シュガーポットに食べかけの子守唄

Life up+α

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1章

3 追跡者

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3.
「今日もいない…」
僕はジャッジがいた家の前に座り込んで溜息を吐く。かれこれイディオットの集落に来てから2週間くらいの時間が流れていたが、ジャッジはまったく家に帰ってこない。かなりの時間を張り込んでいるのだが、うまい具合にかわされているのか雨にすら遭遇しなかった。
これは誰も会ったことがないというのは頷ける。僕ですら、あの日の出来事が本当にあったのか疑わしくなっていた。
「雨すら降らんな」
ジャッジの家の壁に寄りかかって腕を組んだイディオットが鼻を鳴らす。
僕は配役がジャバウォックということで、アマネから狙われる存在だ。ようやく手に入れた白兎への足がかりを失いたくないということで、僕が外に出るときは彼がこうして付き添ってくれている。集落でリーダーの役目を担っているイディオットは常に誰かから呼びたてられていて忙しいのをよく分かっているだけに、連日肩透かしは心底申し訳なかった。
しかも、ジャッジの家はどうなっているのか木の幹の扉すらなくなっていて、この木じゃなかったのではと森中を探し回ったのだが、どうにもあの巨大な木はこれしかない。これではいよいよ僕の頭がおかしかった説の方が濃厚だ。
「本当に…本当にいたんですよ…」
「分かってる。見た者がそもそもお前しかいないんだ、仕方ない。そう弱気になるな」
しゃがみ込んで呻くように呟く僕の頭をイディオットがガシガシと撫でた。
「疑う者が出るのも当然だし、お前の気持ちも分からんでもないが、少なくとも俺はあの日にお前を信じると決めた。それは俺が選んだことだから、俺を付き合わせていることに気を病んでいるなら、それは気にしなくていい。俺が望んでここにいるだけだ」
「オットーさん、マジ…神かな…」
彼の言葉を聞きながら僕は深く嘆息した。
そうだ、僕がイディオットをこうして付き合わせていることに集落全体が賛成してるかと言われれば、もちろんそんなはずはない。一部からは批判が上がっていて、僕を嘘つきと非難する者も現れ始めている。
大体からして、新参者が人望のある集落のリーダーの隣をずっと占領しているのだ。どう考えたって面白いわけがない。そんなこと高校生だって分かる。
「僕、ずっと引っかかってるんですよ」
「何に?」
「ジャッジさんが僕に言った『私と会話出来るのは、今はジャバウォックと帽子屋しかいない』って言葉。だって、オットーさんは4年もかけて調べて、アリスが白兎と話していたってこと調べ上げたんですよね?ジャッジさんはわざわざアリスを除外して僕に伝える必要がありますかね?あれだけ公正な人だったら隠し事もしないだろうし、隠してたとしても意図が分からない」
確かにイディオットの話を聞いた後なら、アリスと白兎が話せるのは当たり前だと理解できるのだ。しかし、それをジャッジが省いて話すようにも思えない。口下手とも思えるくらいに回りくどい話し方をするくせに、そんな肝心な場所を省くってどんなおっちょこちょいさんだ。
「ここはアリスの夢だから、アリスと話せるのを大前提にしてたんじゃないか?俺は白兎に会ったことがないから分からんが」
「それも考えたんですけど、なんか腑に落ちないんですよね~…」
持っていた分厚い本を開いたり閉じたりと暇そうにしながら答える彼に、僕は口を曲げて返答する。
「…ところで、オットーさんのその本って辞書ですか?随分と分厚いなあと思っていたんですけど」
イディオットを見上げて尋ねると、彼は片方の眉毛だけ上げて目を大きくする。
「これか?聖書だ」
