シュガーポットに食べかけの子守唄

Life up+α

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4章

1 傍若無人な同行者

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1.
湖をアマネを連れて飛び、村へと辿り着く頃には慣れない背中の筋肉が疲れ果てていて、とてもじゃないが空を飛ぶ気にはなれなかった。トボトボと歩く僕にアマネは息を漏らすように笑った。
「アマネがアスカの足に掴まっててやったのに、それだけで翼が動かなくなるとかザコか」
「あなたが足にくっついてるだけで、風の抵抗凄いんだよ?ブラブラして安定しないし、重いし」
僕は返事を返しながら深い溜息を吐く。
僕が飛ぶ時にアマネを抱っこする提案はあったのだが、アマネは僕の腕力が信じられないからと、自らが僕の足にぶら下がる方を選んだ。寄りにも寄って何故か右足だけにぶら下がってくれたので、バランスは取れないわ、風の抵抗も変に受けるしで飛行が大変だった。
僕の疲労感など知ってか知らずか、アマネは僕の隣でムシャムシャとパフチョコレートを袋から鷲掴みにして食べていた。
「…懐かしいとこだなあ」
口いっぱいにチョコレートを含んだまま、こもった声でアマネが言う。村の入り口まで来ると、住民たちが目を丸くして逃げ出す。
蜘蛛の子を散らすように彼らは一斉に自宅へと逃げ込み、ガチャンと鍵を掛けた。ミズキと来た時はあんなに賑わっていたのが嘘のように、村から人という人が姿を消した。
「相変わらずビビり散らかしてやんの」
これだけの光景を前にアマネは表情を変えるでもなく、パフチョコレートを食べながら村の中へと剣を脇に刺して歩く。
確かにアマネが来れば、今までの僕なら同じように逃げていただろう。誰も太刀打ち出来ないと言われている人間に、自ら挑むなど自殺行為でしかない。彼の性格や悪評、襲われたことがある者からすれば逃亡は当然の行為だ。
しかし、こうして逃げられる側に立ってみると、自分が顔を出すだけで皆が逃げていくのは酷く寂しいもののように思えた。
「…アマネはこの村から始まったんだよね?お父さん役の人を殺したと聞いたけど…」
聞いていいものか悩みながら、おずおずと彼に尋ねる。アマネは口に詰め込んだチョコレートを咀嚼し、飲み込んだ。
「そうだよ、父親役が嫌いだから」
ふと、アマネが視線を上げる。そこにある何の変哲もない二階建ての木造の建物へと歩み寄る。彼はおもむろにその家のドアノブを捻った。
皆が鍵を掛けて家に逃げ込む中、その家だけが簡単に戸を開いて見せた。
「アマネの家」
そう言われて中を覗き込み、僕はギョッとする。リビングに置かれたテーブルは叩き割られ、椅子は無造作に転がされている。床にはおびただしい量の赤茶色の乾いた液体がこびりついており、今でも鉄臭さが微かに判別できた。
「父親役のリスポーン地点はここ。だから、ここで殺す」
「リスポーン?」
「初めこの世界に配置される場所のこと」
顔を顰めたままアマネに聞き返すと、彼は当たり前のように答えながら無遠慮に家に上がり込んだ。
彼の口ぶりでは、配役持ちは毎回同じ場所からスタートしているように聞こえる。そう言われれば、僕も何もジャバウォックの特徴が出ていなかった状態の僕を、ジャッジは場所とアマネに殺されかけている状況だけでジャバウォックと言い当てた。やはりあの森の一角がきっとジャバウォックのスタート地点と言うことなのだろう。
「2階にベッドがある。休んでこうぜえ、アマネもう疲れたあ」
「えっ!?この家で!?」
確かにアマネと一戦を交えてから、僕らは眠らずにここまでやって来た。この様子では村で宿は取れないだろうし、疲れたし眠いのは同意だが、こんな恐ろしい光景が広がる家の二階で眠るなんてちょっと想像できない。
