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ケース3 山奥の事故物件【解決編】
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「それはね、閂を本来の長さより短くするためですわ」
コトリはそう言うと、なおも続ける。
「木の加工方法に、曲げ木と呼ばれるものがありますわ。これは、木に水分をたっぷりと吸わせ、柔らかくしてから木を曲げる手法。犯人はこの技術を応用して密室を作り上げたと思われますわ」
コトリは閂に見立てた木材を鍋の中へと放り込んだ。中には若干の水が入っている。一里之は打ち合わせ通りコンロに火を点けると、鍋が転げてしまわぬように取っ手に手を伸ばして支えた。
「本当なら、柔らかくなるまで煮詰めたいのだけど、今回はフリだけで問題ありませんわ。一里之君、お湯が沸いたら木材を取り出してくださる?」
料理番組のように、ではこれが煮詰めた木材です――なんて感じに用意することはできない。結局のところ、一里之がやっているのは実践のフリである。フリならば、わざわざコンロなどを用意しなくてもいいのに。鍋を支える人なんていらないのに。
お湯が沸くまで、そこまでの時間はかからなかった。もっとも、ずっと取っ手を持って鍋を支えていなければならない一里之からすれば、随分と長い時間に感じられたが。とにかく、お湯が沸いた頃合いを見計らって「取り出して」と指示をしてくるコトリ。そう言われても、お湯の中に浸かっている木材だ。道具なしで取り出すのは困難である。それに取っ手から手を離したら鍋が転げてしまう。
「あの、鯖洲さん。こうしてないと鍋が倒れちゃうんで、俺の代わりに木材を取り出してくれませんか?」
そこで何かを察したのか、冥が黙って作業場から出て行く。鯖洲は一里之のそばまでやってくるが、大きく溜め息を漏らした。
「あのな、さすがの俺でも煮えたぎったお湯の中に手を突っ込むような真似はできねぇんだよ――なんか、取り出すための道具がねぇとな」
きっと、これを予見していたのであろう。食事の際に使って、余ったであろう割り箸を手に冥が戻ってきた。
「これならば、取り出すための道具になるかと」
そう言って割り箸を渡す冥。受け取ると「相変わらず気が利きすぎるんだよ」とぼやきつつ割り箸を割る鯖洲。あっさりと木材を鍋から取り出すことに成功する。
「ほらよ。で、どうするんだ?」
鯖洲の言葉に、コトリは「そちらのほうに持って行ってくださらない?」と、万力のほうへと視線をやった。取っ手から手を離してしまうと鍋が倒れてしまうわけだが、もうお役御免ということでいいのだろうか。一刻も早くお湯を捨ててしまい、鍋の呪いから解放されたい。
コトリはそう言うと、なおも続ける。
「木の加工方法に、曲げ木と呼ばれるものがありますわ。これは、木に水分をたっぷりと吸わせ、柔らかくしてから木を曲げる手法。犯人はこの技術を応用して密室を作り上げたと思われますわ」
コトリは閂に見立てた木材を鍋の中へと放り込んだ。中には若干の水が入っている。一里之は打ち合わせ通りコンロに火を点けると、鍋が転げてしまわぬように取っ手に手を伸ばして支えた。
「本当なら、柔らかくなるまで煮詰めたいのだけど、今回はフリだけで問題ありませんわ。一里之君、お湯が沸いたら木材を取り出してくださる?」
料理番組のように、ではこれが煮詰めた木材です――なんて感じに用意することはできない。結局のところ、一里之がやっているのは実践のフリである。フリならば、わざわざコンロなどを用意しなくてもいいのに。鍋を支える人なんていらないのに。
お湯が沸くまで、そこまでの時間はかからなかった。もっとも、ずっと取っ手を持って鍋を支えていなければならない一里之からすれば、随分と長い時間に感じられたが。とにかく、お湯が沸いた頃合いを見計らって「取り出して」と指示をしてくるコトリ。そう言われても、お湯の中に浸かっている木材だ。道具なしで取り出すのは困難である。それに取っ手から手を離したら鍋が転げてしまう。
「あの、鯖洲さん。こうしてないと鍋が倒れちゃうんで、俺の代わりに木材を取り出してくれませんか?」
そこで何かを察したのか、冥が黙って作業場から出て行く。鯖洲は一里之のそばまでやってくるが、大きく溜め息を漏らした。
「あのな、さすがの俺でも煮えたぎったお湯の中に手を突っ込むような真似はできねぇんだよ――なんか、取り出すための道具がねぇとな」
きっと、これを予見していたのであろう。食事の際に使って、余ったであろう割り箸を手に冥が戻ってきた。
「これならば、取り出すための道具になるかと」
そう言って割り箸を渡す冥。受け取ると「相変わらず気が利きすぎるんだよ」とぼやきつつ割り箸を割る鯖洲。あっさりと木材を鍋から取り出すことに成功する。
「ほらよ。で、どうするんだ?」
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