【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

文字の大きさ
11 / 41

真実 side カシミール

しおりを挟む
カシミール=グランティーノがイヴの様子が変わったことに気づいた。

プロポーズという程ではないが、自分の決意を告げた上で、イヴに提案をした。

「イヴ、君の実家の財政状況があまり良くないというのは本当か?」
「っ! そ、それをどこで!」
「……いや、そういう噂があると聞いただけだ。本当のようだな」

顔を真っ青にして、イヴは震えていた。

「……あ……あの!」
「ああ、いや、君がそういう目的で俺と付き合ったとは思っていない。そうじゃなくて、君が良ければ家を出て俺の家に来ないかと思ったんだ」
「……っ、そ、それは……!」

ますます縮こまったイヴの手を繋いだ。
指先まで冷え込んでいた。

「今日明日で決めなくても良い。そういうつもりで、俺はここに君を連れてきたと思って欲しい」
「……ぅ、く……」

イヴはさっきまで静かに泣いていたのに、小さく嗚咽を漏らすように泣き始めてしまった。

急ぎすぎたのかもしれない。
イヴの負担にはなって欲しくなかった。

カシミールはイヴの身体を出来る限り優しく抱き締めた。

すると、イヴは耐えきれなくなったように、子供が泣くような声を出して大粒の涙を流してしまった。

そうして、しばらくしているとそのまま気を失うように眠ってしまった。

馬車に乗せて、イヴの家まで送り届けた。
いつもだったら、手前で別れることになるのだが眠ったイヴをそのままにすることが出来なかった。
このまま自分の家に連れていこうかとも思ったが、それこそイヴの負担になるかもしれないと思い、仕方なくスターム家に送り届けることにしたのだ。

スターム家の門番に、イヴを抱えて名前を告げると目を見開いて驚いていた。
すぐに門が開かれた。中に入って良いと言うことならば、そのまま部屋まで抱えることに決めた。

玄関ホールで、使用人たちがバタバタと動き始めた。
とにかくイヴを寝かせたいと告げると部屋を案内された。
寝室にある寝台に、イヴを起こさないように静かに乗せる。
すると、後ろから声がかけられた。

「カシミール=グランティーノ様とお伺いしました。当家当主がお呼びですのでご同行をお願い致します」

執事のようだった。
もしかしたら、財政困難による金の無心かもしれないと気を張ることに決めた。
イヴの額にキスをしてから、執事の後ろを歩いた。

やがて、応接室に到着すると、既にソファにイヴと同じプラチナブロンドの髪をした恰幅のいい男が座っていた。その男には指輪がじゃらりと嵌めてあり、趣味がいいとは言えなかった。

「カシミール殿、まぁまぁお座り下さい」

あまり同席したくない雰囲気だが、仕方なしに従った。

「…ご用件は」
「カシミール殿がイヴを連れてきたということは、二人の関係はそういうことで間違いないのでしょうか?」
「……本当に、その事が気になりますか」
「えぇ、えぇ。気になりますとも! どうですか?イヴの治癒の力は。イヴは当家でもかなり評判でして!お気に召しましたかな?」
「それで。金を払えと?」
「いやいや!まさか! イヴがやったことです! さすがにカシミール殿にそんなこと言えませんよ!」

当主は大袈裟に身振り手振りをしてみせる。

「ただ、今後もイヴには家にいてもらわないといけなくてですね。リピーターが多いのですよ。 カシミール様も体験なさったのならば分かりますでしょう? イヴの力は本物です!」
「確かに。素晴らしい治癒でした」
「そうでしょう、そうでしょう!ですので、イヴを引き取るというのなら少し話をしなくてはならないと思いまして」
「……どういうことでしょうか」
「簡単な話ですよ。イヴを嫁に行かせる代わりに、私と提携して欲しい事業がございます。それに是非協力していただきたいのです!」

両手を揉んで、ゴマをすりながら当主は話す。
結局のところ、金の無心に違いはないようだった。

「こちらで少し調べさせていただきましたが、スターム家は最近投資を行って大変なことになったとお伺いしてますが?」
「……あ、ああ。まあそうなんですが、今度の事業はまた別の……」
「それで。一体いくらのお金が必要になるのでしょうか」
「い、いえ……提携して欲しいというお話でして」
「提携? こちらが金を払い、そちらの懐は痛まない事業ならば払う金はありませんね」
「な!」

当主は驚いたあと、手を握り震え出した。
こんな簡単な挑発に乗るような奴ならば、話は簡単である。
カシミールは足を組んで当主を見据えた。

「イヴを嫁に、という話ならお引き受けします。それなりに支度金も払いましょう。ですが、事業の話なら別です。グランティーノ家一同、よく分からない事業に頷くことは出来ないので」
「ぐ……いや、それならばイヴは嫁には出せません。 あの子は先程も言った通り、これからも稼ぎ頭なのです。事業が出来ない上、イヴまで嫁に行かれてはたまりません」
「……支度金は、そちらの要望に出来る限り答えましょう」
「いえ、お引取りを。ご実家でよくよく相談してからまたいらしてください」

この狸は必死に考えて断ってきた。
カシミールはそれで引くことはしなかった。

「いえ、考え直す必要も無い。ならばイヴはそのまま連れていきます」
「っな! お、おい! イヴを別の部屋に移動しろ!」
「遅いですよ。既に魔法で連絡しておいた従者が馬車に乗せています」
「これは誘拐だ!!許さん!!」
「構いませんよ。後ほど金の方はお送りします」
「ぐっ……!」

当主はプルプルと震えながら、下唇を噛み、顔を醜悪に歪めていた。
もう怒りを隠すつもりもないようだった。
カシミールはもう用はないとばかりに、その場を立ち去ろうとする。

「っ……おい! お前! イヴがどうしてお前に近づいたのか教えてやろう!」

急に背中から大声で叫び始めた。
カシミールは足を止めた。

「……先程、イヴが勝手にやったと」
「そんな訳がないだろう! 私がイヴに命令したんだ! 『カシミール=グランティーノに近づき、篭絡させ、金の無心をしろ』とな!」

カシミールは当主の方を振り返った。
信じられないことに、嘘をついているようには見えなかった。
ニヤニヤと楽しそうにカシミールを見て嗤っている。

「さぞイヴはお前に尽くしただろう! ははは! 愛なんかじゃない! 命令で仕方なくやっていただけだ!」

はははは、と嗤い声が木霊した部屋から、その後どうやって退室したのかよく覚えていなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...