しかし、アマネが休むと言うのだ。凄まじい生命力はあろうとも、彼も疲労くらいするだろう。無理やり引っ張って行くのはそもそも無理だろうし、休ませてやりたい気持ちもある。
正直、イディオットに会うなら僕1人の方が気楽ではあるが…アマネは僕がすることを全て見たいと言っていたので、提案するだけ猜疑心を煽るだけだろう。
「おい、アスカ早くしろ。眠い」
階段を半分まで登ってアマネが振り返る。
「分かったよ…」
渋々と彼に続いて階段を登る。振り返ると血だらけのフローリングが見えて気が滅入ったが、もう気にしないようにしなければ僕も休めない。
2階に上がるとシングルベッドが2つあり、奥のベッドに倒れるようにアマネが飛び込む。彼の身体がバウンドし、手に握っていた剣が床に落とされ、ガランと床で音を立てた。剣が欲しいと言うから作ったのに、本当に大事にしてるのだろうか。
僕は反対側のベッドに腰掛ける。目の前のアマネはベッドに横になったまま動かない。
「布団、掛けないと風邪ひくよ」
「うるせえ」
声を掛けると、アマネはベッドに顔を埋めたままこもった声で返事を返す。こうして接してみると、彼は本当に大人の姿をしているだけの子供だ。
僕はベッドから立ち上がり、アマネのベッドの毛布を、彼の身体の下から無理やり引っ張り出す。そのまま毛布を彼の身体に掛けてやると、彼は何も言わずに毛布にくるまって丸くなる。



「ほら、やっぱり寒かったんじゃないか」
「うるせえなあ」
思わず笑うと、アマネは僕に背を向けたまま先ほどと似たような返事をする。彼の中でこの返事は、面倒な時のテンプレートなのかもしれない。
窓を見るとまだ外は昼間で明るいが、昼寝にはいい時間なのかもしれない。僕もコートを脱いで畳むと、傍の棚に置く。傘を立てかけ、靴を脱いでベッドに横になった。
アマネの身体は服や靴込みで彼の身体らしいので、何一つ衣服が脱げない彼は全身がもこもこしていて不自由そうだ。
「…アマネはこっちのお父さんとも上手くいかなかったの?悪い人だった?」
アマネの背中に静かに尋ねると、彼は沈黙したまま話さない。デリケートな質問だろうし、なんならもう寝てしまっていてもおかしくない。僕は毛布を被って仰向けに転がった。
「…現実に比べれば、なんてことなかった」
会話を諦めた頃になって、突然アマネが口を開く。それが僕の質問の返答だとすぐに理解できず、僕はすぐに言葉が返せなかった。
「アマネが泣いて謝れば、父親も一緒に謝った。出来るだけアマネに触れないようにしていた。飯が毎日出て、寝床もあった。父親は現実でゲームを良くやってたから、帰ったらアマネとやりたいって話してた」
アマネは僕に背を向けたままポツポツと話していた。僕は仰向けから、身体を少しだけ起こしてアマネの方を向く。
アマネの話から僕なりの推測をすれば、虐待を受けたばかりで怯える彼に父親役の人は寄り添おうとしていたように思える。手を上げると怯えるから触らない、ご飯などの面倒を見る、何気ない会話を振る。どれも父親役の優しさのように聞こえた。
「リスポーンとか、ステータスとか、モブとかバフとか…ゲームで使う言葉なんだろ。父親役がこの世界のこと説明する時によく言ってた。この世界は命懸けのオンラインゲームみたいだって」
「そうなんだ。少し、分からなくもないけど」
僕は彼の言葉に小さく笑う。本当にそうだ。その感覚は分からなくもない。
この世界はオンラインゲームのようだ。自分をよく模したアバターは気持ち1つで成長し、配役持ちは何かしらの能力を持ち得る。ゲームだとしたら、確かに楽しかったのかもしれない。
でも、ここは現実で作られたゲームほど楽なものではない。自分の状態や成長が数値化されるわけでもなく、説明書もなく、殺されれば現実でも死んでしまう。痛みも苦痛もある。僕はそれが怖い。だから、きっとその父親役のようには楽しめなかったのだろう。
