446 / 446
番外編:異土の乞食となるとても
次に帰る日の約束を
しおりを挟む
二日後、弟のアクセラスポーツに乗ってニコニコ顔の魔女が退院してきた。
手伝うために休みを延ばしたのに、あたしの出番はなかった。
家には近所の人やら、母のパート先の同僚やら、学生時代の友達やらがどんどん集まってきて、勝手に退院祝いの準備が進んでいった。
こういう、おじさまやおばさまが大量にいる場所は、あたしには鬼門だ。
「おお、花音ちゃんか、しばらく見ないあいだに綺麗になったなあ」
「昔は盗んだバイクで走り回ってた花音ちゃんが」
「卒業式で学校の窓ガラスを割った花音ちゃんが」
出たな、ローカル検索エンジン……年配者に知り合いの名を入力すると、たちまち誕生から現在までの当人のデータが出力される。大抵は黒歴史だ。
帰省の憂鬱その4:周囲がこちらの過去をグーグル並みに忘れてくれない。
あたしは年配者たちの輪から逃げ、ついでに弟をつかまえて、セイとの一件を質した。
ノアが言うには、セイはもうじき町を出る予定だという。このあたりの子供は、家業を継ぐのでなければ、高校卒業と同時に町を離れる。進学でも就職でも同じだ。
「つまり、割り切った関係ってこと?」
「俺は応援してるつもりだよ。セイには俺らみたいなのが知ってたほうがいいことを教えてる」
「なんかやらしい」
あたしが横目で見ると、「やらしいことだけじゃなくて」とノアは笑う。
「また帰ってくるだろ、カノン」
「ええ? 当分いいよ」
「だって今年、ばあちゃんの七回忌だぜ」
ノアが言って、あたしは天を仰いだ。
……なんてこった。
帰省の憂鬱その5:終わる頃には、次に帰る日の約束をしている。
〈異土の乞食となるとても 了〉
---------------------------------------
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
室生犀星『小景異情 その二』(抒情小曲集)
手伝うために休みを延ばしたのに、あたしの出番はなかった。
家には近所の人やら、母のパート先の同僚やら、学生時代の友達やらがどんどん集まってきて、勝手に退院祝いの準備が進んでいった。
こういう、おじさまやおばさまが大量にいる場所は、あたしには鬼門だ。
「おお、花音ちゃんか、しばらく見ないあいだに綺麗になったなあ」
「昔は盗んだバイクで走り回ってた花音ちゃんが」
「卒業式で学校の窓ガラスを割った花音ちゃんが」
出たな、ローカル検索エンジン……年配者に知り合いの名を入力すると、たちまち誕生から現在までの当人のデータが出力される。大抵は黒歴史だ。
帰省の憂鬱その4:周囲がこちらの過去をグーグル並みに忘れてくれない。
あたしは年配者たちの輪から逃げ、ついでに弟をつかまえて、セイとの一件を質した。
ノアが言うには、セイはもうじき町を出る予定だという。このあたりの子供は、家業を継ぐのでなければ、高校卒業と同時に町を離れる。進学でも就職でも同じだ。
「つまり、割り切った関係ってこと?」
「俺は応援してるつもりだよ。セイには俺らみたいなのが知ってたほうがいいことを教えてる」
「なんかやらしい」
あたしが横目で見ると、「やらしいことだけじゃなくて」とノアは笑う。
「また帰ってくるだろ、カノン」
「ええ? 当分いいよ」
「だって今年、ばあちゃんの七回忌だぜ」
ノアが言って、あたしは天を仰いだ。
……なんてこった。
帰省の憂鬱その5:終わる頃には、次に帰る日の約束をしている。
〈異土の乞食となるとても 了〉
---------------------------------------
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
室生犀星『小景異情 その二』(抒情小曲集)
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
完璧な計画
しづ未
BL
双子の妹のお見合い相手が女にだらしないと噂だったので兄が代わりにお見合いをして破談させようとする話です。
本編+おまけ後日談の本→https://booth.pm/ja/items/6718689
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
めちゃ面白いです!
如何に心と身体と思考が人を動かしているか、深くて私の心に響いています。
読み終えてからでないと伝えられない事も多いですが、今59ページ目で如何に驚きと共に共感しているかお伝えしたくて感想書きました。
彼の繊細な心とクリアな頭の中の問題解析などと私自身の経験右足骨折で3ヶ月入院し思いがけない体験を沢山し驚きの日々を送った事と繋がったからです。
その一つに手話を習い聴覚障害の方と仲良くなって彼等が音楽を楽しんでいると知った時の驚き忘れられません。書かれている様にバイブレーション、音の波動目や耳を閉じると感じ易いですね!
これからの展開楽しみです!
さくらこ様
ご感想ありがとうございます!
作品に興味を持ってくださったことも、読書中のリアルタイムのお気持ちを伝えてくださったことも、どちらも本当に嬉しいです🙏✨
作中の彼については、私自身も「この(とても大変な思いをしている)人の旅をきちんと見届けなくては……」という気持ちで書いていたので、そのような物語になっていれば幸いです。
温かいお言葉をありがとうございました!