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最終章 真相【過去 赤松朱里】
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この感覚はなんなのだろうか。人を殺してしまった。それは、当然ながら許されることではない。けれども、この万能感はなんだろうか。ミノタウロスになることで、クラスの中心人物である谷を支配することができた。
クラスの端っこのほうで、ただひたすら授業が始まるのを待ち続ける自分はいなかった。そう――ここはミノタウロスの森。大人達が入ってはならないと口酸っぱく言ってきた禁忌の土地。その禁忌を破ってしまったのだから……ミノタウロスに亡き者にされてしまっても不思議ではない。
この土地の大人達は、特に物事が大きくなることを嫌う。もし、この森で人が死んだとしても、決して大ごとにはせず、身内で収めてしまおうとするはず。
つまり、ここは合法的に作られた無法地帯のようなものではないだろうか。ここで起きたことは全てミノタウロスのせいであり、大人達は世間体を気にして物事を大きくせずに収めようとするはず。つまり、ここでミノタウロスがやったことは、事実上起きていないことになるのではないか。
なぜ、そのような短絡的な思考に支配されたのか。それは、余韻として手に残る殺人の記憶が、あまりにも快楽に満ちたものだったから。
自分でも否定はしたい。自分はそんな人間ではないと否定したい。でも――否定できるほどの余裕がなかった。
あぁ、この背徳感。やってはいけないことをやってしまった罪悪感を背負いながらも、しかしそれをやっても許されるような環境が目の前に広がっている。――どうせなら、後1人くらいはいいのではないだろうか。しかも、もう1人の宝田羽衣のことは、正直なところあまり好きではない。
ならば、後1人だけ。それをやったらきっと満足して、人を殺したいなんて衝動に駆られたりしないだろう。この快楽は今の内に鎮めて、家に持って帰らねばならない。
谷の死体を茂みの中へと上手い具合に引きずり込むと、今度は宝田羽衣がやって来るのを待った。先に谷が様子を見てくるという流れになっており、いつまで経っても戻ってこない谷に痺れを切らしてしまったのであろう。ようやく、もうひとつの人影がこちらのほうへとやって来た。
こちらから顔は見えない。見えないが、力なく谷の名前を呼ぶ彼女の声は、明らかに震えていた。クラスの中では偉そうな彼女が怯えている。しかも、この自分が作り出した恐怖にだ。ぞくぞくと足元から快感が這い上ってくる。
クラスの端っこのほうで、ただひたすら授業が始まるのを待ち続ける自分はいなかった。そう――ここはミノタウロスの森。大人達が入ってはならないと口酸っぱく言ってきた禁忌の土地。その禁忌を破ってしまったのだから……ミノタウロスに亡き者にされてしまっても不思議ではない。
この土地の大人達は、特に物事が大きくなることを嫌う。もし、この森で人が死んだとしても、決して大ごとにはせず、身内で収めてしまおうとするはず。
つまり、ここは合法的に作られた無法地帯のようなものではないだろうか。ここで起きたことは全てミノタウロスのせいであり、大人達は世間体を気にして物事を大きくせずに収めようとするはず。つまり、ここでミノタウロスがやったことは、事実上起きていないことになるのではないか。
なぜ、そのような短絡的な思考に支配されたのか。それは、余韻として手に残る殺人の記憶が、あまりにも快楽に満ちたものだったから。
自分でも否定はしたい。自分はそんな人間ではないと否定したい。でも――否定できるほどの余裕がなかった。
あぁ、この背徳感。やってはいけないことをやってしまった罪悪感を背負いながらも、しかしそれをやっても許されるような環境が目の前に広がっている。――どうせなら、後1人くらいはいいのではないだろうか。しかも、もう1人の宝田羽衣のことは、正直なところあまり好きではない。
ならば、後1人だけ。それをやったらきっと満足して、人を殺したいなんて衝動に駆られたりしないだろう。この快楽は今の内に鎮めて、家に持って帰らねばならない。
谷の死体を茂みの中へと上手い具合に引きずり込むと、今度は宝田羽衣がやって来るのを待った。先に谷が様子を見てくるという流れになっており、いつまで経っても戻ってこない谷に痺れを切らしてしまったのであろう。ようやく、もうひとつの人影がこちらのほうへとやって来た。
こちらから顔は見えない。見えないが、力なく谷の名前を呼ぶ彼女の声は、明らかに震えていた。クラスの中では偉そうな彼女が怯えている。しかも、この自分が作り出した恐怖にだ。ぞくぞくと足元から快感が這い上ってくる。
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