「そういえば、オットーさんの服装ってちょっと神父っぽいですよね。心神深いんですか?」
「心神深くはないと思うが、死者が安らかに眠ってくれるなら神はいてもいいと思っている類だ。3年ほど前から葬儀屋の真似事を始めたのさ」
彼が4年もここで過ごしていた話は確かに知っていたが、そんな過ごし方をしていたのは初耳だ。
「葬儀屋ってお葬式する人ですよね?」
「そうだな。俺の場合は遺体を見つけたら墓を建ててやるくらいなもんだったが、ただ墓を建てて終わりも、死んだ者が哀れな気がしてな…聖書を読むようになったのはそれからだ。所詮は真似事でしかないから、詳細なやり方は俺も知らん」
眉根を寄せたままイディオットは失笑する。
「ここに来てから俺は初めて不思議の国のアリスを読んだんだが、三月兎の配役ってのは所詮はアリスと帽子屋の会話に眠り鼠と一緒にチャチャを入れるだけの茶会の添えものだ。そのせいか分からないが、やけに眠り鼠に鉢合わせる機会が多くてな…アイツらの足跡のように身元の分からない遺体があって、俺はずっとそれを弔ってきた」
分厚い本を閉じ、彼は視線を上げる。空は初めてイディオットに出会った時のように、雲が橙色へと変わり始めていた。
「眠り鼠が何を考えているのか分からないが、犠牲が常に伴う世界は俺は好きじゃない。現実に帰りたい奴も沢山いるんだ。だから、俺は眠り鼠を殺してでもアリスを解放する気だ。あとは、奴らの精鋭に適うだけの力さえあればな…」
「…アマネが問題ですよね」
彼の言葉を聞きながら僕は自分の膝を抱え、膝に顎を乗せた。
そう、アマネが強すぎるのだ。眠り鼠の軍の規模は、実はイディオットの集めたメンバーたちと大した人数の差はないそうだ。純粋にアマネが強すぎるという戦力の差があった。
この14日間、僕も何もしなかったわけではない。こうしてジャッジを待ち伏せしている間に、イディオットに戦い方の稽古も付けて貰ったし、それなりの情報収集もしていた。
当時のイディオットはこの世界に来て、わずか1年。たまたま森で出会った眠り鼠と対話を試みたが、双子の邪魔が入ってまともに話せなかったらしい。その際に双子とはやはり戦闘になり、対話が不可能と判断し、渋々撤退したそうだ。
それから、イディオットは何度か眠り鼠の軍と交戦し、勝利を収めたことはあるらしいが、アマネとの交戦経験は彼にはまだないらしい。アマネについては、彼が殺したと思われる仲間たちの遺体から戦闘力を測ることしか出来てないそうだ。
アマネと交戦した者は全員生きて帰れなかったらしい。生き証人がいないのだから、それは戦闘力を測るのは困難を極めるだろう。
「三月兎の能力は、身に付けているもの、触れている物の硬化だけだからな。前は防戦に徹してアマネが飽きてくれたから助かったが…仕留めるとなると話は変わるからな」
イディオットは寄りかかっていた木から身体を起こし、彼はスーツの埃を払った。
「今日もダメだな、もう暗くなる。帰るぞ」
「はい」
彼に言われて僕も立ち上がる。背が高くて歩幅の広い彼に合わせると、いつも早歩きになってしまうが、もう大分慣れた。
「しかし、なんで三月兎なのに能力が硬化なんだろうな」
歩きながら、イディオットがしげしげと自分の顎を撫でて首を傾げる。
三月兎は発情期…イディオットは男性…そこまで考えて僕はそれ以上の邪推はやめた。とんでもないことを言うところだった。
「なんででしょうね?そういえば、双子が三月兎は発情期だって言ってましたけど、そういう特色は反映されなかったんです?」
誤魔化しつつ、冗談を交える。まあ、人間に発情期なんてあるわけない。
イディオットは僕をチラと一瞥すると、少し難しい顔をして視線を戻した。
「…どうなんだろうな。俺にしては発情期なのは正しいかもしれない」
「えっ!?」
「いや、ずっと興奮してるわけじゃない!勘違いするな!」
