115 / 203
第四章 ミノタウロスはいる【過去 鏑木孝義】
4
しおりを挟む
「これから大人を呼ぶにしても、どれだけ時間がかかる? それに、親にミノタウロスの森に行ったってバレてみろ。後で馬鹿みたいに叱られるぞ」
茜は泣き出しそうな声で「でも……」と漏らす。彼女を落ち着かせるために――いいや、自分が落ち着くために、高田でも由美香でも構わない。どちらかの無事を確認したいところだ。
「高田! 依田っ! お願いだから返事をしてくれ!」
もう一度だけ暗闇の中に声を投げてみたが、しかし虚しく、それは闇の中へと堕ちていっただけだ。
茜の腕をなかば無理矢理に振り解くと、近場の茂みを片っ端から探し始めた。きっと、あいつらのことだ。どこかに隠れて、こちらの反応を楽しんでいるなんてことも充分にあり得る。いいや、そう考えるのが現実的なのではないだろうか。
由美香が悲鳴を上げるような事態に陥ってしまっていると考えるより、高田と共謀しての悪戯だと考えたほうが、まだ現実的である。
「細川、お前も黙って見ていないで手伝え」
茂みをかき分けると、その向こう側を覗く。時にはわざわざ回り込んで茂みの向こう側へと立ってみる。しかし、高田は見つからない。由美香も見つからない。そして、茜からの返事もない。
「おい、細川――」
振り返った鏑木は、その光景に息を飲んだ。頭の回転が追いつかず、何が起きているのか理解できない。
茜は確かにそこにいた。それこそ、鏑木が腕を振り解いた辺りに突っ立っていた。けれども、何かがおかしいのだ。茜は何かを訴えるかのごとく、口をパクパクと動かしている。動かしてはいるが、それに声が伴っていない。
――何よりも驚くべきは、彼女の頭から何かが生えていた。恐る恐ると、懐中電灯の明かりを向ける。
それが小ぶりの斧だと分かったのは、ちょうど茜の頭からそれが引き抜かれたからだった。
「ほっ、細川っ!」
脳天を斧でかち割られた茜の頭からは、まるで噴水のごとく血が勢い良く流れ出す。彼女は顔を血まみれにしながら、ゆっくりと前へと倒れ込んだ。
誰がどう見たって明らかだ。茜は死んでいる。かつて茜だったものは、単なる魂の容器に過ぎず、その魂を失ってしまった今となっては、単なるタンパク質の塊と化していた。
その場に尻もちをついてしまった鏑木は、生まれて初めて知る。腰が抜ける――という慣用句の意味を。力を入れようにも力が入らない。まるで立ち上がることができないのだ。
倒れ込んだ茜の向こう側に、ゆらりとうごめく影が見えた。その影は、ついさっきまで茜の脳天に刺さっていた斧を持っていた。
茜は泣き出しそうな声で「でも……」と漏らす。彼女を落ち着かせるために――いいや、自分が落ち着くために、高田でも由美香でも構わない。どちらかの無事を確認したいところだ。
「高田! 依田っ! お願いだから返事をしてくれ!」
もう一度だけ暗闇の中に声を投げてみたが、しかし虚しく、それは闇の中へと堕ちていっただけだ。
茜の腕をなかば無理矢理に振り解くと、近場の茂みを片っ端から探し始めた。きっと、あいつらのことだ。どこかに隠れて、こちらの反応を楽しんでいるなんてことも充分にあり得る。いいや、そう考えるのが現実的なのではないだろうか。
由美香が悲鳴を上げるような事態に陥ってしまっていると考えるより、高田と共謀しての悪戯だと考えたほうが、まだ現実的である。
「細川、お前も黙って見ていないで手伝え」
茂みをかき分けると、その向こう側を覗く。時にはわざわざ回り込んで茂みの向こう側へと立ってみる。しかし、高田は見つからない。由美香も見つからない。そして、茜からの返事もない。
「おい、細川――」
振り返った鏑木は、その光景に息を飲んだ。頭の回転が追いつかず、何が起きているのか理解できない。
茜は確かにそこにいた。それこそ、鏑木が腕を振り解いた辺りに突っ立っていた。けれども、何かがおかしいのだ。茜は何かを訴えるかのごとく、口をパクパクと動かしている。動かしてはいるが、それに声が伴っていない。
――何よりも驚くべきは、彼女の頭から何かが生えていた。恐る恐ると、懐中電灯の明かりを向ける。
それが小ぶりの斧だと分かったのは、ちょうど茜の頭からそれが引き抜かれたからだった。
「ほっ、細川っ!」
脳天を斧でかち割られた茜の頭からは、まるで噴水のごとく血が勢い良く流れ出す。彼女は顔を血まみれにしながら、ゆっくりと前へと倒れ込んだ。
誰がどう見たって明らかだ。茜は死んでいる。かつて茜だったものは、単なる魂の容器に過ぎず、その魂を失ってしまった今となっては、単なるタンパク質の塊と化していた。
その場に尻もちをついてしまった鏑木は、生まれて初めて知る。腰が抜ける――という慣用句の意味を。力を入れようにも力が入らない。まるで立ち上がることができないのだ。
倒れ込んだ茜の向こう側に、ゆらりとうごめく影が見えた。その影は、ついさっきまで茜の脳天に刺さっていた斧を持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
異国妃の宮廷漂流記
花雨宮琵
キャラ文芸
唯一の身内である祖母を失った公爵令嬢・ヘレナに持ち上がったのは、元敵国の皇太子・アルフォンスとの縁談。
夫となる人には、愛する女性と皇子がいるという。
いずれ離縁される“お飾りの皇太子妃”――そう冷笑されながら、ヘレナは宮廷という伏魔殿に足を踏み入れる。 冷徹と噂される皇太子とのすれ違い、宮中に渦巻く陰謀、そして胸の奥に残る初恋の記憶。
これは、居場所を持たないお転婆な花嫁が、自ら絆を紡ぎ、愛と仲間を得て”自分の居場所”を創りあげるまでの物語。ときに騒がしく、とびきり愛おしい――笑って泣ける、異国妃のサバイバル宮廷譚。最後はハッピーエンドです。
※本作は2年前にカクヨム、エブリスタに掲載していた物語『元敵国に嫁いだ皇太子妃は、初恋の彼に想いを馳せる』を大幅に改稿し、別作品として仕上げたものです。
© 花雨宮琵 2025 All Rights Reserved. 無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる