悪女の秘密は彼だけに囁く

月山 歩

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6.別の夜会にて

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 マリアンナは、スペンサーと夜会に来ていた。

 連日のようにスペンサーは、お花やドレスをプレゼントしてくれて、最近は彼と出かけることが増えている。

「ちょっと失礼。
 スペンサーだけ、いいだろうか。」

 ヤンセン卿が後ろから、スペンサーに声をかける。

「僕はマリアンナといるんだ。
 僕だけと言うなら、今度にしてくれ。」

「スペンサー、私は大丈夫だから、行って来て。」

 スペンサーは夜会で私一人にすると、嫌なことを言ってくる者がいるので、そばにいてくれようとする。

 でも、私は何を言われたとしても、気にしない。




「スペンサー、最近マリアンナ夫人と過ごしているようだな。
 やめとけよ。

 マリアンナ夫人は悪女なんだぞ。
 関わったら、またスペンサーが傷つく。」

「忠告ありがとう。
 だけど、僕はマリアンナといたいんだ。

 彼女と離れたこの数年、僕はただがむしゃらに生きていただけさ。
 もうマリアンナと離れたくない。」

「だとしても、マリアンナ夫人はボレック公爵と付き合っているんだぞ。

 スペンサーはまた関わっても、傷つくだけだとわからないのか?」

「傷ついたとしても、マリアンナといたい。
 ごめん、ヤンセン、君の気持ちは感謝している。」

「そこまで言うなら、わかったよ。
 忠告はしたからな。」

 ヤンセンは納得してない表情だが、仕方ない。
 僕はリアが好きで、悪女とわかっているのに、一緒にいたい。




「おい、俺の次はボレック公爵だと思ったら、次はダルレ侯爵か?
 大した女だよ。」

 スペンサーがヤンセン卿と話すために離れると、ドブソン子爵が声をかけて来た。

 ドブソン子爵は領地に逃げたのではないの?
 何故夜会に?

 一番会いたくない人に会ってしまった。

 今でも、その姿を見ると嫌悪感で一杯になる。

「もうあなたとは、関係ないはずだわ。
 話しかけないでくださる?」

「ふん、いい気になりやがって。

 相手が公爵であろうと、侯爵であろうと所詮お前は愛人のくせに、子爵の俺に無礼なのはお前だろ?

 俺はお前に忠告してやろうと思って、声をかけてやっているんだ。」

「あなたからの忠告なんて、結構です。」

「ふん、聞いたら青ざめるぞ。
 お前が最近遊んでいるダルレ侯爵はな、俺の事業をことごとく潰した男なんだぞ。

 お前の子爵夫人としての優雅な生活も、お前の実家の男爵家も潰したのはあいつなんだ。」

「だから、何ですか?
 私はむしろありがたかったわ。
 あなたなんかと縁が切れて。

 私はダルレ侯爵に感謝するわ。」

「夫との離縁の原因を作った男に感謝するなんて、お前は信じられないほどの悪女だな。
 悪い女と関わったもんだよ、俺は。」

「何とでも言ってちょうだい。」

「愛しい人、その下品な男とは話してはダメだよ。」

 後ろからスペンサーがやって来て、私の身体を包み込んでドブソン子爵から遠ざけると、彼を睨んだ。

「ダルレ侯爵様、これは元妻にちょっとした話があっただけですから。」

「ドブソン子爵、君はマリアンナが嫌がっていたのに、無理矢理下品な服装を着させていたそうだね。

 はらわたが煮えくりかえる思いだよ。
 今度、マリアンナに近づいたら、君に何をするかわからない。」

「ダルレ侯爵様、それだけはご勘弁いただきたい。
 私の事業を潰しただけでは足りませんか?」

「勘違いしないでくれ。
 事業に失敗したのは、君の読みが外れた結果だろ?
 僕とは関係ない。」

 ドブソン子爵は悔しそうに私を睨んでから、夜会を後にした。

「スペンサー、ドブソン子爵の事業を潰したのは本当なのね?」

「ああ、そうだ。
 僕を怒るかい?
 僕はドブソン子爵と結婚したマリアンナが許せなかった。

 だから、ドブソン子爵よりも財産があることを君に見せたかった。

 僕よりドブソン子爵を選んだ君が悔しくて。
 後悔させてやりたかったんだ。

 その過程でドブソン子爵の事業から、競り勝ったのは本当だよ。」

「いいえ、そうならば、私はスペンサーに助けられたの。
 前も言ったようにドブソン子爵との結婚生活は辛かったから。

 それに、男爵家だって、元々いつどうなっても仕方ないぐらいに困窮していたわ。
 だから、あなたを恨んだりしない。」

「そう言ってもらえるとホッとするよ。

 僕は君に見直してほしいとは思ったけれど、不幸になってほしいと思ったことはないんだ。」

「ええ、わかったわ。」

「ありがとう。」

 スペンサーが今どれほどの財産を持っているのか私は知らない。

 その過程で、ドブソン子爵とやり合っていたことも知らなかった。

 前にスペンサーが血の滲むような努力をして財産を増やしたと言っていたのは本当で、私が原因だったのね。

 スペンサーは嘘は言わない人だった。

 呼吸をするように、私を褒めて、茶化すような物言いもある遊び人だから、ついつい嘘かなぁと思ってしまうけれど。

 私は悪女でスペンサーは遊び人だとしても、私とスペンサーが再び関わることを誰も良しとはしない。

 スペンサーがヤンセン卿に何を言われたかは薄々気づいている。

 何故なら、一度目のお付き合いの時から、ヤンセン卿はスペンサーといる私を良く思っていないのは、彼の私を見る目つきでわかっていた。

 ヤンセン卿にとって私は、スペンサーの財産目当てで近づく地位の低い女だから。

 結婚する前ですらそう思われているなら、ドブソン子爵と結婚した私など、視界に入るのも嫌だろう。

 現に、ドブソン子爵といる時に向けられた下げずんだ目つきは今でも覚えている。

 でも、それに関しては仕方ない。

 貴族の社会のほぼすべての方がそう思っただろうから。

 そして、再び私と関わることをやめるようにスペンサーに忠告するだろうことは、わかりきっている。

 最近は、ボレック公爵と共にいて、一部の方に受け入れられているけれど、まだまだ私は嫌われているのだ。

 特にスペンサーを大切に思っている人には。
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