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番外編
推される side クラーク
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クラーク=アクセルソンは周囲に気づかれないように落ち込んでいた。本気で好きだった元恋人のサシャ=ジルヴァールが辺境区域でアーヴィン=イブリックと結婚式を挙げたという噂を耳にしたからだ。
サシャを図書館で初めて見かけた時、月の使者だと思った。茶色の髪に茶色の瞳は仮の姿で、艶やかな銀糸の髪に美しいアメジストの瞳。クラークはこれ程までに綺麗な人を見たことがなかった。
クラークはそれまで、自身の性的嗜好はノーマルだと思っていた。しかし、サシャを見た時に全てが覆った。驚きはしたものの、傷つくこともなかった。それほどまでに自分の中にサシャがピタリと嵌ったからだ。
声をかけて、サシャをどんどん好きになった。
噂のことは最初から違うことは知っていた。しかし黙っていれば誰もサシャに興味も持たず、卒業後結婚したら、噂のことも、姿のことも、全てを明かそうとまで考えていた。
しかし、サシャはあろう事か、クラークと付き合っているにも関わらず、誰かとキスをしてきたと言うのだ。
許せなかった。嫉妬よりも先に、裏切られた事実が許せなくて、サシャを切り離した。
今考えれば衝動的過ぎて、もう少しちゃんと話していれば何か変わったのかもしれない。
けれども、そのキスをしたアーヴィンには本当の姿を見せていたと言うではないか。
完敗だった。騙したとはいえ、サシャのキスを掠め取り、サシャも姿を見せることを許していて、自分には入る隙間がどこにもないんだと思い知らされた。
それでもなお、サシャのことを忘れられなかった。
辺境区域まで行ってしまったサシャを追いかけることをしなかったくせに、未練タラタラのまま、1年が経って結婚したとディランから聞いた。
なるべく落ち込んでいるのを周囲に悟らせないようにした。話をしたディランには気づかれたかもしれないが、努めて明るく過ごすことにした。
けれど、ピタリと嵌ったピースはなかなか自分から剥がれようとはしてくれなかったのだ。
「クラークさ、ちょっと会わせたい奴がいるんだけど。どうだ?」
「…ディラン、気を遣ってるならやめてくれ。そういう気分じゃない」
「俺は絶対に気が合うと思うんだよなぁ、友達としてでいいから会ってみてくれよ」
ディランはサシャの一件以降、クラークによく話しかけるようになった。ディランの交友関係はかなり広い。本人曰く、浅く広くがモットーだと言うが、正しくそれを体現している。だからこそ、こういうキューピッド的なことも出来るのだろうと推測できる。
しかし、今自分は、キューピッドをされた所でそんな気持ちになれるはずもない。断ろうともう一度口を開こうとした。
「いいから。最初は俺も一緒に行くから、飯だけでも食おうぜ」
「……はぁ、分かったよ」
ディランは押しが強い。いつもこうやって負けてしまう。クラークも別に押しに弱い訳では無いのだが、ディランの有無を言わせない感じにはどうも勝てる気がしない。
「じゃ、明後日の夜な」
「分かった。仕事が終わったら連絡するよ」
「ほいほい。またな」
ディランは本当に憎めない奴だな、と思う。
サシャを図書館で初めて見かけた時、月の使者だと思った。茶色の髪に茶色の瞳は仮の姿で、艶やかな銀糸の髪に美しいアメジストの瞳。クラークはこれ程までに綺麗な人を見たことがなかった。
クラークはそれまで、自身の性的嗜好はノーマルだと思っていた。しかし、サシャを見た時に全てが覆った。驚きはしたものの、傷つくこともなかった。それほどまでに自分の中にサシャがピタリと嵌ったからだ。
声をかけて、サシャをどんどん好きになった。
噂のことは最初から違うことは知っていた。しかし黙っていれば誰もサシャに興味も持たず、卒業後結婚したら、噂のことも、姿のことも、全てを明かそうとまで考えていた。
しかし、サシャはあろう事か、クラークと付き合っているにも関わらず、誰かとキスをしてきたと言うのだ。
許せなかった。嫉妬よりも先に、裏切られた事実が許せなくて、サシャを切り離した。
今考えれば衝動的過ぎて、もう少しちゃんと話していれば何か変わったのかもしれない。
けれども、そのキスをしたアーヴィンには本当の姿を見せていたと言うではないか。
完敗だった。騙したとはいえ、サシャのキスを掠め取り、サシャも姿を見せることを許していて、自分には入る隙間がどこにもないんだと思い知らされた。
それでもなお、サシャのことを忘れられなかった。
辺境区域まで行ってしまったサシャを追いかけることをしなかったくせに、未練タラタラのまま、1年が経って結婚したとディランから聞いた。
なるべく落ち込んでいるのを周囲に悟らせないようにした。話をしたディランには気づかれたかもしれないが、努めて明るく過ごすことにした。
けれど、ピタリと嵌ったピースはなかなか自分から剥がれようとはしてくれなかったのだ。
「クラークさ、ちょっと会わせたい奴がいるんだけど。どうだ?」
「…ディラン、気を遣ってるならやめてくれ。そういう気分じゃない」
「俺は絶対に気が合うと思うんだよなぁ、友達としてでいいから会ってみてくれよ」
ディランはサシャの一件以降、クラークによく話しかけるようになった。ディランの交友関係はかなり広い。本人曰く、浅く広くがモットーだと言うが、正しくそれを体現している。だからこそ、こういうキューピッド的なことも出来るのだろうと推測できる。
しかし、今自分は、キューピッドをされた所でそんな気持ちになれるはずもない。断ろうともう一度口を開こうとした。
「いいから。最初は俺も一緒に行くから、飯だけでも食おうぜ」
「……はぁ、分かったよ」
ディランは押しが強い。いつもこうやって負けてしまう。クラークも別に押しに弱い訳では無いのだが、ディランの有無を言わせない感じにはどうも勝てる気がしない。
「じゃ、明後日の夜な」
「分かった。仕事が終わったら連絡するよ」
「ほいほい。またな」
ディランは本当に憎めない奴だな、と思う。
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