ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第五章 時を越えた禁忌【過去 湯川智昭】

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 斧を放り投げて朱里のところに駆け寄った。見た限り、朱里に怪我はないらしい。ただ、山小屋の中央で息絶えた夏帆は――おそらくもう駄目だ。

「分からない。分からないけど、気がついたらこんなことになっていて」

 朱里は夏帆と一緒に山小屋の中にいたはずだ。それなのに、そばにいたはずの朱里が事の次第を知らないなんてことはあり得ないだろう。

「分からないって……夏帆と一緒にいたんだろ?」

 要領を得ない朱里の態度に、少しばかりの苛立ちを覚える湯川。これまで生きてきたなかで、人が死んでいるのを見るのは初めてだ。しかも、それが幼馴染だとは、なんとも残酷な話ではないだろうか。

「うん、でも私。なんだか眠たくなって、少しうたた寝をしちゃって……気がついたら、こんなことに」

 夏帆の様子からして、何者かに襲われたようだ。ただ、彼女の周囲が荒れていないことから察するに、もしかすると朱里と同じようにうたた寝をしている際に襲われたのかもしれない。

「とにかく、もう残念ながら俺達だけの手には負えない。ミノタウロスの森を出て、大人達に助けを求めるぞ」

 湯川が言うと、明らかに怯えたような反応を見せる朱里。

「で、でも――こんなこと、大人達にばれたらどうなるか」

「もう、それを気にしているレベルじゃないんだ! どう考えたって、もう夏帆は死んでる。俺は医者でもなんでもないが、それくらいは分かるさ。今さら、医者を連れてきたって助からないだろう。それに、夏帆をこのままにして森を出て、知らんぷりをするのか? 言っておくが、いずれはばれるぞ。ここ時間帯、なぜか偶然にも家にいない子どもが何人もいるんだ。いずれ、俺達がここに来てしまったことは、大人達にバレるんだよ。だったら、自分達で白状してしまったほうが楽だと思わないか?」

 ミノタウロスの森は禁忌の象徴。そこに足を踏み入れたと他の大人達が知ったら、きっと叱責されることだろう。しかし、それだけのことをやってしまったのであるし、それだけのことが起きてしまったのだ。夏帆の命ばかりは、どれだけ大人達に叱責されようが、絶対に戻ってはこない。

 朱里はまだ迷っているようだった。湯川はさらに続けた。

「今から森を出る。何が何だか分からないが、やっぱりここは俺達が足を踏み入れていい場所じゃなかったんだよ。森を出て――そうだな。まずは区長のところに行こう」

 この辺りは合併後の土地であるため、村長やら町長の概念がない。その代わりに区長という存在がおり、やることはきっと、村長やら町長と変わらないだろう。
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