楽しめないし、共感もできないが…その父親役の人は自分なりにこの世界を楽しく生きる術を身に付け、アマネにそれを教えただけのようにも感じた。
「…その人は良い人だったように聞こえるね」
僕が呟くと、アマネは大きな溜息を吐いた。
アマネの現実の父親がとんでもない男なのは、皆まで言われなくとも理解出来る。アマネが殺したいと願うほど、憎まれるようなことをしているのだろう。
しかし、こちらの父親役は殺されるほどの悪人かと問われれば、今の情報だけでは頷けなかった。
「…アマネはこの世界に来たばっかの時、自分はずっと現実と同じ姿なんだと思ってた。ここに来て何日か経ってから、鏡の中のアマネの姿があのグズと同じだと知った。すげー嫌な気持ちになったけど、代わりにアマネは凄く強くなった気がしたんだ」
背中を向けていたアマネが仰向けに転がる。茶色の瞳は天井に向けられ、太陽の日差しが差し込むそれはいつもより明るい色に見えた。
「物を壊してみても、どこも痛くない。動物を殺してみたら、自分が思ってたより強かったと気付いた。なら、父親にも勝てんじゃねえかって思った」
彼の言葉を聞きながら、僕は以前に宿の酒場で聞いた話を思い出していた。
ある日を境によく笑うようになって、物を壊すようになり、動物を殺すようになり…父親を殺してアマネは外へ出て行った、と。
「薪割り用の斧を片手に父親役に話した。自分がどれだけ強くなったのか知りたいって。そしたら、息子はいつか父を超えるのだから、それで救われるなら超えてほしいって笑った」
「超えて欲しいって…殺していいってこと?」
「だから、アマネに殺されたんじゃねえの?現実に帰っても、サイアイの息子は帰って来ない。ここで殺されて、それでこの世界にできた愛する息子がトラウマに打ち勝てるなら幸せだってさ。アマネにはよく分かんねえけど」
アマネの言葉に僕は思わず黙り込んだ。つまり、アマネの最初の父親役の人は、彼と同意の元で殺されたことになる。
恐らく、その男性は現実で何らかの事情で息子を失っているのだろう。この世界でアマネの父親役として配役され、アマネを本当の息子のように可愛がっていたのは間違いない。
アマネの主なトラウマは現実の父親による虐待だ。トラウマを取り除くのは難しいが、それだけ父親を恐れるのであれば、物理的に自分が勝てるのだと肌身に感じさせてしまうのは、現実味のない話ではあるが手っ取り早くはあるだろう。
父親を殺し、自分は強いのだという自信を得たからきっと今のアマネがいる。そう考えれば、アマネの今の強さの裏側には、確かにその父親役の存在と影響があり、今も彼を支えているのだろう。
「父親役を殺したら、アマネはもう誰にも負ける気がしなくなったんだ。だから、村を出た。アマネはもう1人で自由に歩ける。誰にも負けない」
「じゃあ、何故いつも補充される父親役を殺すの?」
ずっと思っていた疑問を口に出す。そう言えば、父親役の配役に与えられる能力とは何なのかも分からないままだ。
アマネは父親役が嫌いだと言っていた。でも、彼の口ぶりでは父親役に嫌悪感を感じないのだ。
アマネは僕の言葉にチラと視線をこちらに投げ、彼は口元だけでニヤと口元を釣り上げて笑った。
「アマネの父親役は、アマネが最初に殺したアイツだけ。他の父親役がアイツの代わりやっていいわけないだろお?だから、殺す。息子が父親をいつか超えるなら、その日に超えたっていいだろ」
僕は彼の笑みに苦笑いする。
そんなことをして良いわけがない。相手は人間であり、命をそう易々と奪うべきではないのだ。ゲームのようにこの世界を楽しむ父親役に育てられた若干9歳の少年は、命を奪う行為の重大さがまだ理解できていない気がした。
