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DAY7
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水元が自分の母親を悪く言うところを今まで聞いたことがなかった。中学の頃も、再会してからも。
母親の話になると口が重たくはなっていたが、相手の声にあるのは、いつも苦しそうな軋みだけで、彼女への怒りも憎悪も感じられなかった。
自分の母をどう思っているのかをたずねても、水元はおそらく答えないだろう。無自覚だからなのではなく、自覚しているからこそ……自分の生い立ちを他人に話せば、きっと十人が十人とも非難するような母親のことを、それでも愛しているのだ、と。
夕暮れどきに、怖さをなだめすかしながら独りの家に帰っていく少年の姿が浮かんだ。
ちゃんと家に帰らないと帰れなくなる。
水元の身体に回した腕に力がこもり、抱きしめようとした寸前で、相手のケガのことを思い出した。
響野は腕の力を抜く。抱きしめる代わりにぽんぽんと背中を叩くと、水元が顔を上げてため息のような笑い声をもらした。
「あきらめられなかった」
水元の腕からも同じように力が抜けて、手のひらが響野の背にふれる。
「これからもあきらめられないと思うけど、いい?」
いいって何を?とたずねようとしたとき、病室のドアがノックされて、引き戸ががらりと開いた。とっさに飛び退くようにして、お互いに距離をあける。
夕食です、と告げる声とともにスタッフが食べ物の匂いのただようトレーを運んできた。
母親の話になると口が重たくはなっていたが、相手の声にあるのは、いつも苦しそうな軋みだけで、彼女への怒りも憎悪も感じられなかった。
自分の母をどう思っているのかをたずねても、水元はおそらく答えないだろう。無自覚だからなのではなく、自覚しているからこそ……自分の生い立ちを他人に話せば、きっと十人が十人とも非難するような母親のことを、それでも愛しているのだ、と。
夕暮れどきに、怖さをなだめすかしながら独りの家に帰っていく少年の姿が浮かんだ。
ちゃんと家に帰らないと帰れなくなる。
水元の身体に回した腕に力がこもり、抱きしめようとした寸前で、相手のケガのことを思い出した。
響野は腕の力を抜く。抱きしめる代わりにぽんぽんと背中を叩くと、水元が顔を上げてため息のような笑い声をもらした。
「あきらめられなかった」
水元の腕からも同じように力が抜けて、手のひらが響野の背にふれる。
「これからもあきらめられないと思うけど、いい?」
いいって何を?とたずねようとしたとき、病室のドアがノックされて、引き戸ががらりと開いた。とっさに飛び退くようにして、お互いに距離をあける。
夕食です、と告げる声とともにスタッフが食べ物の匂いのただようトレーを運んできた。
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