ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【出題編】

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「お気に召さないようであれば、別のものを用意できますが」

 もはや、メイドカフェの店員という枠を遥かに超えた徹底ぶり。本物のメイドとて、ここまで手回しが良かったりはしないだろう。彼女は一体、何者なのか。

「あら、可愛らしくて素敵ですわ。それじゃ、遠慮なく――」

 ヒールの高いミュール……と呼ぶのだろうか。それを脱ぐと、冥の用意したスニーカーに履き替えるコトリ。ドレスにスニーカーとは、いささかミスマッチのように思えるが、この先の坂を下ることになることを考えると、形振りなんて構っていられないだろう。

「さて、動きやすくなったところで、さっさと山荘のほうに向かうぞ。あんまり時間をかけると、この辺りはすぐに暗くなるだろうからな」

 鯖洲が空を見上げながら呟く。当たり前であるが、見た限り辺りには街灯らしきものは見当たらない。夜になったら辺りは真っ暗になるのだろう。

「あらかた中の掃除は終わっていますが、生憎なことに電気はもちろんのこと水道も通っておりません。思っていた以上にアウトドアになるかと思います」

 その言葉を聞いて、一里之は安堵の溜め息をもらした。いやいや、危機的な状況に安堵したのではなく、この状況を想定して買い物をしていたことに安堵したのだ。荷物になるだろうからと水は必要最低限に留めはしたものの、リュックサックの中に入っている。電気については想定外だが、ランタンなら購入済みだ。

「お嬢様、何か不便なことがあったら、なんなりとお申し付けください。この寺山、出来うる限りお応えしますので」

 寺山が言うと、鯖洲がそれを鼻で笑い「うっとうしいから、さっさと帰って欲しいですわ」と、コトリの口調を真似た。寺山は何か言いたそうな顔をしていたが、しかしあえてそれを飲み込んだようだった。どうやら、寺山のほうが大人らしい。

 ふと、頬に冷たいものが当たった。一度が空を見上げる。そこまで雲が浮いているようには見えないが、山の天候は変わりやすい。一雨降るのだろう。

「せっかくのお召し物が濡れてしまう前に、山荘のほうへと参りましょう。お嬢様、こちらです」

 雨が激しくなるであろうことを予見したのか、冥はきびすを返した。そして、コトリをエスコートするかのごとく歩き出す。まるで冥の予見通りだと言わんばかりに雨が当たる頻度が多くなった。

「俺達も戻るぞ」

 鯖洲はあえて一里之にしか声をかけず、寺山のほうを一瞥すると、わざとらしく続ける。

「あぁ、こんな雨の日に野宿とか悲惨だなぁ」
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