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番外編
認める side ディラン
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ディラン=シェルヴェンが馬車に乗る頃には、既にダリル=ジルヴァールは大人しくなっていた。
借りてきた猫のように大人しい。
あんなに強気だったダリルの心はポッキリ折れたように、目から光が消えていた。
「で?誰に殴られたんだよ」
「…父上、に」
「はー…まぁ嫌な予感がして調べてはいたんだけどなぁ」
「調べる?」
ダリルは不思議そうに一瞬光を戻してこちらを見てきた。
実はアーヴィン=イブリックに連絡をとったのだ。
アーヴィンと、サシャ=イブリックに、ジルヴァール家の両親がどんな奴か尋ねていた。アーヴィンもサシャもどちらも母親はまだマシだが、父親は真性のクズであるという返答だった。
そもそも経営手腕もほとんど無く、ジルヴァール家は借金でそろそろ首が回らなくなり始めていた。なのに目立ちたがり屋の父親は借金を隠して遊び呆けており、母親もその点はほとほと困っていたらしい。
それでも何とかやっていけたのは、母親の実家の力であった。母親が何度も実家に頼り、なんとか食い繋いでいた。
サシャもそこまでジルヴァール家がやばかったというのは知らなかったようだが、アーヴィンの方は結婚する前に調べあげていたそうだ。
その為、イブリック家としては共倒れしないためにジルヴァール家を見限ることに満場一致したらしい。
サシャとしても、父と母への愛情はないだろうし、生きてれば、くらいにしか思っていないだろう。
そして、驚くことに、サシャはダリルの心配をしていた。
サシャ自身蔑ろにされてきたと言うのに、どう言った心変わりかと思っていたら、サシャは最近気づいたことがあったらしい。
『ダリルにやらされていた課題の殆どは、サシャがつまづいたことのある課題だった』と。
つまり、ダリルは虐げながらも手際の悪いサシャの学力を保つ努力をしていたようだった。努力の方向性は間違っているものの、幼い頃からサシャは呪われていると教えこまれたダリルにとって、精一杯の関わりだったのではないかと思う。
かと言って、サシャにしてきたことは変わらないので、サシャはダリルに会いたいとは言わなかった。ダリルもきっと、会いたいとは素直に言わないだろう。
「そ。父親の方がヤバいってな。まさか手も出すような奴だとまでは知らなかったがな」
「…あっそ。誰に聞いたか知らないけど、父上は元々はあんなんじゃなかった」
「サシャ=ジルヴァールにはあんなんだったんだろ?」
「……っ、それは……」
「ま、認められないわな。簡単には。実の父親がクズ野郎だったってのは、身内には堪えるだろうしなぁ」
「っうるさい!」
ダリルは声を張り上げてディランに抵抗する。しかし、殴られた事実は消えず、ダリルは何となく分かっているようだった。
「後はなんとかしてやるよ」
「……もういいよ。なんだっていい」
「噂も、父親のことも?」
「噂なんかもうどうでもいいし、父上のことだってなんとも思ってない!」
「はー、何言ってんだお前。自分がサシャの後追いになってんのに気づいてねぇのかよ?」
そう言うと、ダリルの目に一瞬揺らぎが見えた。
「噂流されて、学園中に蔑ろにされて、父親には虐げられ、母親には居ないものとして扱われて、挙句の果てに退学させられて。サシャ=ジルヴァールと全く一緒なことに気づいてねぇの?」
「うるさい!」
「お前が嫌ってたサシャと全く一緒でなんとも思わない?有り得ねぇだろ。お前はもう分かってんだろ?」
「うるさい!うるさいうるさい!」
ダリルの目に大きな水溜まりが出来ていた。今にも決壊しそうな涙は、煌めくアクアマリンのようだった。
ダリルはもう言い訳はしなかった。答えを聞きたくなくて耳を塞ぐ子供のようだった。
「言えよ。お前がどうして欲しいのか。お前の口でちゃんと言え」
「……っ」
ダリルは唇を噛み締めながら、口唇が震えていた。
「……け、て……」
「ちゃんとだ」
「っ、助けて……!」
男はいつものように、口端を上げて愉快そうに、けれど優しい瞳で言う。
「いいぜ、このディラン=シェルヴェンが助けてやる」
