24 / 391
ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】
22
しおりを挟む
さりげなくハンケチーフを水溜りの上に広げてエスコートする――駄目だ、そもそもハンケチーフを持っていないし、水溜りの規模が大きすぎる。それならば、自らが水溜りの中へと入り、四つん這いになって橋となる――いや、どんな罰ゲームだそれ。一里之が色々と考えを巡らせていると、コトリが目の前までやって来て、そっと一里之の首に腕を回す。
思わずドキリとしてしまった。シャンプーの匂いなのか、心地よい香りがする。
「おい、お姫様だっこだとよ。おぉ、羨ましい限りだねぇ。そういうおいしい思いができるのに、どうしてお世話係はコロコロと変わんのか分からねぇな」
冷やかすかのごとく鯖洲の一言。お姫様だっことは、あれだろうか。男女が――主に親しい間柄の男女がするやつ。それを、特に親しくもないし、特別な間柄でもない同士でやれと。コトリ自身がどんなつもりなのかは分からないが、正直に言おう。悪い気はしない。むしろ、役得ではないか。
そっとコトリの腰に手を回し、彼女の下半身を持ち上げる。必然的にコトリの顔が近くなり、一里之は思わず目をそらした。
「こ、これでいいですか――」
一里之はコトリのことを抱えたまま水溜りに足を踏み入れると、そのまま一気に突っ切ってしまう。足元の安全を確認すると、コトリのことを降ろしてやった。彼女自身はなんとも思わないのだろうか。それはそれで……男としての何かを喪失してしまいそうだ。
「悪くありませんわ。ただ、もう少しエスコートのやり方を学んだほうがいいかもしれませんわね」
地面に降り立つと、一里之のエスコート力不足を指摘してくるコトリ。どうやら、彼女にとってお世話係はエスコートや身の回りの世話をする存在にすぎないらしい。お姫様だっこについても、全く抵抗がなかったようであるし。
「さて、改めて中に入ってみましょうか」
コトリはシャッター脇の出入り口のそばまで向かうと振り返る。鍵を開けろ――というニュアンスであろうと察知した一里之は、ファイルの中に同封してあった鍵を取り出す。同じページに保管されていたのだから、ここの鍵で間違いないだろう。
鍵を差し込み回してみる。随分と出入り口の扉自体は古く見えたが、鍵穴の中が錆びているなんてことはなく、あっさりと鍵は回った。
「さぁ、中はどうなっているんでしょう?」
辺りは暗くなり、すっかり夜という名前が定着し始めた時分。廃墟となったラブホテルの出入り口の扉を、これほどまでに嬉々とした様子で開けようとする人はいないだろう。
思わずドキリとしてしまった。シャンプーの匂いなのか、心地よい香りがする。
「おい、お姫様だっこだとよ。おぉ、羨ましい限りだねぇ。そういうおいしい思いができるのに、どうしてお世話係はコロコロと変わんのか分からねぇな」
冷やかすかのごとく鯖洲の一言。お姫様だっことは、あれだろうか。男女が――主に親しい間柄の男女がするやつ。それを、特に親しくもないし、特別な間柄でもない同士でやれと。コトリ自身がどんなつもりなのかは分からないが、正直に言おう。悪い気はしない。むしろ、役得ではないか。
そっとコトリの腰に手を回し、彼女の下半身を持ち上げる。必然的にコトリの顔が近くなり、一里之は思わず目をそらした。
「こ、これでいいですか――」
一里之はコトリのことを抱えたまま水溜りに足を踏み入れると、そのまま一気に突っ切ってしまう。足元の安全を確認すると、コトリのことを降ろしてやった。彼女自身はなんとも思わないのだろうか。それはそれで……男としての何かを喪失してしまいそうだ。
「悪くありませんわ。ただ、もう少しエスコートのやり方を学んだほうがいいかもしれませんわね」
地面に降り立つと、一里之のエスコート力不足を指摘してくるコトリ。どうやら、彼女にとってお世話係はエスコートや身の回りの世話をする存在にすぎないらしい。お姫様だっこについても、全く抵抗がなかったようであるし。
「さて、改めて中に入ってみましょうか」
コトリはシャッター脇の出入り口のそばまで向かうと振り返る。鍵を開けろ――というニュアンスであろうと察知した一里之は、ファイルの中に同封してあった鍵を取り出す。同じページに保管されていたのだから、ここの鍵で間違いないだろう。
鍵を差し込み回してみる。随分と出入り口の扉自体は古く見えたが、鍵穴の中が錆びているなんてことはなく、あっさりと鍵は回った。
「さぁ、中はどうなっているんでしょう?」
辺りは暗くなり、すっかり夜という名前が定着し始めた時分。廃墟となったラブホテルの出入り口の扉を、これほどまでに嬉々とした様子で開けようとする人はいないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました
波湖 真
恋愛
クローディアは十年ぶりに祖国の土を踏んだ。婚約者だったローレンス王子が王位を継承したことにより元々従兄弟同士の関係だったクローディアが王太子となったからだ。
十年前に日本という国から来たサオリと結婚する為にクローディアとの婚約を破棄したローレンスには子供がいなかった。
異世界トリップの婚約破棄ものの十年後の悪役令嬢クローディアの復讐と愛はどうなるのか!!
まだストックが無いので不定期に更新します
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる