【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

文字の大きさ
23 / 41
番外編

知りたい side シルヴァ

しおりを挟む
シルヴァ=コールフィールドは辺境にきた新人たちへ挨拶をしていた。
騎士団団長であるエドガーと魔法師団団長シルヴァは新人への案内を行う必要がある。

辺境にくる新人は、本当の意味での新人は少ない。何かしら理由があって辿り着くものが多い。
今回の新人も、何かしら理由があって辿り着いたもの達の集まりだった。

「なんで俺が辺境なんか……」

新人騎士がブツブツと、聞こえる声量で言うのは青い証拠だ。別に咎めたりはしない。エドガーも同じ気持ちのようだった。
というよりか、周りの騎士たちも、『あー、俺にもあんな頃あったなぁ』なんて温い目で見ている。

辺境区域といえど、ずっと魔獣と対峙している訳では無い。大体が訓練の日である。
それでも、王都にいるよりは明らかに危険ではあるのだが。

半年も経てば、新人皆大体丸くなる。
辺境の空気になれるからなのか、思ったより充実した生活を送れるからなのか、多分理由はそんなくらいだろう。

だから今回も、大きな問題なく新人教育は済むと思ったのだ。

「めちゃくちゃ美人の事務員が居るって本当ですか」

あの時、ブツブツと言っていた新人騎士だった。
1ヶ月ほど立って現場にも慣れてきたのだろうか。顔つきは前より若干マシになっているようにみえる。
なんとなく馴れ馴れしい気もするが、シルヴァは気にしないことにした。

「……ああ、居るけど。サシャは人妻だよ。手なんか出したらアーヴィンに殺されるだろうね」
「げっ! アーヴィン先輩のコレっすか……! あーじゃあしょうがないっすねぇ」

サシャは新人誰しもが通る登竜門のようなものだ。 あの美貌を見て、目の色を変える者は少なくないどころか、多すぎるほどだ。
その度にアーヴィンの牽制が入っている。

新人騎士はまたブツブツなにか言いながら、シルヴァのもとを離れた。

翌日、コリンから『人魚の涙、19時』の連絡が入る。
またしても重石のようなものを感じながらいつものバーで待つことにした。

「……遅いな」

コリンは締切破り常習犯で名を通しているが、シルヴァとの約束に遅刻したことはなかった。
時間より既に30分ほど経っていた。
すると、コリンからまたしても連絡が入った。

「……今日は行けない?」

謝罪と共に、そんな連絡が入った。
そんなことはここ4ヶ月で初めての事だった。
締切がいくら過ぎようとも気にしないコリンだが、遅刻や約束を破ることは初めてだったのだ。
そういう日もあるか、と思った。

しかし、なんとなく、本当にただなんとなく思い立って、シルヴァは職場に戻ることに決めた。

もしかしたら、締切が本当に破れないものがあってまだ仕事をしている可能性もある。
夜食でも持って行ってあげようと、道すがら食事を買って向かった。

事務室の近くまで行くと、やはりまだ明かりがついていた。
そして、声が徐々に聞こえてくる。

「……え、お……お……を知ってるんだろ」
「…だから、なに?」
「はは! あのクソ親父、やっぱクソだったか!」

ブツブツといつも言う新人騎士の声のようだった。話している相手はコリンのようだ。

「お前のその怯えよう。俺には分かるぜ? 男の恐怖を知ってる怯え方だろ?」
「……」
「親父が使ってたんだ。俺だって良いだろ? ……お前が拒否ったら、次はもう1人の方を選ぶだけだ」
「クズすぎない? サシャは無理だと思うよ、アーヴィンがあんたを殺すから」
「へぇ。じゃあお前はどうなんだよ」
「……私に手を出すなら傷は付け」
「なんの話をしているんですか!」

話の流れがわかるまで黙ってしまった。
コリンの諦めたような声色に怒りが湧いて、気づいたら声が出ていた。
コリンも新人騎士も驚いてこちらを一斉に見る。
新人騎士はシルヴァの姿を見た瞬間、事務室から逃げ出し、どこかに行ってしまった。
シルヴァはわざわざ追いかけることはしなかった。顔は分かっているし、明日でも対処は可能だと思ったからだ。

それよりも、目の前の問題だった。

「……どういうことですか」
「聞いてた通りじゃない?別に、シルヴァが気にすることじゃないよ」
「君が、無理やり手篭めにされているのを黙って見ていろと?」

桜色の髪が揺れ、青みがかったピンクのモルガナイトが逸らされる。

シルヴァは自分でもどうして怒っているのかよく分からなかった。

「それより、約束、悪かったよ。私から言い出したのに。 また今度連絡するから、今日は帰ろう」
「そんなことはどうでも良いでしょう!」
「どうでも良くないよ。シルヴァ、私のことは良いから、もう帰ろう。明日エドガーには私から言うから」

コリンは俯いたまま、シルヴァの横を通り過ぎようとする。
シルヴァはコリンの腕を掴んだ。

「待ってください。君はどうして僕の相手をするんですか」
「……それ、今聞く?」
「ええ、今だから聞きます。 さっきの新人と僕はやってることに大差なさそうなので」
「あはは、大差あるでしょ。向こうは無理やりで、シルヴァは私が望んでるんだから」

俯いたまま、コリンは話す。つい掴んだ手を強く握ってしまう。

「シルヴァ、私のことは良いんだよ。上手く使ってよ」
「イヴの代わりにですか。 じゃあ君がイヴの代わりをする理由を教えてください。でなければ到底納得できません」
「真面目だなぁー、もう。別に教える義務はないよ」

コリンが顔を上げて、モルガナイトの瞳を揺らす。
ピンクなのに、ほのかな青さに目を奪われていく。

「……ならば、もう終わりにしましょう。君が本心を言わないなら、この関係は終わりです」
「っ、そ、う。分かった。仕方ないねぇ、楽しかったよ」

コリンの腕を離した。掴んだ腕から伝わった熱が、急速に冷えていくのを感じながら、コリンの背中を見えなくなるまで見ていることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...