ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース1 密室殺人事件を妄想する御令嬢【出題編】

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 さりげなくハンケチーフを水溜りの上に広げてエスコートする――駄目だ、そもそもハンケチーフを持っていないし、水溜りの規模が大きすぎる。それならば、自らが水溜りの中へと入り、四つん這いになって橋となる――いや、どんな罰ゲームだそれ。一里之が色々と考えを巡らせていると、コトリが目の前までやって来て、そっと一里之の首に腕を回す。

 思わずドキリとしてしまった。シャンプーの匂いなのか、心地よい香りがする。

「おい、お姫様だっこだとよ。おぉ、羨ましい限りだねぇ。そういうおいしい思いができるのに、どうしてお世話係はコロコロと変わんのか分からねぇな」

 冷やかすかのごとく鯖洲の一言。お姫様だっことは、あれだろうか。男女が――主に親しい間柄の男女がするやつ。それを、特に親しくもないし、特別な間柄でもない同士でやれと。コトリ自身がどんなつもりなのかは分からないが、正直に言おう。悪い気はしない。むしろ、役得ではないか。

 そっとコトリの腰に手を回し、彼女の下半身を持ち上げる。必然的にコトリの顔が近くなり、一里之は思わず目をそらした。

「こ、これでいいですか――」

 一里之はコトリのことを抱えたまま水溜りに足を踏み入れると、そのまま一気に突っ切ってしまう。足元の安全を確認すると、コトリのことを降ろしてやった。彼女自身はなんとも思わないのだろうか。それはそれで……男としての何かを喪失してしまいそうだ。

「悪くありませんわ。ただ、もう少しエスコートのやり方を学んだほうがいいかもしれませんわね」

 地面に降り立つと、一里之のエスコート力不足を指摘してくるコトリ。どうやら、彼女にとってお世話係はエスコートや身の回りの世話をする存在にすぎないらしい。お姫様だっこについても、全く抵抗がなかったようであるし。

「さて、改めて中に入ってみましょうか」

 コトリはシャッター脇の出入り口のそばまで向かうと振り返る。鍵を開けろ――というニュアンスであろうと察知した一里之は、ファイルの中に同封してあった鍵を取り出す。同じページに保管されていたのだから、ここの鍵で間違いないだろう。

 鍵を差し込み回してみる。随分と出入り口の扉自体は古く見えたが、鍵穴の中が錆びているなんてことはなく、あっさりと鍵は回った。

「さぁ、中はどうなっているんでしょう?」

 辺りは暗くなり、すっかり夜という名前が定着し始めた時分。廃墟となったラブホテルの出入り口の扉を、これほどまでに嬉々とした様子で開けようとする人はいないだろう。
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