だが、アマネのその行為は歪んではいるが、最初の父親役への愛慕であることは間違いない。自分を自立させて、支えてくれた父親役だけが自分の父親なのだから、その配役を永久欠番でいさせたいのだろう。アマネにとっての父親役は替えが効かない存在なのだから、補充された父親役が邪魔。だから、嫌い。
なんとなく、そう考えると父親役の配役が持つ能力が少しだけわかる。あくまで僕の想像でしかないが、父親役の能力は息子である村人のサポートや強化なのではないだろうか。
だとすれば、最初の父親役は存分に能力を発揮して、この世を去ったのかもしれない。
「…だからって殺しちゃダメだよ」
「うるせえ」
一応、注意を入れてはみるが、アマネはやはり聞く気はないようで、再び僕に背を向けるように寝返りを打つ。
きっと彼が凱旋のギャロップをこの村で踏む日は永遠に来ないのだろう。クスクスと鼻を鳴らして喜んでくれるはずの、自分を送り出した父親はもういないのだから。
「そう言えば、アマネはどうやって配役が補充されたのかを知ることが出来るの?僕の時も目覚めてすぐに殺そうとしたよね」
背中を向けてしまったアマネに尋ねる。もう1番聞きづらい質問はしたので、これくらい聞いてもなんと言うこともないだろう。
チラとアマネは僕に振り返ると、すぐにまた元の姿勢に戻った。
「何となく。アマネは父親役とジャバウォックがリスポーンすると、頭の端っこがジリジリするから、リスキルしに行く」
「リスキル?」
「リスポーンキル。リスポーン直後の敵が行動する前にすぐに狩ること。そんなことも知らねえのかバーカ」
飛び交うゲーム用語を聞き返すと、アマネが腹から息を漏らすように笑った。
僕もゲームは人並みにやるが、そこまで専門用語は知らない。しかし、ゲームなど虐待児のアマネの方がもっと分からない方が普通だ。それでも、ここまで詳しく知っているのは、やはり死んだ父親役がゲーム好きだったせいなのだろう。僕を馬鹿にしながらも、なんやかんやと解説してくれるように、父親役もアマネに丁寧に解説したのかもしれない。
「頭の端がジリジリねえ…」
僕は仰向けにベッドに転がりながらアマネの言葉を復唱する。
僕がこの世界に来た時点からでは、恐らく誰も補充されたことはない。経験しようにも、補充などいつ行われるかも分からない。アマネくらい大勢の配役持ちを屠っていれば、別なのかもしれないが。
「フロージィは三月兎がリスポーンすると分かるって。帽子屋も分かるのかもしれないけど、ずっと死んだままだから、分からないってさ」
「じゃあ、白兎とかチェシャ猫は?」
「知らねえ。アマネはアイツらのこと分かんねえし、会ったこともない。フロージィも何も言わないから、分からないんじゃねえの」
そこまで言うと、アマネは大きな欠伸をした。
「寝る」
「ああ、話しかけてばっかりいてごめんね」
寝よう寝ようとしているアマネについつい話し掛けてしまって、これでは確かに寝られるものも寝られないだろう。慌てて謝罪するが、アマネは振り返るでもなく、返事を返すこともなく、あっという間にスヤスヤと静かな寝息を立て始めた。本当に眠かったのだろう。悪いことをした。
しかし、補充されたのが何となく分かると言うのは、もしかすると配役同士で関連深い者たちだけが持ちうる感覚なのかもしれない。
アマネが父親役とジャバウォックの補充を察するように、イディオットとフロージィはお茶会のメンバーの補充が分かるのかもしれない。だとすれば、配役持ちがこの世界に降りたってすぐ、育つ前に命を狙われる原理も理解できなくはなかった。
僕はベッドの上で目を閉じる。1階下では恐ろしい光景が広がっていると分かりつつも、アマネの最初の父親役の話だけは少しばかり救いに感じてしまった。
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