予想外の回答に思わず飛び退くようにして距離を取った僕に、イディオットは顔を真っ赤にして両手を振った。
「俺はその…現実では性的な欲求をあまり他人に抱けないんだ。別に勃起不全とかではないんだ。行為自体は出来る」
彼の言葉に僕は飛び退いた距離を縮めながら首を傾げる。
僕もあまり性欲は強くないので、少しは理解出来るような気はしたが、彼が指す言葉が僕の考えているものと同一ではないようなニュアンスに聞こえた。
「それってムラムラしたりとか、人を好きになったりはするんですか?」
「そもそも人は好きだし、ずっと傍にいたいと感じるほど相手を好くこともあるぞ。ただ…あまり性欲は強くないのかもしれない。お互いに居心地が良ければそれでいいと思っているし、子作り目的とかでないなら行為に意味を感じないからな」
元の距離までイディオットの傍に寄ると、彼はそれを確認してから再び歩き出した。
「この身体になってから、行為に対する欲求を抱く機会が増えた。普通の人はこんなに悩むのかと考えると、なんだか不思議だな。かと言って、その欲求を誰かに押し付けてまで解消したいとも思わんが」
相変わらずまだ少し恥ずかしいのか、赤い顔でそう言うと、彼は気難しい顔のまま少し僕から目を逸らした。
「男同士だから信用して話したんだ。誰にも言うなよ」
バンッと背中を手の平で叩かれる。あまりに景気良い音で思わず身体が跳ねたが、音が激しいだけで痛くはなかった。ツッコミ上手の芸人さんみたいだ。
「あっ、へへ…秘密しますよ、そりゃ…ひひ」
思わぬ男扱いに自分でもちょっと気持ちが悪い笑いが漏れる。なんだか凄く嬉しかった。
小さい頃に女子トイレに入ったら「男の子のトイレはあっちよ」とおばさんに言われた時も、なんかこういう感じだった。ちょっと得意げになってしまうあれ。別に褒められているわけでもないのに。
イディオットと一緒に集落に戻ると、まだまばらに人々が作業をしている。
彼らは食料を調達したり、この世界のあちこちへと初期のお茶会についての情報を集めたりしている。中には武器を作ったり、戦闘のための訓練を積む人もいる。
イディオットはアリスを解放するためなら、眠り鼠を殺すことも厭わないと言っていた通り、最悪は眠り鼠と全面戦争する気でいる。だから、本人も戦えるよう修練を積んでいるし、人を集めているのだろう。
しかし、眠り鼠については僕自身、悪い噂や憶測をすることはあれど、嫌いかと言われれば正直分からなかった。だって、僕は彼女に会ったことがない。見たこともない。ただ、イディオットの話から聞いている、彼女の悪い話しか知らない。
イディオットは彼女を含む、アマネや双子たちに大勢の仲間を殺されたと言う。それは集落の人々も話していたから、事実としては間違いない。
アマネの頭がおかしいことを僕は身をもって知っているし、彼を雇い入れる眠り鼠の気持ちは理解出来ない。
それでも、ジャッジが言ったように本人を知らなければ何とも言えない。僕は眠り鼠のことを嫌いになれるほど彼女を知らないし、彼女を慕う双子たちも少ししか話していないが、嫌いにはなれなかった。
「オットーさん、お帰りなさい!」
「お疲れ様です!本日の作業報告、よろしいでしょうか!」
「連日お疲れじゃないですか?お休みになった方が…」
作業をしていた人たちはイディオットを見るやいなや、僕らを中心に輪を作るように集まる。口々に彼らが発する言葉は全てイディオットへと向けられていた。
「ただいま。順番に聞くから少し待て。そうだな、じゃあまずは…」
隣のイディオットが相変わらず眉間に皺を寄せた難しい顔のまま、口元だけで少し微笑んで一人一人に耳を傾ける。
僕はこの時間が苦手だ。人望の厚い彼の横にいるだけで何も成さず、何も出来ず、ただそこにいるしかない自分の無力感が辛かった。
「アスカちゃん!お疲れ様!」
不意にぽんと背中を叩かれて振り返る。そこには、初めて集落を案内してくれた女性…トゥルーが笑顔を浮かべて立っていた。
