【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

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番外編

青春 side エメ

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春が来た
エメ=デュリュイは開き直る事に決めた。生来悩む事はあまりしない方で、前向きに考える事にしたのだ。

クラーク=アクセルソンという人物についてだ。

先日、彼がたった1人を想い続けながら物憂げな表情をしている姿に、エメは少し前まで付き合っていたナルシスト男のことなど吹っ飛んでしまうくらい、惹かれてしまった。

惚れっぽいのは自覚している。けれど惚れたら一途だから惚れっぽいのは許して欲しい。

そしてエメは、惚れると一直線になる性格だ。その男のことだけを考えてしまうという訳ではないが、1番に優先してしまうくらいには一直線である。

エメ自身も、こういう所が地雷男たちに好かれたんだろうなという自覚もある。
かといってこの性格が治れば苦労はしていない。なので今回も懲りずに惚れっぽく一途になってしまうのだった。

「ごめん、待たせたね」
「いやいや!俺が早く終わったから!」

クラークとはその後、ちょくちょく飲みに行くような間柄になった。付き合っているとかではない。断じて。

そもそも話も合うのだ。エメが言った言葉を優しく受け止め、会話はたまに途切れたりもするが、静かなのも嫌にならないくらい穏やかな空間になる。
まるで空気が清浄化されている。

粗野粗暴なばかりが騎士ではないとは分かっていながらも、彼の雰囲気は異質でもあった。

サシャ=ジルヴァールもきっと、こういう所を好きになったんだろうな。と勝手に想像して納得してしまった。

唯一、判然としない気持ちになる理由は、クラークがエメをそういう目で見ていない事だった。
エメは性的対象外である可能性も捨てきれなかった。

そもそも月の精とまで言わしめる美人と付き合っていたにも関わらず、特定の男が釣れるくらいで、友人たちからもそこそこ可愛いと言われる程度のエメでは食指が動かないのも納得出来てしまうのが悲しいところだ。

なんとなくため息をつきたくなってしまうが、それで諦められたらそれこそ苦労しない。

好きになってしまったのはもう仕方の無い事だ。クラークが振り向かなくても仕方の無い事だ。

恋愛は誰にだって平等で自由で、勝手に想うくらいの権利だってあるはずだ。

「エメどこ行きたい?」
「んー…こないだ友達に教えてもらった店があるんだけど、そこ行かない?」
「いいよ。友達ってディラン?」
「いや、ディランじゃなくて女友達。俺どっちかって言うと友達は女子の方が多いんだ」
「あ、なんか納得」
「なんでだよ」
「女子に可愛がられてそうだからね」

クラークが言っていることは間違いない。女友達たちは俺を男と思っていない。まぁそう思われても自分の性的対象が男である時点で困るのだが。
そして女友達たちも、だいたい地雷男たちに好かれているため悩み相談しやすいのだ。

店の中に入り、店員にテーブルに案内される。個室タイプの居酒屋のようで落ち着いている雰囲気の場所だ。

多分クラークは、前に入った少し騒がしい居酒屋より、こういう所の方が好きだろうなと思って選んだ。

「女の子たちと話すとさ、面白いんだよ。話の展開が早すぎてついていけなくなる時があるけど」
「あはは、女の子はそうだよね。話題の切り替えが素早いから僕もついてけないなぁって思うよ」
「ああークラークはすぐついていけなくなりそう。分かる。ノロいとかじゃないけど、ゆっくりしてる所あるしな」
「ディランと話してる時のエメは早いよ…ちょっと僕にはついていけない」
「ディランと話す時は大抵小馬鹿にされてる時だから適当に返してるだけ。女の子にディランと同じような返事してたら殺される」

そんなたわいもない話をしながら、飲んでいた。やっぱり、この穏やかな空気に和んでしまう。これはクラークだからなせる技だと思った。

「そう。じゃあエメはやっぱり凄いね」
「?やっぱり?」
「うん、あんなに嫌な事があっても、人に話せるくらい明るいし、人に気を遣わせないようにしてる。それって凄いと思うんだ」

クラークの言う、嫌な事というのは、過去の恋愛遍歴のことだろう。

「女の子たちも、そんなエメだからきっと仲良くしてるんだろうね」

ふわりと微笑む姿に、ついドキドキしてしまう。
クラークの笑顔は卑怯だとも感じた。
ずっと見ていたいのに、目を逸らしたくもなる。見ていて嬉しいのに、つらい気もする。

エメがクラークにとって恋愛対象外なら、早くこの恋を終わらせたい。
けれど、終わりが来て欲しくもない。

この矛盾してる気持ちを抱えてる今が、つらいのに、なんだか楽しくて仕方が無かった。

「そーかな…」
「うん、そうだよ」

だから、もう少しだけクラークの穏やかな空気を感じたいと、そう思った。
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