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2.ドブソン子爵の元妻
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私が結婚したのは、当時十八才で、スペンサーとの結婚を夢見ていた頃だ。
スペンサーは両親を説得するからと、侯爵家の執務や事業を頑張り出して、私と会えることがごく僅かになっていた。
それでも私は、スペンサーが前向きに動いてくれていたことに満足していたから、会えなくても不満はなかった。
けれど、ある日お父様に呼び出された。
「マリアンナ、ドブソン子爵との結婚を決めたよ。」
「えっ、お父様、私はスペンサーとお付き合いしていると言っているではないですか。」
「ああ、あのスペンサー卿と言う男とは結婚などできないさ。
彼の両親は同じ侯爵家の令嬢と結婚させる気で動いている。
あの息子は、親がそんな一時の感情で、相手を変えるなんて夢みたいなことを許すはずがないのに、気がついていないだけだ。
まだ青いな。
まぁ、その話はいいんだ。
それよりもお前の結婚だ。
ドブソン子爵は、この家の借金とこの先の生活も見てくれるって言っているんだ。
そんな高値でお前を買ってくれる男は、ドブソン子爵だけだ。」
「お父様はなんて下品なの。
私を物のように売りつけるとは。」
「お前は何を言っている?
まだ価値があるうちいいと思え。
バーバラは心を開かないし、病気がちで金ばかりかかる。」
「お母様をそんな風に言わないで。」
「ふん、お前がドブソン子爵と結婚しないと言うのなら、バーバラに使っている無駄に高い薬を今すぐやめるぞ。
そうなったら、バーバラはあっと言う間だろうな。」
「酷いわ。
あなたの妻でしょ?」
お父様は、病いで苦しんでるお母様を見捨てる気だ。
「見た目だけはいいから、結婚したけれど、とんだ外れクジだったよ。」
「酷いわ。」
「寝ついてろくに妻の役目も果たせないし、いつでも捨てていいんだぞ。
そうなってもいいのか?
お前のせいで、母親が酷い目にあうんだぞ。」
「やめて。
わかったわ。
ドブソン子爵と結婚するわ。
だから、お母様の薬を続けて。」
「最初からそう言えばいいんだ。
娘のくせにそれぐらい役に立て。」
「でも、お父様、もしお母様の薬を勝手にやめたら、ドブソン子爵に言って、この家への手助けをやめてもらうから。
それだけは忘れないで。」
「ドブソン子爵から、たっぷり金銭を引き出せばいいだけだ。」
「最低ね。」
こうして、ドブソン子爵と私は結婚した。
最後にスペンサーと一目会って、結婚できなくなったことを謝りたかった。
でも、それすら叶わずに、私はドブソン子爵に嫁いだのだ。
結婚した後に、ドブソン子爵と夜会へ行くと、スペンサーと会うことがあった。
その頃の私はドブソン子爵の選ぶ下品で露出の高いドレスを着ていたから、スペンサーが冷たい眼で私を見ていたのは知っている。
彼だけでなく、周りの方々もすべて私を見下し、陰口を言っていることも。
でも、私は心を見せず、笑顔を保った。
可哀想と思われるより、マシだと思ったから。
スペンサーと結婚するはずが、貧しさのせいで下品なドブソン子爵と結婚して、とても惨めで悲しく、夜会の場で涙を堪えていた。
お母様を守りたくて選んだ道が、これほど苦痛であるとは。
結婚したドブソン子爵は、年のせいか男性としての機能を失っていた。
でも、それを人に知られるのが男として屈辱であるらしく、私にわざと下品な露出の高いドレスを着せて、夜会へ行くのだ。
そして、あたかもいつも二人はそうであると見せつけるように、抱きしめながら首や胸元にキスしたり、舐めまわしてきたりして、私が周りを気にして、嫌がるのを喜んでいた。
それを見た人達は、たいがい眉を顰めて、目を逸らして去って行く。
でも、一部の男性は物欲しそうに私を見る。
それが、ドブソン子爵の性的なプライドを満足させるようだ。
自分はこの女をいつも満足させていると。
それは、大いに間違いだけれど。
私は気持ちが悪いし、男達の視線が嫌で仕方がない。
でも、泣いたらもっと惨めだから、堪える。
その繰り返しだった。
だが、ドブソン子爵は邸の中では、私に目もくれず、ひたすら仕事をして、財産を増やすことしか、興味を示さない。
