ポケットのなかの空

三尾

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番外編:異土の乞食となるとても

次に帰る日の約束を

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 二日後、弟のアクセラスポーツに乗ってニコニコ顔の魔女が退院してきた。
 手伝うために休みを延ばしたのに、あたしの出番はなかった。
 家には近所の人やら、母のパート先の同僚やら、学生時代の友達やらがどんどん集まってきて、勝手に退院祝いの準備が進んでいった。
 こういう、おじさまやおばさまが大量にいる場所は、あたしには鬼門だ。

「おお、花音ちゃんか、しばらく見ないあいだに綺麗になったなあ」
「昔は盗んだバイクで走り回ってた花音ちゃんが」
「卒業式で学校の窓ガラスを割った花音ちゃんが」

 出たな、ローカル検索エンジン……年配者に知り合いの名を入力インプットすると、たちまち誕生から現在までの当人のデータが出力アウトプットされる。大抵は黒歴史だ。

 帰省の憂鬱その4:周囲がこちらの過去をグーグル並みに忘れてくれない。

 あたしは年配者たちの輪から逃げ、ついでに弟をつかまえて、セイとの一件をただした。
 ノアが言うには、セイはもうじき町を出る予定だという。このあたりの子供は、家業を継ぐのでなければ、高校卒業と同時に町を離れる。進学でも就職でも同じだ。

「つまり、割り切った関係ってこと?」
「俺は応援してるつもりだよ。セイには俺らみたいなのが知ってたほうがいいことを教えてる」
「なんかやらしい」

 あたしが横目で見ると、「やらしいことだけじゃなくて」とノアは笑う。

「また帰ってくるだろ、カノン」
「ええ? 当分いいよ」
「だって今年、ばあちゃんの七回忌だぜ」

 ノアが言って、あたしは天を仰いだ。
 ……なんてこった。

 帰省の憂鬱その5:終わる頃には、次に帰る日の約束をしている。




〈異土の乞食となるとても  了〉

---------------------------------------

 ふるさとは遠きにありて思ふもの
 そして悲しくうたふもの
 よしや
 うらぶれて異土の乞食となるとても
 帰るところにあるまじや

 ひとり都のゆふぐれに
 ふるさとおもひ涙ぐむ
 そのこころもて
 遠きみやこにかへらばや
 遠きみやこにかへらばや


  室生犀星『小景異情 その二』(抒情小曲集)


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感想 1

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みんなの感想(1件)

さくらこ
2025.06.01 さくらこ

めちゃ面白いです!

如何に心と身体と思考が人を動かしているか、深くて私の心に響いています。
読み終えてからでないと伝えられない事も多いですが、今59ページ目で如何に驚きと共に共感しているかお伝えしたくて感想書きました。

彼の繊細な心とクリアな頭の中の問題解析などと私自身の経験右足骨折で3ヶ月入院し思いがけない体験を沢山し驚きの日々を送った事と繋がったからです。
その一つに手話を習い聴覚障害の方と仲良くなって彼等が音楽を楽しんでいると知った時の驚き忘れられません。書かれている様にバイブレーション、音の波動目や耳を閉じると感じ易いですね!
これからの展開楽しみです!

2025.06.01 三尾

さくらこ様
ご感想ありがとうございます!
作品に興味を持ってくださったことも、読書中のリアルタイムのお気持ちを伝えてくださったことも、どちらも本当に嬉しいです🙏✨

作中の彼については、私自身も「この(とても大変な思いをしている)人の旅をきちんと見届けなくては……」という気持ちで書いていたので、そのような物語になっていれば幸いです。
温かいお言葉をありがとうございました!

解除

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