リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの

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 その後、エリクはイネスの親戚の家を出て、クレマンの家に寄宿することになった。宰相がイネスの父親と話し合って決めたらしい。クレマンの父親は『とりあえずの処置、向こうの家督騒動がおさまれば帰宅してもらう』とエリクに言い切った。イネスの父親は秘密裡にマイネ侯爵家に接触し、エリクの事を当主同士で話した。当主はこの庶子の荒い気性を気に入っていたし、王国の女性と結婚させる気もなかったし、婚約者候補も用意してあって、学園の卒業をもって呼び戻すつもりである。
 エリクは跡継ぎになりたくなかったので逃げたのだが、その父親は容赦なく後継者レースをエリクが学園を卒業した後で開始する、と。

「どの子にも一長一短ありましてな。なら5人で競ってもらおうかと」

マイネ侯爵はそう言い切った。

 イネスの父親はマイネ侯爵の書簡をエリクと宰相クレマンの父親に渡した。エリクは書簡を読んだ後

「俺は跡継ぎには向かねぇ。あの家の任務にも向かねぇ」

と呟いていた。

「宰相様、何か手はないですか。俺は跡継ぎ向きじゃない」

エリクは宰相に向かって言う。

「………私に頼むということは国際争議になるということだ。そういう所を考えないところは確かに跡継ぎに向かないね」

宰相はそれだけ言うとイネスの父親とエリクに退出を求めた。



 「俺、どうしたらいいんすかね」

イネスの父親はここで俺にそれを聞くのか、と思ったがイネスやその妹から引き離すチャンスでもある、と考える。

「こちらの女性との結婚にこだわらないのであれば、お国の士官学校とかどうですか?それでマイネ侯爵と取引なさい。『軍に入る』事、そこでえらくなる事で今までのマイネ家以外の顔を作れること。君自身が諜報活動はしなくても君がえらくなったら軍部内の諜報はおつきの侍従か執事に任せればいいでしょう。そういう子飼い、君のところにもいるでしょう?」

 エリクの少々鈍い頭にもわかりやすいように説明してあげるが、イネスの父親はここまで素直で嘘が付けないのはあの家の跡継ぎになってもやって行けないと本気で心配した。機密や秘密なぞあったもんじゃない、と思っていた。



 視察へ向かう為、皆王宮へ集められる。一旦、王子宮の応接室に通される。

「意外とシンプルですね」

イネスの言葉にリリゼットも頷く。もっとごてごてしてるかと思った。改造制服とか着てるのでそういう当世風が好きなのかとリリゼットもイネスも思っていた。が、サイドボードに近寄ったとたん、リリゼットはこれはドルバックの家の先祖が作ったものだと認知した。加護付きの家具なんてこの国にいくらも残っていない。リリゼットの家や領地にあるのが殆どだ。なぜなら一般の家具職人では加護付きの家具のメンテナンスは難しいからだ。ドルバックの領地でもその血筋は2家しかなかった。どちらの家も格は子爵家である。

 クレマンが教えてくれる。

「ここの家具は元からの備え付けです。が、私室もかなりシンプルですよ。質の良い机と椅子、ソファ、寝室にもベッドと安楽椅子ぐらいですね。衣装類は衣裳部屋に全部置いておられますし」

イネスもリリゼットもゴシップ的に話を楽しく聞いていた。みな制服で集まっていたし、持ってきた荷物はエドアールが個々人ずつでゲートを使って現地に送ってくれる。

「ま、忘れ物があったら取りに帰ったらいいよ。みんな自分ひとりくらいは運べる魔力量あるし」

と言ってくれた。ルイは高校生組に取り囲まれてカチコチになっている。が、クレマンがミルクたっぷりで甘くした珈琲をルイに出してくれた。

「これをゆっくり飲んでね。熱いから気を付けて」

クレマンがこっそり教えてくれたのは

『あれはカフェイン抜きの珈琲なので子供でも飲めます』

という事だった。
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