私にはドブソン子爵と出かけて恥をかくか、邸に引きこもるかの二択しかなく、自分から邸の外に出ようとは思わなかった。
そんな、屈辱でしかない結婚は、ドブソン子爵の予想外の事業の失敗で、僅か三年間で幕を閉じた。
ドブソン子爵は私に離縁状をつきつけると、お金のかかる私とカウレン男爵家の援助を捨てて、あっと言う間に領地に引きこもった。
私と言う悪女に誑かされて、財産を失った。と罪をなすりつけることも忘れずに。
悪評の中、男爵家に出戻ったら、今度はお父様までが私のせいで、財産を失ったと言いふらす。
最初から、借金だらけのくせに、私のせいだと言った方が同情されるのか知らないけれど。
そしてそのまま、援助してくれそうな女性と失踪した。
結局、カウレン男爵家には、私とお母様が残り、ぼろぼろの邸に二人で住んでいる。
そんな時、邸に訪れたのが、ボレック公爵だった。
ボレック公爵は私とお母様の身を案じて、貴族の邸で、ピアノを弾くお仕事を私に紹介してくれている。
高齢のため人目のある夜会では踊らないけれど、邸では夫婦で踊りたいと思っている方々向けに、夜会の片隅で、ダンスに合わせてピアノを弾く仕事を、紹介してくれているのだ。
それは、秘密の契約で。
特に高齢の夫婦が、抱き合ってキスしながら二人でダンスをすることは、はしたないと人前ではできない。
子供達や親戚のいる前で、あからさまな男女でいることをとうの昔に諦めている。
でも、高齢になっても愛し合う夫婦は、誰しもがそうであったように、ダンスしながらも情熱的に抱きしめ合ったり、キスをしたいのだ。
特に高齢の方にとっては、それが大事なスキンシップだったりする。
そんな時ピアノを演奏しているのが私なら、夫人達も恥ずかしくないのだ。
何せ私は夜会で散々キスしていたし、相手は下品なドブソン子爵なのだから、夫人達にとって愛する夫は年をとっていても、恥ずかしい存在ではない。
だから、私の前で皆堂々と夫婦で楽しむのだ。
私はまるでそれが当たり前のような顔をして、ピアノを弾いていればいい。
私はダルレ卿を捨てて、ドブソン子爵と実家のカウレン男爵家を潰した悪女と噂されているけれど、彼らのことを人に話すことはなかった。
だから、下品で悪女だけれど、秘密を守ると思われている。
大人の付き合いには、秘密はつきものだから。
夜会でボレック公爵にエスコートされているとあまりの高貴さに、口さがないことを私に言って、侮辱することはできないのだ。
だから、夜会には、ボレック公爵と顔を出す。
そんな時に、スペンサーと再会したのだ。
スペンサーは両親を説得するからと、侯爵家の執務や事業を頑張り出して、私と会えることがごく僅かになっていた。
それでも私は、スペンサーが前向きに動いてくれていたことに満足していたから、会えなくても不満はなかった。
けれど、ある日お父様に呼び出された。
「マリアンナ、ドブソン子爵との結婚を決めたよ。」
「えっ、お父様、私はスペンサーとお付き合いしていると言っているではないですか。」
「ああ、あのスペンサー卿と言う男とは結婚などできないさ。
彼の両親は同じ侯爵家の令嬢と結婚させる気で動いている。
あの息子は、親がそんな一時の感情で、相手を変えるなんて夢みたいなことを許すはずがないのに、気がついていないだけだ。
まだ青いな。
まぁ、その話はいいんだ。
それよりもお前の結婚だ。
ドブソン子爵は、この家の借金とこの先の生活も見てくれるって言っているんだ。
そんな高値でお前を買ってくれる男は、ドブソン子爵だけだ。」
「お父様はなんて下品なの。
私を物のように売りつけるとは。」
「お前は何を言っている?
まだ価値があるうちいいと思え。
バーバラは心を開かないし、病気がちで金ばかりかかる。」
「お母様をそんな風に言わないで。」
「ふん、お前がドブソン子爵と結婚しないと言うのなら、バーバラに使っている無駄に高い薬を今すぐやめるぞ。
そうなったら、バーバラはあっと言う間だろうな。」
「酷いわ。
あなたの妻でしょ?」
お父様は、病いで苦しんでるお母様を見捨てる気だ。
「見た目だけはいいから、結婚したけれど、とんだ外れクジだったよ。」
「酷いわ。」
「寝ついてろくに妻の役目も果たせないし、いつでも捨てていいんだぞ。
そうなってもいいのか?
