俺様αアイドルと歌で発情しちゃったΩ

弓葉

文字の大きさ
1 / 17

発情しちゃった…?!

しおりを挟む
――え、どうしよう。発情したかもしれない……。

 僕は観客席で震えていた。周りはまだ僕が発情したことに気づいていない。

「はぁ、はぁ……」

 高ぶる胸を押さえつつ、息を整えようと深呼吸をする。大丈夫、きっと興奮しているだけだ。突発性発情期じゃない。大丈夫、大丈夫。

 頭の片隅で発情抑制剤が過った。

 俯いて出て行こうと思ったけど、今ステージには推し様がいた。やっとチケットを手に入れたのに、ここでアリーナ席を立ち去りたくない。なんのために頑張って夜行バスに乗ってまで遠征したのかわからなくなる。

 生で感じる音楽は格別だ。演者と客の一体感、大音量のスピーカーから流れる身体の芯からぶち抜かれるような音。日常のストレスを全て発散するような非日常空間。そこから離れることなんてできなかった。

「何千、何百の中から~君を見つける~」

 推しである黒執ネオ様が僕に向かってウインクをしたような気がした。

「あっ……」

 ぞくり、と身体中に快感が走る。触られても、触れられてもいない。ただ歌を聞いているだけなのに、一瞬で中がぐっしょりと濡れた。

「なんで、発情期はまだ先なのに……」

 自分でも分かる。僕は何百人がいる人の中で発情している。そして、アルファを誘惑してしまうフェロモンを会場にぶちまけている。

「ん? なんか甘い匂いがしないか?」

 すぐ後ろで男の声がした。まずい、アルファだ。アルファは発情したオメガの匂いに敏感で、オメガのフェロモンに反応してヒートという突発的な発情期を引き起こす。

「っつ……」

 クンクンと男の荒い鼻息が僕のうなじに当たっている。このまま僕が発情してしまって、うなじを噛まれてしまったら僕はフェスに来ただけの知らないアルファと番になってしまう。

 嫌だ、だけどこの場所から離れたくない。尋常じゃない勢いで汗が流れていく。

――最後に、もう一目だけ。

 悪あがきで僕はステージ上で輝くネオ様を見ようと、顔を上げた。

「見つけた」

 囁くようなネオ様の声。ネオ様は僕に向かって指をさしていた。

――あ、もう、ダメだ。

 ブワッと、身体中からフェロモンが放出される。我慢していた分、一瞬だけだがかなりの量がまき散らされた。

「え、これって演出? 事故? やばくない」

 女子高生が興奮気味に騒ぎ出す。その声を中心に周りがざわめきだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕

めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

αの共喰いを高みの見物してきた男子校の姫だった俺(α)がイケメン番(Ω)を得るまで。

Q矢(Q.➽)
BL
αしか入学を許可されないその学園の中は、常に弱肉強食マウントの取り合いだった。 そんな 微王道学園出身者達の、卒業してからの話。 笠井 忠相 (かさい ただすけ) 25 Ω × 弓月 斗和 (ゆづき とわ) 20 α 派生CPも出ます。 ※ 1月8日完結しました。 後日談はその内書くと思います。 ご閲覧ありがとうございました!

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...