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番外編
憂苦に沈む side ダリル
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ダリル=ジルヴァールは怒りをどこに向ければいいのか分からなかった。
一年半ほど前に出ていったと思った兄であるサシャ=ジルヴァールが、侯爵家で金持ち騎士団長のイブリック家に最近嫁いだ。
しかもそのサシャはダリルとは違い、とても美しく成長していたのだ。ダリル自身の容姿もそこそこ自信はあったものの、そんな自信は兄の素顔に海の藻屑となって散った。
そして、兄が結婚した後から、何もかも上手くいかなくなったのだ。
ジルヴァール家は、美しすぎる身内の兄を蔑ろにするような伯爵家である。そんな噂が流れた。
この噂は、貴族にとっては大好物だったに違いない。いつも退屈している貴族達には絶好の暇つぶしともなりえた。
ジルヴァール家と懇意にしていた貴族たちも離れていった。孤立無援の状態で、経営も上手くいくはずもなく、父親も経営手腕が良い方でもないため一気に傾いた。
今は母親の実家の力を使って保っている程度である。
兄は呪われた紫目であると教えられ続けた。ダリルは父と母にそう教えられ、その通りであると思ったのだ。
それは16歳になった今でも思ってしまうほど、父と母に刷り込まれていった。
しかし、結婚前に来たイブリック家のアーヴィンとやらには、『どこが呪われてるんだよ。ちゃんと見てみろ、分かんだろ』と言われた。その時初めてまともに兄の眼を食い入るように見た。
まるでアメジストの宝石で作られた、ライラックの様な華やかな色だった。
ダリルの地味な茶色の瞳とは全然違う。悔しいことに、美しいとまで思ったのだ。
ダリルは兄と同じように学園に入ることになった。しかし、ジルヴァール家の噂は貴族の子供でも知っている。友人はおろか、教師たちにも冷たい目を向けられ、ダリルの自信は全て崩壊することとなった。
それでもやはり、性格は簡単に治るようなものでは無い。
こうなったのも全て兄が悪い。
ダリル自身は何も悪くない。
父も母もダリルもこんなに苦しんで良いはずがない。
母は人が変わったように、全てを受け入れていたが、父はそうではなかった。
父はすぐさまイブリック家へ連絡し、繋がりを持とうとした。しかし、陛下の覚えもいい騎士団長のイブリック家はそれを突っぱねた。
これでは、ダリルがもし跡を継ぐことになった時にどうなるかは分からない。
そもそも母の実家もいつまで支援してくれるのか、16歳ながらに不安になっていた。
ダリルは自身のせいではないと思いつつも、周囲の状況はなんら良くないことに、どこに怒りを向けていいのか分からなくなってしまった。
兄が悪いと思いつつも、もうこの場に兄はいない。怒りの矛先となるべき兄は辺境区域だ。ダリルは行きたくもない。
父はいつもイラついてダリルに声を荒らげるようになった。母はそんな父に代わって経営をするようになって忙しいのか話す暇すらない。学園でも友人はいない。何人かいた貴族の友人達からも手紙は一切来なくなった。
ダリルは、この先どうしたら良いのか誰にも相談できなかった。
一年半ほど前に出ていったと思った兄であるサシャ=ジルヴァールが、侯爵家で金持ち騎士団長のイブリック家に最近嫁いだ。
しかもそのサシャはダリルとは違い、とても美しく成長していたのだ。ダリル自身の容姿もそこそこ自信はあったものの、そんな自信は兄の素顔に海の藻屑となって散った。
そして、兄が結婚した後から、何もかも上手くいかなくなったのだ。
ジルヴァール家は、美しすぎる身内の兄を蔑ろにするような伯爵家である。そんな噂が流れた。
この噂は、貴族にとっては大好物だったに違いない。いつも退屈している貴族達には絶好の暇つぶしともなりえた。
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今は母親の実家の力を使って保っている程度である。
兄は呪われた紫目であると教えられ続けた。ダリルは父と母にそう教えられ、その通りであると思ったのだ。
それは16歳になった今でも思ってしまうほど、父と母に刷り込まれていった。
しかし、結婚前に来たイブリック家のアーヴィンとやらには、『どこが呪われてるんだよ。ちゃんと見てみろ、分かんだろ』と言われた。その時初めてまともに兄の眼を食い入るように見た。
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ダリルは兄と同じように学園に入ることになった。しかし、ジルヴァール家の噂は貴族の子供でも知っている。友人はおろか、教師たちにも冷たい目を向けられ、ダリルの自信は全て崩壊することとなった。
それでもやはり、性格は簡単に治るようなものでは無い。
こうなったのも全て兄が悪い。
ダリル自身は何も悪くない。
父も母もダリルもこんなに苦しんで良いはずがない。
母は人が変わったように、全てを受け入れていたが、父はそうではなかった。
父はすぐさまイブリック家へ連絡し、繋がりを持とうとした。しかし、陛下の覚えもいい騎士団長のイブリック家はそれを突っぱねた。
これでは、ダリルがもし跡を継ぐことになった時にどうなるかは分からない。
そもそも母の実家もいつまで支援してくれるのか、16歳ながらに不安になっていた。
ダリルは自身のせいではないと思いつつも、周囲の状況はなんら良くないことに、どこに怒りを向けていいのか分からなくなってしまった。
兄が悪いと思いつつも、もうこの場に兄はいない。怒りの矛先となるべき兄は辺境区域だ。ダリルは行きたくもない。
父はいつもイラついてダリルに声を荒らげるようになった。母はそんな父に代わって経営をするようになって忙しいのか話す暇すらない。学園でも友人はいない。何人かいた貴族の友人達からも手紙は一切来なくなった。
ダリルは、この先どうしたら良いのか誰にも相談できなかった。
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