「オットーさん、どうせお取り込み中でしょ?私たちは先にご飯にして、明日に備えて休みましょうよ!もうご飯の配給始まって結構経つのよ、私が作ったご飯冷めちゃうわ!」
「えっ、でも…」
「オットーさん、アスカちゃん借りるわね!」
彼女の提案に、どうしようか迷っている間に彼女はイディオットに声を掛ける。
イディオットは気難しい顔のままこちらを一瞥し、傍の人に渡された書類にサインをする。
「そうしてくれ。明日も歩くんだ、よく食べて寝ろ」
彼の横顔を見ながらトゥルーは僕に微笑む。
「ほら、アスカちゃん行きましょ!」
「あっ、じゃあ、お先に失礼します…」
「明日もよろしく」
こちらを見もせず、イディオットが付け加える。彼の行動はいつも威圧的に見えるが、言葉にいつだって嘘偽りはない。14日間でしかないが、それは側にいて分かっている。
「はい!よろしくお願いします!」
彼に元気よく返事を返すと、イディオットは書類に目を向けたまま黙って口元に笑みを浮かべた。
「アスカちゃん、オットーさんと仲良くなれたみたいで安心したわ」
僕の様子を見ていたトゥルーがクスクス笑う。
「いい人でしょう?ああ見えて熱血漢だから、たまに暑苦しいけど、ご愛嬌よね」
「ああ、熱いのはちょっと分かるかも…でも、僕はあれくらい熱くなれるの、ちょっと憧れます」
イディオットは仲間を助けることや、自分の志のために全力を尽くせる人だ。僕にはそうなるほど誰かを大事に出来たことがない気がして、人を率いて全力をつくせるイディオットに憧れのような感情を抱くようになっていた。
だからこそ率直な気持ちだけを言えば、イディオットに眠り鼠と戦争なんかして欲しくない。僕にとってはイディオットは憧れの人だが、敵もよく分からない。ぶつかって、2人とも傷つくだけなら、それは賛成できなかった。
彼女の隣りに並んで洞窟の中に入る。薄暗く、それでもほんのり明るい通路を歩くと、本当にご飯が配給された後らしく、良い香りが漂っていた。
「今日は海で取れる牛のステーキ!今日はたくさん牛が釣れたらしいの~!」
「牛が釣れるのか…」
広場の中央の屋台に向かって歩きながら笑うトゥルーに、僕も笑う。さすが不思議の国が舞台なだけあって、毎日の献立名に毎回混乱させられるが、さすがに最近は慣れてきて突っ込む気すら沸かなくなっていた。
この集落の食事の配給は食料調達班とトゥルーを筆頭にした調理を行う炊事班、出来上がったご飯を実際にみんなに配り、食後の食器を洗う配給班で成り立っている。なので、トゥルーはよくご飯を作り追えると、あとは配給班に任せて僕をご飯に誘ってくれていた。
「あっ、トゥルーにアスカさん!」
配給を行っている屋台に寄ると、配給班の1人が声を上げる。黒目と白目が反転した独特な瞳を持つ男性、彼はトゥルーの恋人のメアだ。
「メア、アスカちゃん今日も白兎を探しに行ってたから、ご飯大盛りにしてあげて!」
屋台に置かれたお盆を僕に手渡し、トゥルーがメアにウィンクをする。
メアとはトゥルーを介して、僕も最近よく喋るようになった。メアはおっとりした物腰の柔らかい男性で、人見知りの僕でも話しやすい雰囲気の持ち主だ。
彼はトゥルーに微笑みながら肩を竦めた。
「そうだね、今日はトゥルーがご飯作りすぎちゃったから、たくさん食べてあげて。余らせてしまうと勿体ないからね」
「だって、あんまり海牛の数が多かったから...! みんなもたまにはお腹いっぱいお肉食べたいでしょう?キノコとコケばっかじゃ飽きちゃうじゃない!ね、アスカちゃん?」



僕に賛同を求めるトゥルーの横で、メアが皿にハンバーグ大の肉をまるでホットケーキのように三段重ねで積み上げて僕のお盆に乗せる。
これは確かに多い。食べられて1枚半だ。
「確かにキノコ率が高いので、お肉凄く嬉しいですけど…食べ切れるかなあ?」
「食べて!」