お前のせいで、母親が酷い目にあうんだぞ。」
「やめて。
わかったわ。
ドブソン子爵と結婚するわ。
だから、お母様の薬を続けて。」
「最初からそう言えばいいんだ。
娘のくせにそれぐらい役に立て。」
「でも、お父様、もしお母様の薬を勝手にやめたら、ドブソン子爵に言って、この家への手助けをやめてもらうから。
それだけは忘れないで。」
「ドブソン子爵から、たっぷり金銭を引き出せばいいだけだ。」
「最低ね。」
こうして、ドブソン子爵と私は結婚した。
最後にスペンサーと一目会って、結婚できなくなったことを謝りたかった。
でも、それすら叶わずに、私はドブソン子爵に嫁いだのだ。
結婚した後に、ドブソン子爵と夜会へ行くと、スペンサーと会うことがあった。
その頃の私はドブソン子爵の選ぶ下品で露出の高いドレスを着ていたから、スペンサーが冷たい眼で私を見ていたのは知っている。
彼だけでなく、周りの方々もすべて私を見下し、陰口を言っていることも。
でも、私は心を見せず、笑顔を保った。
可哀想と思われるより、マシだと思ったから。
スペンサーと結婚するはずが、貧しさのせいで下品なドブソン子爵と結婚して、とても惨めで悲しく、夜会の場で涙を堪えていた。
お母様を守りたくて選んだ道が、これほど苦痛であるとは。
結婚したドブソン子爵は、年のせいか男性としての機能を失っていた。
でも、それを人に知られるのが男として屈辱であるらしく、私にわざと下品な露出の高いドレスを着せて、夜会へ行くのだ。
そして、あたかもいつも二人はそうであると見せつけるように、抱きしめながら首や胸元にキスしたり、舐めまわしてきたりして、私が周りを気にして、嫌がるのを喜んでいた。
それを見た人達は、たいがい眉を顰めて、目を逸らして去って行く。
でも、一部の男性は物欲しそうに私を見る。
それが、ドブソン子爵の性的なプライドを満足させるようだ。
自分はこの女をいつも満足させていると。
それは、大いに間違いだけれど。
私は気持ちが悪いし、男達の視線が嫌で仕方がない。
でも、泣いたらもっと惨めだから、堪える。
その繰り返しだった。
だが、ドブソン子爵は邸の中では、私に目もくれず、ひたすら仕事をして、財産を増やすことしか、興味を示さない。
私にはドブソン子爵と出かけて恥をかくか、邸に引きこもるかの二択しかなく、自分から邸の外に出ようとは思わなかった。
そんな、屈辱でしかない結婚は、ドブソン子爵の予想外の事業の失敗で、僅か三年間で幕を閉じた。
ドブソン子爵は私に離縁状をつきつけると、お金のかかる私とカウレン男爵家の援助を捨てて、あっと言う間に領地に引きこもった。
私と言う悪女に誑かされて、財産を失った。と罪をなすりつけることも忘れずに。
悪評の中、男爵家に出戻ったら、今度はお父様までが私のせいで、財産を失ったと言いふらす。
最初から、借金だらけのくせに、私のせいだと言った方が同情されるのか知らないけれど。
そしてそのまま、援助してくれそうな女性と失踪した。
結局、カウレン男爵家には、私とお母様が残り、ぼろぼろの邸に二人で住んでいる。
そんな時、邸に訪れたのが、ボレック公爵だった。
ボレック公爵は私とお母様の身を案じて、貴族の邸で、ピアノを弾くお仕事を私に紹介してくれている。
高齢のため人目のある夜会では踊らないけれど、邸では夫婦で踊りたいと思っている方々向けに、夜会の片隅で、ダンスに合わせてピアノを弾く仕事を、紹介してくれているのだ。
それは、秘密の契約で。
特に高齢の夫婦が、抱き合ってキスしながら二人でダンスをすることは、はしたないと人前ではできない。
子供達や親戚のいる前で、あからさまな男女でいることをとうの昔に諦めている。
でも、高齢になっても愛し合う夫婦は、誰しもがそうであったように、ダンスしながらも情熱的に抱きしめ合ったり、キスをしたいのだ。
特に高齢の方にとっては、それが大事なスキンシップだったりする。
そんな時ピアノを演奏しているのが私なら、夫人達も恥ずかしくないのだ。
何せ私は夜会で散々キスしていたし、相手は下品なドブソン子爵なのだから、夫人達にとって愛する夫は年をとっていても、恥ずかしい存在ではない。
だから、私の前で皆堂々と夫婦で楽しむのだ。
私はまるでそれが当たり前のような顔をして、ピアノを弾いていればいい。
私はダルレ卿を捨てて、ドブソン子爵と実家のカウレン男爵家を潰した悪女と噂されているけれど、彼らのことを人に話すことはなかった。
だから、下品で悪女だけれど、秘密を守ると思われている。
大人の付き合いには、秘密はつきものだから。
夜会でボレック公爵にエスコートされているとあまりの高貴さに、口さがないことを私に言って、侮辱することはできないのだ。
だから、夜会には、ボレック公爵と顔を出す。
そんな時に、スペンサーと再会したのだ。
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