ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第四章 ミノタウロスはいる【過去 赤松朱里】

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 本当にそう思ってるのだろうか。だって、ここまでのルートは基本的に一本道。ルートを外れるにしても、意図的に藪の中にでも入って行かない限り、それは不可能に近い。すなわち、単純に別のルートに向かうためには、心理的、物理的な障害が発生するのだ。

「それって、意図的にルートから外れたって考えるべきなのかな?」

 別働隊は他のルートを選択した。それゆえに、自分達とはすれ違いにならなかった。湯川の推測があまりにもお粗末で、どうにも着地点として納得できない朱里は、あえて湯川に疑問を投げかける。

「意図的じゃなければ、必ず俺達とすれ違うはずなんだよ。ここまでのルートを見る限り、わざとルートを外れようとでもしない限り、別ルートへ入ることはありえない。意図的じゃなくても、何かしらの理由で別ルートに向かわざるを得なくなったのかもしれない」

 湯川の言っていることは、そのほとんどが憶測というやつである。確証があって言ってることは皆無と言えよう。

「本当にそうだとしたらどうする? 助けに向かったほうがいいんじゃない?」

 ルートを変更せざるを得ない理由。それは様々かもしれないが、その理由を考えれば、助けにいかなければならない状況であることは明白だろう。

 それなのに、何を湯川は呑気なことを言っているのか。

「赤松。お前の言いたいことは分からなくはない。ただ、現状から推察して、そんな理由でお前達にリスクを背負わせたくないんだ。この森がどれだけ広いのか分からないし、どこに危険が潜んでいるかも分からない。少しルートを外れたら、その先が渓谷ってことだって充分にあり得るんだよ。だから、今は正規のルート以外を探索するわけにはいかないんだ」

 そう言う湯川にビデオカメラを向けると、本人は少し嫌そうな顔をして、カメラに手をかざした。

「赤松、お前は迷わないように周囲を撮影してくれればいい。俺を撮る必要はない」

 湯川は極めて冷静だった。そして、幼馴染の夏帆は、湯川がこのような時に頼りになることを知っているのだろう。こんな状況なのに、随分と余裕がありそうだ。

「それじゃあ、改めて山小屋の中で話し合おう。もし、他の連中が見つからなかったら、大人達に助けを求めなければならないからな」

 大人に助けを求める。それはすなわち、親からこっぴどく叱られることを意味する。だからミノタウロスの森には行くなと言ったはずだ――なんて叱責されるに違いない。
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