苦笑いする僕にトゥルーが悪びれるでもなく完食を要求する。メアはふふっと小さく笑った。
「あんまりアスカさんをいじめちゃダメだよ。程々に残していいからね?」
「そうします」
僕もメアに笑い返すと、トゥルーが僕の背中を押して広場に設けられたベンチの方へ歩くよう促した。
「じゃ、メアまた後でね!配給頑張って!」
「うん、トゥルーもお疲れ様。アスカさんも楽しんでね」
反転した独特な瞳を細めて手を振るメアに、僕も手を振り返す。
配給されたご飯はどこで食べるも自由だが、すぐに食べられるように広場のあちこちにはテーブルやベンチが配置されている。僕らは広場の隅のベンチに腰掛けると、トゥルーは僕の隣りに座った。
「そう言えば、トゥルーさんのご飯は?」
「もう食べちゃった!私はアスカちゃんとお喋りしたかっただけよ」
お盆を膝に乗せてステーキを口にする僕を、トゥルーはニコニコと見守る。食べているところをマジマジと見られるのは少し照れるが、なんだかこうしていると友達っぽくて嬉しい。
膝の上でナイフでステーキに綺麗に切れ込みを入れる自信がなかったので、フォークを刺してそのまま齧る。
肉は思っていたより柔らかく、ソースは甘辛くて美味しかった。
「ねえ、アスカちゃんは夢から覚めた時、見ていた夢のことを思い出せる?」
トゥルーは穏やかな笑みを浮かべたまま尋ねる。僕は彼女の顔を見つめたまま、口の中のステーキを咀嚼し、飲み込んだ。
「…うーん、場合に寄りますね。やけに鮮明に覚えていて、忘れられないものもありましたし、凄く強烈な夢だったのに忘れたり…」
僕は割と夢をよく覚えているタイプだ。人によっては、僕の話を聞いて「よく覚えてるね」と感心されることもある。
それでも、飛び起きるほど怖かったり、寝言で笑うほど愉快な夢でも、起きた直後までは覚えていたのに、朝ご飯を食べる頃には忘れていたりもする。
トゥルーは僕の話に深く頷くと、膝の上で両手の指を組んだ。
「そう…そうよね。覚えてることもあるわよね。私、いつも夢は綺麗に忘れちゃうから…」
そう言って笑うトゥルーは笑顔のまま、口調すら明るかったが、珍しく不安そうに見えた。
「私、現実での仕事が凄く好きで。学校の先生なんだけどね、教え子たちを待たせてしまっているだろうから早く帰りたいの」
「学校の先生!」
通りで知的で落ち着いていると思った。僕がそう言う前に彼女は言葉を続けた。
「オットーさんと会って、夢から覚めるためにこの集落に来たの。そこでメアと出会って…メアといつか結婚出来たらいいねって話していたのよ」
結婚が約束出来るような人に出会えるなんてロマンチックな話だ。そう思ったが、先程の彼女の話の導入を思い出して、僕は口を閉ざす。
そうだ、ここは夢の世界。目覚めた人はいない。目覚めたとして、覚えているかも分からない。前例がないのだから分からない。
もし夢のことを忘れてしまうのであれば、トゥルーがメアとした約束も忘れてしまうだろう。
「メアもここにいるんだから、きっと目覚めたいのよね。でも、私は彼を忘れてしまうくらいなら…なんて考えてしまうの」
もじもじと組んだ指先を弄りながら、トゥルーは笑みを浮かべたままため息を吐いた。
「悪い奴でしょう?私、少しだけ夢から覚めたくなくなってる。でも、そんなのメアだけじゃなくて、拾ってくれたオットーさんの気持ちさえ裏切ることになるわ」
「悪い奴なんて…そんなことないですよ。好きな人と離れたくないなんて、当たり前の話じゃないですか」
僕は食べていたステーキのお盆をベンチの横に避け、トゥルーの背中をさすった。
彼女の気持ちはとても人間らしかった。側にいて心地よくて、愛しい人のことを手放したくはないだろうし、根本の記憶ごと失うなんて想像もしなくないだろう。
