覚で足を踏み入れていた場所であるはずなのに、急に周囲の空気が重く、そして冷たくなったような気がした。
由美香達を置いてきた場所までは基本的に一直線だ。当たり前だが、迷ったりはしない。もっとも、両脇に生い茂る木々の向こう側となると話は変わってくるのだが。とにもかくにも、一本道を進む。ひたすらに進む。
現場――と表現するのはおかしいかもしれない。とにかく、由美香達を置いてきた場所までは戻った。しかし、辺りを見回しても、由美香の姿はもちろんのこと高田の姿もない。
「――もしかして、先に進んだのか?」
由美香の目的はあくまでも高田と二人きりになることであって、ミノタウロスの森自体に興味などないはず。ゆえに、ここから移動すること自体に何のメリットもないはずだ。しかしながら、高田と由美香の姿はどこにも見受けられない。
「え、でも……別にこれ以上奥に行く必要もないと思わない?」
茜の言っていることはおおむねで正しい。別に男女がどうこうという話であれば、わざわざ森の奥へと向かう必要はない。
「茂みのどこかに身を隠しているとか、そんな辺りだろうと思うけど」
鏑木はまだ認めていなかった。まだ受け入れていなかった。先ほどの悲鳴が、尋常ではない事態を告げているというのに。
「高田! 依田! いたら返事をしろ!」
暗闇の中に向かって叫んでみるが、しかし虚しく響いただけだった。返事はない。
「――ねぇ、これってやばいんじゃない? 大人達とか呼んできたほうが良くない?」
茜はパニックに陥っているようで、鏑木の腕へと痛いほどに抱きついてくる。震える彼女が、女としての打算的な行動に出ているとは思えなかった。
「今、間違いなく【助けて】って言ってたよね?」
不安からなのか、茜の距離が自然と近くなる。もちろん、下心なんてものは一切なしだ。
「あぁ、確かに聞こえたな。――行こう」
誰がどう聞いても、今しがたの悲鳴には日本語が含まれていた。それを聞いておきながら無視することはできない。何が起きているのかは分からないが、せめて由美香達を置いてきた場所までは戻らないと。
必然的に鏑木が先頭になり、それに茜が続く形でミノタウロスの森へと入る。ついさっきまで、お化け屋敷感覚で足を踏み入れていた場所であるはずなのに、急に周囲の空気が重く、そして冷たくなったような気がした。
由美香達を置いてきた場所までは基本的に一直線だ。当たり前だが、迷ったりはしない。もっとも、両脇に生い茂る木々の向こう側となると話は変わってくるのだが。とにもかくにも、一本道を進む。ひたすらに進む。
現場――と表現するのはおかしいかもしれない。とにかく、由美香達を置いてきた場所までは戻った。しかし、辺りを見回しても、由美香の姿はもちろんのこと高田の姿もない。
「――もしかして、先に進んだのか?」
由美香の目的はあくまでも高田と二人きりになることであって、ミノタウロスの森自体に興味などないはず。ゆえに、ここから移動すること自体に何のメリットもないはずだ。しかしながら、高田と由美香の姿はどこにも見受けられない。
「え、でも……別にこれ以上奥に行く必要もないと思わない?」
茜の言っていることはおおむねで正しい。別に男女がどうこうという話であれば、わざわざ森の奥へと向かう必要はない。
「茂みのどこかに身を隠しているとか、そんな辺りだろうと思うけど」
鏑木はまだ認めていなかった。まだ受け入れていなかった。先ほどの悲鳴が、尋常ではない事態を告げているというのに。
「高田! 依田! いたら返事をしろ!」
暗闇の中に向かって叫んでみるが、しかし虚しく響いただけだった。返事はない。
「――ねぇ、これってやばいんじゃない? 大人達とか呼んできたほうが良くない?」
茜はパニックに陥っているようで、鏑木の腕へと痛いほどに抱きついてくる。震える彼女が、女としての打算的な行動に出ているとは思えなかった。
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