【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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番外編

許す side ラヴェル

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ラヴェル=アンデルベリが、レイリーには公爵家へ来る気がないと気づいたのは1ヶ月経った頃だった。
最初の1週間は、仕事だし仕方ないと思った。
次の2週間目は、きっと沢山の患者さんが待っているんだろうと思った。
3週間目は、やっぱり忙しくて、公爵家に来る時間も惜しいのだろうと思うことにした。
4週経つ頃には、さすがにラヴェルも、このまま一生レイリーは来ないつもりかもしれないと気づき始めた。

そして、父に問うことにした。

「……意外に忍耐強かったなと思っていた所だ」
「邪魔にはなりたくないので」

レイリーが来ないことに関して、父は1週間や2週間で根をあげると思っていたようだった。
けれど、ラヴェルは最初に思っていた通り、レイリーの仕事の邪魔をしたい訳では無い。
まだ弟だと思われている内は、レイリーの中で1番にはなれないと理解していた。

「レイリーには最初から『婚約は口約束で、治療が終わった時点で公爵家には来ないようにする』と言われていた」
「……やっぱり」
「それで?どうするかい?」

父は執務机に両肘を立て、手に顎を乗せて楽しそうに微笑んでいた。
ラヴェルの思っていることなんて、父には全てお見通しなのだろう。

「諦めるかい?」
「簡単に諦められるなら、婚約なんてしません」
「ならばどうする? ちなみに治療院には行かせないよ。 まだ外出は無理な身体だと自分でも分かっているだろう?」
「……分かっています」

庭ですら、まだちゃんと1人で歩かせてもらえていない状態で外出など不可能だ。
それに、これから公爵当主としての勉強も始まる。リハビリに全振りしていた時間は少しずつ勉学に割り振られていく。

それに、ラヴェルは決めていた。

「学園に、入学させてください」

レイリーを支える為に、出来ることを自ら踏み出すことを。









それから、7年の歳月が経った。
ラヴェルは十五歳になっていた。
今日は学園の入学式だった。
まだ、隣に居て欲しい人には、会うことは出来なかった。

ずっと懸念していた。

ラヴェルなんかよりも、沢山の人と関わり合うレイリーには、魅力的な人が沢山居るはず。
もしかしたら、ラヴェルのことを忘れて、ラヴェルよりも素敵な人と一緒に居るかもしれない。
もしかしたら、もう子供も出来てしまっているかもしれない。
もしかしたら、ラヴェルと居た時よりも幸せになっているかもしれない。

7年経っても、忘れられなかった。
命の恩人であり、運命だと確信した人。

桜が舞い散る、期待に胸を膨らませた学生ばかりがいる中、ラヴェルの心は隙間風に吹かれているようだった。

ふと、下を向いて歩いていた所、目の前に影があって俯いていた顔を上げた。

「……ラヴェル様」

ずっと会いたかった人が目の前に立っていた。
7年前と、何ら変わりない姿で。

「レイリーさん…どうして」
「公爵閣下から連絡が、あって」
「……それは、なんとなく分かりますけど」

ラヴェルが問いたいのは、そこではなかった。
連絡があって、どうして7年も放って置いた婚約者に会いに来たのか。

「私は、君に嘘をつきました」
「婚約に頷いたことですか」
「……そうです。だから……」

レイリーはマリガーネットの瞳が零れそうになっていた。

なぜ。
泣きたいのは、放って置かれたラヴェルの方なのに。

「だから、今度は私が君に、言いたいことが、あって、ここに来まし、た」

レイリーが感情的になっている所など初めて見た。

「ラヴェル様。貴方に、会えなくなって、ずっと……後悔して、いました」

レイリーの瞳からボロボロと流れてる涙を、ラヴェルはレイリーに近づいて拭った。

「まだ、口約束の婚約が、生きているなら、どうか、私を許してください」

八歳の頃の身長差は、もうほとんどなくなっていた。
目線も一緒で、二十七になるレイリーが小さく見えるほどだった。

「……もう、ずるいなぁ」

会ったら、一言恨み言でも言ってやろうと、それくらいはしても良いだろうと思っていたのに。

レイリーの顔を見たら、全部吹き飛んでしまった。

だって、未だ自分はこんなにも、レイリーの事が忘れられなくて、八歳の頃の気持ちは色褪せていないのだ。

「レイリーさん。どうか、僕の婚約者で居続けてください。そして、僕が大人になったら、一生隣にいて下さい」

レイリーはボロボロと綺麗な涙を流して微笑んだ。

「……はい」
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