だけど、この集落はイディオットの指揮で着々と現実に帰るための準備を進めている。帰るのが、夢から覚めるのが目的の集団なのだから、それは当たり前だ。そんな場所にいながら、自分の意思に相違が生じれば、居心地が悪いのはうなずけた。
イディオットは優しくて、情に厚くて、目的のために1人でも突き進める人だ。そんな彼がリーダーだからこそ、彼の行動に尻込みしてしまう自分が恥ずかしくなる瞬間がある。尊敬してるからこそ、サポートできない自分への自己嫌悪が捗る。
少なくとも、僕にはたまにそんな瞬間があった。トゥルーも心からイディオットの行動に賛同出来ない自分を恥じて、そんな自分を責めているように見えた。
「おい、ペテン師が女を引っ掛けてんぞ」
彼女の背中をさすっていると、突然目の前に男性3人が立ち止まる。顔を上げると、目の前に見知らぬ男たちが僕を指さして笑っていた。
「オットーさんに嘘ばっか吹き込んで、次はナンパなんて調子乗ってんじゃん」
「ジャバウォックとか言っちゃってさあ、超弱そう。俺らでも倒せんじゃね?」
僕のことをよく思っていない人間がこの集落にいることは知っていたし、ヒソヒソと陰口を言われることはあれど、ここまで直接的な嫌がらせは初めてだった。
怖いとか、腹が立つとか、そんな感情の前に僕は状況が飲み込めずに口を半開きにして彼らを見上げていた。そんな僕より先にトゥルーが立ち上がり、珍しく目を釣り上げた。
「ちょっと…これは私が悩みを聞いてもらってただけで、彼は何も悪くないわ!」
「あ、そーお?でも、トゥルーもあんまソイツとつるまない方がいいぜ、お前もペテン扱いされるぜ」
「知らないわよそんなの!私は私が選んだ人と友達でいたいだけよ!」
ケタケタと笑う男性にトゥルーが声を荒らげる。
自分のことを言われているはずなのに、まるで他人の喧嘩を見ているようだった。なんとか場を収めないと、と僕も立ち上がり、トゥルーの前に出る。
「す、すみません…彼女は何も関係なくて…」
「謝るくらいなら働けや!みんな夢から覚めるために働いてんだぞ!オットーさん騙して、タダ飯食ってんじゃねえ!」
突如、胸ぐらを掴みあげられてつま先立ちになる。目の前の男性は嘲るのをやめて、額に血管を浮き上がらせて怒鳴り散らす。彼の怒号に唾が飛び、僕は顔をしかめた。
「新しく来たばっかのくせにシャシャりやがって…俺の方が3年も前からここでオットーさんの手伝いやってんだぞ。配役がなんだ」
ケッと彼は吐き捨てるように言うと、僕をベンチへ突き飛ばす。いくらイディオットに戦い方の稽古を付けてもらったとは言え、どうしたらいいか分からずに僕はそのまま背中からベンチに倒れる。ベンチの角を膝裏にぶつけ、壁に背中を打ち付けてしまい、軽い痛みが走る。
「やめてよ!貴方がオットーさんに頼られないのは、オットーさんが貴方を認めてないからじゃない!アスカちゃんのせいじゃなくて、貴方自身のせい!八つ当たりは恥ずかしいわよ!」
「コイツがなんの成果を上げたんだよ!白兎が見えるってホラ吹いただけだろ!なんの成果も上げてねえ!俺の方が成果を出してるに決まってんだろ!」
止めに入るトゥルーに男は怒鳴り散らし、背後に立つ2人はそれを見て笑っていた。
突き飛ばされたせいでベンチに座り込む形になってしまったが、僕はその様子を見ながらゆっくりと立ち上がる。
変な話なのだが、僕は男の言い分に共感してしまったのだ。彼の気持ちがよく分かって、怒りよりも申し訳なさが勝った。
だって、僕は本当になんの成果も上げていない。ジャバウォックという配役をたまたま持っていて、白兎が見えるという話をイディオットにしただけ。話しただけで、実際に僕は白兎のジャッジにあれから一度も出会えてないのだ。
悔しいだろう。僕なら悔しい。自分より頑張っていないように見える人間の方が評価されたら、堪らない。
「すみません、確かに僕は白兎を見つけられてないです」
僕の言葉に男が振り返る。怒りに目を剥き、彼は顔を真っ赤にした。
