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14.南の街を訪れる
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いよいよキアーラの出産が近づいてくると、ローレンスは王宮を離れられない。
そのため、ローレンスに代わって、ライナートは王国中の領地の視察をして回っている。
気の抜けた気分のまま、浮かれ気分の王宮にとどまっているよりずっといい。
その分、執務は溜まってしまうのだが。
たまたま、南の街の近くが視察場所で、オーレリアがどういうところに住んでいるのか気になって、再びカツラを被り、ヤンセンと共に夜街を散策していると、背の低い女性が男達に絡まれて、怒っているのが見えた。
その女性は男達に負けない勢いで、言い返しているようだが、人数差があるため次第に勢いを無くしている。
気の毒に思い、ライナートは身バレを恐れて、ヤンセンに仲裁に入ってもらう。
女性に絡んでいた男達は、今度はヤンセンに標的を変え、一人の男が殴ろとしたところから、戦いが始まり、あっという間に男達は、ヤンセンの足元に転がってのびている。
当たり前だが、ヤンセンは王子を守れるぐらい強いのだ。
武術を本格的に極めようと思うことなどない街のごろつきなど、相手になるはずはなく、人数差があってもすぐに決着はついた。
二人は街中で目立ちたくないため、そのまま立ち去ろうとするが、その女性は、
「ちょっと、行かないで。
ここ、私の店だから、一杯だけでいいから飲んで行って。」
と必死にヤンセンの腕を掴み、引き止めようとする。
普段ならすぐに腕を解き、背を向けるヤンセンだが、その女性がタイプなのか、店に行くかどうかで珍しく悩んでいる。
「いいよ。
一杯だけ、いただこうか?」
ライナートは、ヤンセンの代わりに返事をした。
ヤンセンが自分のためにいつも己を律して生きているのを知っていたので、たまには彼も女性と過ごしたら気分が解れていいかと思ったからだ。
特に最近では、僕が塞ぎ込み、楽しいこともないだろうし。
「そうこなくっちゃ。」
「ありがとうございます。」
二人はすでに、意気投合しているのを見て、ライナートは苦笑する。
いつも自分のために、心を砕いてくれているヤンセンには、僕と違って気に入った女性と幸せになってほしい。
「じゃ、僕は先に。」
ライナートは二人に気を使い、自分だけ先に宿に戻ろうとするが、
「ダメです。
一人で行かれるなら、私も行きます。」
「あんたが、この人に指示を出してくれたんでしょ。
あんたにも、一緒に飲んでほしい。」
二人はここでも息ピッタリで、ライナートは先に帰るのを諦めた。
「では、少しだけ。」
「やったあ。
どうそ、おかけになって。」
その女性は、二人を店の中に入らせ、席に座らせる。
その店は、カウンターにちょっとしたテーブルの小さな造りだった。
「あー、今お客さんいないなぁと思ったでしょ。
ウチはね、隣の店が終わった後、まだ帰りたくない客が寄ってく店なの。
だから、この時間は客は来ないわ。」
「そうですか。」
「お兄さん達はここら辺でお目当ての店とかあるの?
わかった。
隣の店に入りたいけど、入れないタイプでしょ?
図星?
よくいるのよ。
隣の席はお金がかかるから、給金が入った時しかお店に行けなくて、ぼーっと外から眺めてるお客さん。」
「そうなんですか。」
「あーでも、違うわね。
お兄さん達どう見ても、金持ちそうだもの。
わかった。
貴族のお兄さんが夜の蝶を好きになったパターンね。
だから、平民に混じってお店に行けないのよ。
あらかじめ、約束をして呼び出した時しか会えないのが、不満なんでしょう?」
「そう見える?」
「違うの?
うーん、お兄さん達謎だらけだわね。
まぁいいわ。
それが夜の街だから。
ところで、お腹が空いてない?
とっておきのシチューがあるのよ。
私、昨日まで体調を崩していて、心配してくれた友達がシチューを作ってくれたの。
このシチューは特別美味しいのよ。
お兄さん達には世話になったから、お裾分けするわ。」
「いや、僕達はいいよ。」
「どうして?
