ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【過去 赤松朱里】

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「この先に山小屋を見つけた。とりあえずそこまで向かおう」

 湯川が言い、それに従って朱里は頷いた。ロープはきっと、そこで調達したに違いない。湯川と夏帆の後に続こうと足を踏み出した時、ふと耳に違和感があった。

「――今、何か聞こえなかった?」

 朱里の言葉に足を止める湯川と夏帆。両名は顔を見合わせて首を傾げる。

「いや、特に何も聞こえなかったが――」

 そんなはずはない。確かにこの耳には聞こえたのだ。女性の悲鳴のようなものが。しかし、それを言い出すと、いつものように空気が読めないということになってしまうかもしれない。だから、あえて自分の意見を引っ込めた。

 それに、そんなことを言ってしまったら、中断して帰宅する流れになってしまうかもしれない。それは、なんとしてでも避けたかった。わざわざビデオカメラまで引っ張り出してきたのだ。せめて、記録にしっかりと残せるものを、それなりに残さねば。

 もし、すごいものが撮れたら、投稿物のテレビ番組に投稿してやろう。きっとものすごい反響となるだろう。これを全国に向けて発信できるような仕組みがあればいいのに。

 ハンディカムビデオが世に普及してしばらく。まさかこの時、ようやく世に出ようとしつつあった携帯電話が、後にハンディカムビデオと同様の役割を果たすことになるだろうとは、誰が予測できたことだろうか。

 湯川達についていくことしばらく。いかにもといった感じの山小屋が姿を現した。森が途切れたのは、ほんの少しの間だけで、山小屋は木々の枝に包まれるようにして、その場に佇んでいた。

「それにしても妙だな。みんな、俺達より先に行ったはずなのに、誰かがここにきた形跡がない」

 湯川は山小屋を見上げながら呟いた。つられて山小屋を見上げてみる。確かに、先に誰かが足を踏み入れたような形跡は残されていない。

「となると、どこかでばったり会っていてもおかしくないってことだよね?」

「あぁ、基本的にここまでは一本道だ。もちろん、わざとルートを外れてしまえば、俺達とすれ違うこともあり得るが――ごく普通に考えれば、俺達とは必ずどこかで合流するはずなんだ」

 しかしながら、実際のところ朱里達は誰とも合流していなかった。この状況は明らかにおかしかった。

「先に来た人達がルートを外れたってこと?」

 朱里の言葉を間髪入れずに拾い上げる湯川。夏帆は不安げな表情を浮かべている。

「その通りだな。少なくとも、俺達は正規のルートからは外れていないだろうから、あちらがルートを外れたと考えるべきだ」
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