「ほら!やっぱり…」
「でも、嘘は吐いてないです。絶対に白兎は見つけます」
彼の目を見つめ、僕は静かに答える。
嘘は吐いてないんだ。いつだって本当のことを話している。
本当のことを話しているのに、相手に折れてしまえば真実が曲がる。僕が嘘吐きになる。白兎が見えるのは僕だけなのだ。僕の潔白は僕自身が守らなくては、ジャッジのことまで嘘にされてしまう。
クラスメイトに責められた時も、両親に理不尽なことを言われた時も、僕が本当のことを言ったって信じてくれないからと僕は謝ってきた。僕を嘘吐きだと詰った彼らを僕は恨んでいたが、僕を嘘吐きにしてきたのは、いつだってあの場で謝罪した僕だ。僕が自分を守らなかったからだ。
僕だけが嘘吐きになるなら諦めていたかもしれない。だけど、恩人のジャッジまで嘘にされたくなかった。
静かに、それでも力強く答えた僕に男は顔をしかめる。
「はっ、嘘をどうやって証明するんだか!」
「嘘じゃないので、絶対に成果を上げます。今すぐじゃなくて申し訳ないですけど…でも、白兎はいます。僕は彼と話せます。だから、もう少し待ってください。白兎を見つけた時が、僕の潔白の証明になるはずです」
僕を睨む男を僕はただ見つめ返す。彼は何かを言い返そうとしているようだったが、言葉が出てこないのか、口の端が苛立つようにヒクヒクと動いた。
トゥルーは少し驚いたように僕を見つめていたが、我に返ったように男に向き直った。
「ほら、だから言いがかりは…」
彼女がそう言いかけた瞬間、広場の奥から悲鳴が上がる。何事かと悲鳴の方を見ると、大勢の人間たちが何かから逃げまどっている。
ただ事ではない雰囲気に男たちも後ろを振り返る。彼らは目を見合わせて不安に顔を淀ませた。
「早く逃げろ!正面の入口は危ない!今すぐ退避しろ!」
遠くから聞き覚えのある声がする。イディオットの声だ。
その声から間を置かず、目の前の男の頭から破裂音がし、血が吹き出す。ぐるりと白目を剥いて男が地面に倒れ伏すと、トゥルーがその様子に目を見開いて口に手を当てた。
その次の瞬間にはもう一人の男が声を上げて倒れる。足元に大量の血だまりが広がり、彼はその中で蹲った。
僕の足に何かがぶつかった。何かと思って自分の足元を見ると、そこには男の千切れた足首が転がっていた。
トゥルーが悲鳴を上げる。わなわなと震えて彼女は腰をぬかしてその場に座り込んだ。
何が起きたのか脳みその処理が追いつかない。まるでスローモーションのように遠くからイディオットがこちらへ向かって来ているのが見えて、僕はただそれを呆然と見つめていた。
「逃げろアスカ!アマネだ!想定より手強い!」
イディオットの背後にモッズコートの男が見えた。
彼は棒付きキャンディーを口にくわえ、黒くて瞳孔の小さな瞳を細めて笑った。
「見つけたあ」
アマネはポケットから小さな石ころを取り出す。それを左の手のひらに乗せ、僕に狙いを定める。右手の親指と人差し指で輪を作ったそれを小石に当て、人差し指をはじき出す。
凄まじい勢いで打ち出されたそれは、まるで弾丸のようだ。呆然と立ち尽くす僕の前にイディオットが身体を滑り込ませる。カンッという金属音と共にイディオットが小石を聖書ではじき返す。
「何してんだ!早く逃げろ!」
彼の声にハッと我に返る。今更のように震えだす身体を無理やり動かし、傍に座り込むトゥルーの手を掴んで引っ張りあげる。しかし、トゥルーは震えて身を縮こませたまま動かない。
「邪魔すんな、アマネはジャバウォックに用があんだよ」
アマネはズルズルと地面に引きずっていた斧を片手で振り上げ、くるくると回す。回したそれを遠心力をそのままに立ちはだかるイディオットに切りつけた。
アマネの斧を再び聖書の角で受け止めると、イディオットはそのまま彼と鍔迫り合いを始める。あれだけ逞しい男性なのに、刃を受け止めたイディオットが勢いに押されて足が地面を滑る。それだけでアマネの力が人としてあり得ない強さを持っていることは明白だった。