美味しいんだから、一口だけでいいから。
ね、お願い。」
「なら、一口だけだよ。」
そう言ってヤンセンはシチューを一口食べると、すぐに表情を変え、ライナートの前に置いた。
その時、ヤンセンは何も言わないが、長い付き合いのライナートには、すぐにその意味を理解する。
まさかと思いながら、ライナートがそのシチューを一口食べると、それはオーレリアの手作りの味だった。
その瞬間、ライナートは周りには目を向けず、一心不乱に食べ始める。
ヤンセンはさりげなく、
「このシチューはとても美味しいね。
また、食べたいのだけど。」
と聞いてみる。
「そうでしょ。
これは隣の厨房で働く友達が作っていて、男の人達はこの味と綺麗な女性達を目当てに、隣の店に通うのよ。」
「隣の店は綺麗な女性達と話さないと、このシチューを出してくれないのだろうか?」
「まぁ、そうね。
そう言う店だから。」
「君にお金を払うから、買って来てもらうことはできないかい?」
「うーん、買うのは隣の店の店主が許さないと思う。
でも、作っているのは友達だから、私が食べたいって言えば、また作ってくれるわ。」
「じゃあ悪いが、来週にもう一度シチューを食べれるように頼めないだろうか。
その友達には内緒で。」
「ええ、いいわよ。
あなたは私を助けてくれたから、特別に頼んであげるわ。」
その女性は内緒話をするように、小声で頷いた。
そのため、ローレンスに代わって、ライナートは王国中の領地の視察をして回っている。
気の抜けた気分のまま、浮かれ気分の王宮にとどまっているよりずっといい。
その分、執務は溜まってしまうのだが。
たまたま、南の街の近くが視察場所で、オーレリアがどういうところに住んでいるのか気になって、再びカツラを被り、ヤンセンと共に夜街を散策していると、背の低い女性が男達に絡まれて、怒っているのが見えた。
その女性は男達に負けない勢いで、言い返しているようだが、人数差があるため次第に勢いを無くしている。
気の毒に思い、ライナートは身バレを恐れて、ヤンセンに仲裁に入ってもらう。
女性に絡んでいた男達は、今度はヤンセンに標的を変え、一人の男が殴ろとしたところから、戦いが始まり、あっという間に男達は、ヤンセンの足元に転がってのびている。
当たり前だが、ヤンセンは王子を守れるぐらい強いのだ。
武術を本格的に極めようと思うことなどない街のごろつきなど、相手になるはずはなく、人数差があってもすぐに決着はついた。
二人は街中で目立ちたくないため、そのまま立ち去ろうとするが、その女性は、
「ちょっと、行かないで。
ここ、私の店だから、一杯だけでいいから飲んで行って。」
と必死にヤンセンの腕を掴み、引き止めようとする。
普段ならすぐに腕を解き、背を向けるヤンセンだが、その女性がタイプなのか、店に行くかどうかで珍しく悩んでいる。
「いいよ。
一杯だけ、いただこうか?」
ライナートは、ヤンセンの代わりに返事をした。
ヤンセンが自分のためにいつも己を律して生きているのを知っていたので、たまには彼も女性と過ごしたら気分が解れていいかと思ったからだ。
特に最近では、僕が塞ぎ込み、楽しいこともないだろうし。
「そうこなくっちゃ。」
「ありがとうございます。」
二人はすでに、意気投合しているのを見て、ライナートは苦笑する。
いつも自分のために、心を砕いてくれているヤンセンには、僕と違って気に入った女性と幸せになってほしい。
「じゃ、僕は先に。」
ライナートは二人に気を使い、自分だけ先に宿に戻ろうとするが、
「ダメです。
一人で行かれるなら、私も行きます。」
「あんたが、この人に指示を出してくれたんでしょ。
あんたにも、一緒に飲んでほしい。」
二人はここでも息ピッタリで、ライナートは先に帰るのを諦めた。
「では、少しだけ。」
「やったあ。
どうそ、おかけになって。」
その女性は、二人を店の中に入らせ、席に座らせる。
その店は、カウンターにちょっとしたテーブルの小さな造りだった。
「あー、今お客さんいないなぁと思ったでしょ。
ウチはね、隣の店が終わった後、まだ帰りたくない客が寄ってく店なの。
だから、この時間は客は来ないわ。」
「そうですか。」
「お兄さん達はここら辺でお目当ての店とかあるの?
わかった。
隣の店に入りたいけど、入れないタイプでしょ?
図星?
よくいるのよ。
隣の席はお金がかかるから、給金が入った時しかお店に行けなくて、ぼーっと外から眺めてるお客さん。」
「そうなんですか。」
「あーでも、違うわね。
お兄さん達どう見ても、金持ちそうだもの。
わかった。
貴族のお兄さんが夜の蝶を好きになったパターンね。
だから、平民に混じってお店に行けないのよ。
あらかじめ、約束をして呼び出した時しか会えないのが、不満なんでしょう?」
「そう見える?」
「違うの?
うーん、お兄さん達謎だらけだわね。
まぁいいわ。
それが夜の街だから。
ところで、お腹が空いてない?
とっておきのシチューがあるのよ。
私、昨日まで体調を崩していて、心配してくれた友達がシチューを作ってくれたの。
このシチューは特別美味しいのよ。
お兄さん達には世話になったから、お裾分けするわ。」
「いや、僕達はいいよ。」
「どうして?
美味しいんだから、一口だけでいいから。
ね、お願い。」
「なら、一口だけだよ。」
そう言ってヤンセンはシチューを一口食べると、すぐに表情を変え、ライナートの前に置いた。
その時、ヤンセンは何も言わないが、長い付き合いのライナートには、すぐにその意味を理解する。
まさかと思いながら、ライナートがそのシチューを一口食べると、それはオーレリアの手作りの味だった。
その瞬間、ライナートは周りには目を向けず、一心不乱に食べ始める。
ヤンセンはさりげなく、
「このシチューはとても美味しいね。
また、食べたいのだけど。」
と聞いてみる。
「そうでしょ。
これは隣の厨房で働く友達が作っていて、男の人達はこの味と綺麗な女性達を目当てに、隣の店に通うのよ。」
「隣の店は綺麗な女性達と話さないと、このシチューを出してくれないのだろうか?」
「まぁ、そうね。
そう言う店だから。」
「君にお金を払うから、買って来てもらうことはできないかい?」
「うーん、買うのは隣の店の店主が許さないと思う。
でも、作っているのは友達だから、私が食べたいって言えば、また作ってくれるわ。」
「じゃあ悪いが、来週にもう一度シチューを食べれるように頼めないだろうか。
その友達には内緒で。」
「ええ、いいわよ。
あなたは私を助けてくれたから、特別に頼んであげるわ。」
その女性は内緒話をするように、小声で頷いた。
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