堪えきれなかったのか、アクアマリンは大きな粒となってダリルの膝に落ちて、服に滲んでいった。
借りてきた猫のように大人しい。
あんなに強気だったダリルの心はポッキリ折れたように、目から光が消えていた。
「で?誰に殴られたんだよ」
「…父上、に」
「はー…まぁ嫌な予感がして調べてはいたんだけどなぁ」
「調べる?」
ダリルは不思議そうに一瞬光を戻してこちらを見てきた。
実はアーヴィン=イブリックに連絡をとったのだ。
アーヴィンと、サシャ=イブリックに、ジルヴァール家の両親がどんな奴か尋ねていた。アーヴィンもサシャもどちらも母親はまだマシだが、父親は真性のクズであるという返答だった。
そもそも経営手腕もほとんど無く、ジルヴァール家は借金でそろそろ首が回らなくなり始めていた。なのに目立ちたがり屋の父親は借金を隠して遊び呆けており、母親もその点はほとほと困っていたらしい。
それでも何とかやっていけたのは、母親の実家の力であった。母親が何度も実家に頼り、なんとか食い繋いでいた。
サシャもそこまでジルヴァール家がやばかったというのは知らなかったようだが、アーヴィンの方は結婚する前に調べあげていたそうだ。
その為、イブリック家としては共倒れしないためにジルヴァール家を見限ることに満場一致したらしい。
サシャとしても、父と母への愛情はないだろうし、生きてれば、くらいにしか思っていないだろう。
そして、驚くことに、サシャはダリルの心配をしていた。
サシャ自身蔑ろにされてきたと言うのに、どう言った心変わりかと思っていたら、サシャは最近気づいたことがあったらしい。
『ダリルにやらされていた課題の殆どは、サシャがつまづいたことのある課題だった』と。
つまり、ダリルは虐げながらも手際の悪いサシャの学力を保つ努力をしていたようだった。努力の方向性は間違っているものの、幼い頃からサシャは呪われていると教えこまれたダリルにとって、精一杯の関わりだったのではないかと思う。
かと言って、サシャにしてきたことは変わらないので、サシャはダリルに会いたいとは言わなかった。ダリルもきっと、会いたいとは素直に言わないだろう。
「そ。父親の方がヤバいってな。まさか手も出すような奴だとまでは知らなかったがな」
「…あっそ。誰に聞いたか知らないけど、父上は元々はあんなんじゃなかった」
「サシャ=ジルヴァールにはあんなんだったんだろ?」
「……っ、それは……」
「ま、認められないわな。簡単には。実の父親がクズ野郎だったってのは、身内には堪えるだろうしなぁ」
「っうるさい!」
ダリルは声を張り上げてディランに抵抗する。しかし、殴られた事実は消えず、ダリルは何となく分かっているようだった。
「後はなんとかしてやるよ」
「……もういいよ。なんだっていい」
「噂も、父親のことも?」
「噂なんかもうどうでもいいし、父上のことだってなんとも思ってない!」
「はー、何言ってんだお前。自分がサシャの後追いになってんのに気づいてねぇのかよ?」
そう言うと、ダリルの目に一瞬揺らぎが見えた。
「噂流されて、学園中に蔑ろにされて、父親には虐げられ、母親には居ないものとして扱われて、挙句の果てに退学させられて。サシャ=ジルヴァールと全く一緒なことに気づいてねぇの?」
「うるさい!」
「お前が嫌ってたサシャと全く一緒でなんとも思わない?有り得ねぇだろ。お前はもう分かってんだろ?」
「うるさい!うるさいうるさい!」
ダリルの目に大きな水溜まりが出来ていた。今にも決壊しそうな涙は、煌めくアクアマリンのようだった。
ダリルはもう言い訳はしなかった。答えを聞きたくなくて耳を塞ぐ子供のようだった。
「言えよ。お前がどうして欲しいのか。お前の口でちゃんと言え」
「……っ」
ダリルは唇を噛み締めながら、口唇が震えていた。
「……け、て……」
「ちゃんとだ」
「っ、助けて……!」
男はいつものように、口端を上げて愉快そうに、けれど優しい瞳で言う。
「いいぜ、このディラン=シェルヴェンが助けてやる」
堪えきれなかったのか、アクアマリンは大きな粒となってダリルの膝に落ちて、服に滲んでいった。
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