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第五章 時を越えた禁忌【過去 湯川智昭】
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渓流なんて大層なことが書いてあったから、てっきりそれなりの川幅があるものだと思っていた。けれども、よくよく考えてみれば、大きな川であれば、その川は集落のほうにも流れるわけだ。しかしながら、あるのは農業用の水路程度であり、自然にできた川なんて、見たことがなかった。そもそも、仮に山の頂上のほうから水が湧いているとして、中腹辺りでそれが大きな流れになるわけがない。ゆえに――湯川の足元には、わずか一歩でまたげてしまうほどの川が出現したわけだ。
「なるほど、これは随分と立派な渓流だ」
川幅は言うまでもなく、また川底も目視で確認できる程度の、小川になる前のせせらぎ。山小屋に地図を残した人間は、果たして渓流の意味を知っているのだろうか。もっとも、その勘違いのおかげで、ようやく山小屋へと引き返せそうだ。
念のために川の向こう側を照らしてみる。残念なことに先が見通せるほどの規模ではないらしく、遥か向こうまで闇が続いていた。この先に先行隊が向かったのであれば、もう湯川にできることはない。とりあえず渓流に危険はないと分かった以上、山小屋へと引き返すべきだ。
いや、この森から出るべきだろう。現状、何かをされたというわけでもないし、何かが出たというわけでもない。けれども、やはり大人達が口を酸っぱくして、この森に近づくことを咎めるのには、やはりそれなりの理由があるのだ。子どもだからまだ分からないだけであり、その理由だって大人になったら理解できるのかもしれない。
渓流は全くもって安全だ。うっかり足を滑らせてしまっても、せいぜい転んだところが、水のせせらぎにさらされて濡れる程度。命までは奪われない。そして、それは昼夜問わず同じこと。夜だから特別危ないということはない。元より危険性が低いのだから当然だ。
湯川はあえて渓流と呼ばれた川をまたぐと、改めて元いた場所へと戻る。この渓流に橋なんてあるわけがない。わずか一歩で対岸へと行ける河川に、誰が橋などかけるだろうか。
「――まぁ、こんな程度だよな。いざ蓋を開けてみると」
独り言を呟く湯川であるが、その言葉には間違いなく安堵が混じっていた。期待外れ――だなんて微塵も思っていない。リスクを回避することができたし、先行隊に報せるような危険は見当たらない。
湯川は踵を返し、山小屋に向かって歩き出した。一度は通った道だからか、それとも緊張の糸が切れてしまったのか、帰りのほうが気は楽だった。
「なるほど、これは随分と立派な渓流だ」
川幅は言うまでもなく、また川底も目視で確認できる程度の、小川になる前のせせらぎ。山小屋に地図を残した人間は、果たして渓流の意味を知っているのだろうか。もっとも、その勘違いのおかげで、ようやく山小屋へと引き返せそうだ。
念のために川の向こう側を照らしてみる。残念なことに先が見通せるほどの規模ではないらしく、遥か向こうまで闇が続いていた。この先に先行隊が向かったのであれば、もう湯川にできることはない。とりあえず渓流に危険はないと分かった以上、山小屋へと引き返すべきだ。
いや、この森から出るべきだろう。現状、何かをされたというわけでもないし、何かが出たというわけでもない。けれども、やはり大人達が口を酸っぱくして、この森に近づくことを咎めるのには、やはりそれなりの理由があるのだ。子どもだからまだ分からないだけであり、その理由だって大人になったら理解できるのかもしれない。
渓流は全くもって安全だ。うっかり足を滑らせてしまっても、せいぜい転んだところが、水のせせらぎにさらされて濡れる程度。命までは奪われない。そして、それは昼夜問わず同じこと。夜だから特別危ないということはない。元より危険性が低いのだから当然だ。
湯川はあえて渓流と呼ばれた川をまたぐと、改めて元いた場所へと戻る。この渓流に橋なんてあるわけがない。わずか一歩で対岸へと行ける河川に、誰が橋などかけるだろうか。
「――まぁ、こんな程度だよな。いざ蓋を開けてみると」
独り言を呟く湯川であるが、その言葉には間違いなく安堵が混じっていた。期待外れ――だなんて微塵も思っていない。リスクを回避することができたし、先行隊に報せるような危険は見当たらない。
湯川は踵を返し、山小屋に向かって歩き出した。一度は通った道だからか、それとも緊張の糸が切れてしまったのか、帰りのほうが気は楽だった。
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