交戦するイディオットの姿を見た数人の人間たちが武器を持って走ってくる。
「やめろ!戦うな!今じゃない!」
走ってくる彼らにイディオットが叫ぶ。それとほぼ同時にアマネがイディオットを弾き飛ばし、そのまま身を翻して斧を振るう。アマネに襲いかかろうとしていた2人の男性の身体がその斧に裂かれ、上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
「くそザコすぎて欠伸出る。弱いくせに出しゃばんじゃねえよカース」
腹から息を漏らすようにアマネが笑う。それは初めてこの世界に来た時に聞いた、あの恐ろしい吐息。
「トゥルー!早く!」
青ざめて震えるトゥルーの腕を再度強く引き上げると、彼女がようやく立ち上がる。彼女の腕を引いて僕は奥の通路へと走り出す。通路の向こうには出口がある。この集落にはもしもの時用にイディオットが作らせた出口が沢山ある。上手く逃げ切れば、大多数は助かるはずだ。
「おい逃げんのかあ、トンマ。ヘタレ。悔しくねえのかよお」
背後でアマネが笑いながらポケットに手を入れる。その手をすかさずイディオットが聖書で叩き落とした。
「お前の相手は俺だ。お前こそ逃げる気か」
「はあ?三月兎のくせに粋がってんじゃねえよバーカ。お前の頭ちょんぎって、その首でサッカーしてやる」
彼らの会話が少しずつ遠ざかる。今はとりあえずトゥルーを逃がさなくてはならない。イディオットが足止めしてくれている時間を無駄には出来ない。
「ね、ねえ…オットーさんが…」
「今のうちです!逃げましょう!」
足がもつれる彼女を励ましながら通路を抜ける。しばらく走っていくと右手に自分の部屋が見えた。部屋の壁に立てかけられた黒い傘が目に入り、僕は立ち止まる。
「アスカ…?」
立ち止まった僕にトゥルーが小さく尋ねる。困惑と恐怖が入り交ざった震えた声。僕は少し考えてから、彼女に小さく笑って見せた。
「…トゥルーは先に逃げて」
「そんな、アスカ…」
「部屋に沢山忘れ物があるんだ。白兎からもらった大事なものもある。少し時間がかかるから先に行って下さい。きっと、外でメアも心配してますよ」
僕の言葉に彼女の瞳が揺らぐ。
「本当に追いかけて来てくれるのよね?嘘じゃないわよね?」
「本当ですよ。僕が腰抜けなの、トゥルーもずっと見てきたじゃないですか。僕が戦ったってアマネに勝ち目なんかないし、僕は怖がりですもん。すぐ追いかけます!」
眉を寄せて笑うと、彼女はこちらを見つめ、迷ったように視線を泳がせてから頷いた。
「…分かったわ。必ず外で会いましょう」
「はい!また後で!」
僕が頷くと、彼女はようやく出口に向かって走り出す。小さくなっていくその姿を見送り、僕は自分の部屋へと入る。
部屋にあるのは来た時と変わらない、オレンジのような何かと、ランタンと黒い傘。僕は黒い傘を手に取り、部屋を出る。結局、オレンジみたいなフルーツ、食べなかったな。おやつにとっておいたのに、いつも沢山ご飯が出るから食べる機会がなかった。
通路に出ると右には出口につながる道があり、左手にはイディオットが戦っている広場へと繋がっている道がある。僕は傘を握りしめ、左へと走った。
僕はジャバウォック。アマネに殺された、沢山の誰かの補欠。それはつまり僕がいなくなったって、すぐに誰かが補充されるということ。
村人に殺されるジャバウォック。それが僕の配役。ジャバウォックは村人と戦う役割なんだ。それなら、僕が戦わなくてどうする。
傘を握る手が恐怖で震えていた。心臓が馬鹿みたいに音を立てて騒ぐ。死ぬのが怖いと泣き叫ぶそれに、僕は笑って蓋をする。
大丈夫、こんなのただの武者震いだ。
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