あなたが幸せになるために

月山 歩

文字の大きさ
17 / 17

17.彼の幸せ

しおりを挟む
 あれからしばらく時は流れたが、相変わらず、執務と視察はライナートがほとんどやっており、今度は北の視察を終えて、王宮に戻って来た。

 世継ぎが生まれると、より一層ローレンスは子供にかかりきりで王位を継ぐ意欲を見せない。

 だから最近では、王は「一生独身でも構わないから、お前に王位を継いでほしい。」と僕に言い出した。

 ローレンスを見ていると王には、誰しもがなれるわけではないことがわかって来た。
 母がぜひ僕に「王になるように。」と言った理由も。

 きっと母は、ただ自分の子供を王にしたいと権力を振りかざしたのではなく、小さな子供だとしても僕が真面目さ、勤勉さ、責任感など王になるべき資質を見せていたから、王に相応しいと思ったのだろう。

 亡き母と王はそれを共通の意識として掲げ、王は新しい王妃を迎えてもその思いを覆すことは無かった。

 僕が王位継承権をローレンスに譲ると言った時、一番怒っていたのは紛れもなく王、その人だったのだから。

 それも一つの王からの変わらぬ亡き母への愛なのだろう。

 そんなことを考えながら、居室のドアを開けると、シチューの香りがして、僕は急いでテーブルのそばまでやって来ると、そこにはオーレリアがいて、

「温かいうちに食べましょう。」

 と僕を笑顔で迎える。

 僕は夢を見ているかのように嬉しくて、言葉にならず、ただ頷いて崩れるように椅子に腰掛ける。

 すると、いつものようにオーレリアは、僕のグラスにワインを継いでくれる。

 そのずっと欲しかった情景に涙が溢れ、スプーンでひと匙すくい、味わいたいと思っているのに大好きなシチューの味がしない。
 僕の涙が多すぎる。

 そんな僕をオーレリアは静かに見守っている。

「ありがとう。
 来てくれたんだね。」

 相変わらず涙は止まらないけれど、僕はどうしても、感謝が伝えたかった。

「ええ、私もライが好き。
 あなたが幸せになるには、私が必要だとやっとわかったの。

 私はね、最初からライの幸せしか願っていなかった。
 ライを幸せにするために、出て行ったの。

 でも、私がいた方がライが幸せになれるなら、いつまでもあなたのそばにいるわ。」

「うん、僕のそばにいて。
 あの時、ちゃんと君と向き合って、王位を放棄していれば、こんなことにならなかった。
 僕がすべて悪い。」

「そんなことはないわ。
 ライはお母様との約束を守って、立派な王になろうと努力していたんだもの。

 私はそんなライが好きよ。
 そんなライだから好き。
 もうどちらかわからないけれど、私はあなたが期待に答えようと頑張り続ける人だったから、応援したし、変わらず好きなのだと思うの。

 私だって一度離れてみたから、こんなに想いが変わらないものだと知れたし、やってみないとわからなかっただけ。
 ライも私も。

 私はね、ライと離れて、どこにいても、誰といても幸せを感じることはなかった。
 出会えた人達には感謝しているけれど。

 ただどこにいようとも、ライが望むシチューを作ろうって、それだけを思っていたわ。

 私達って不思議ね。
 こんなに離れていても、変わらないなんてお互い随分としつこいわ、ふふ。」

「本当、なんなんだろうね、僕達。
 離れていると苦しくて、反対に一緒にいるだけで、こんなに幸せを感じるだなんて、本当にどうかしている。

 でも、もう二度と何があったとしても離れないって断言できるくらいには成長した。
 リア、僕は君を愛してる。
 その想いは永遠に変わらない。」

 そう言って、ライナートはオーレリアを抱きしめた。

 二人がこうして抱き合うのは、幼い頃以来だろうか。

 不思議ね。
 言葉も出ないくらいに幸せを感じるわ。

 オーレリアはライナートの背中に手を回し、彼の胸に顔を押し当て、幸せを噛み締めた。

 私もずっとこうしたかった…。

 結局二人は、遠回りをして、自分達の想いを再確認しただけだった。
 何故なら、二人にはそれが必要だったから。





 その後、オーレリアは母の勧めもあって、貴族の養子となり、ライナートと結婚した。

 それと同時に、王位継承権もライナートに戻り、オーレリアがいることでライナートは、母が望んだ正しい王になった。

 その後、二人には三人の子供が生まれ、その子もまた賢王と呼ばれて、ロアル王国の安泰の時は続いていく。




              完
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

しまこ
2024.10.13 しまこ

返信ありがとうございます。
そうですね、各々のの気質ですね。
良い旦那さまなのでしょう。
兄弟仲が良いようですし、お母様はよく分かってたのですね。
ドロドロとドアマットヒロインも好きで読みますが、ドロドロなしも安心できるので好きです。
新しい作品も楽しみにしております。

解除
しまこ
2024.10.13 しまこ

素敵なお話しでした。
ずっと二人が想いあっててよかったです。
でも、弟が情けない感じかなぁ。家庭を大事にするのはいいんだろうけど、ちょっと頼りなさすぎでは???
権力争いのドロドロにならなかったから、よかったのかな、あんな弟でも。

2024.10.13 月山 歩

感想ありがとうございます。
人には、それぞれ気質があって、だからこそ、得るものと得ないものがあるって、思っています。
キアーラにとってはいい男かな?
筆者は、ギスギスしていると、書いていても疲れてくるので、ゆるい感じでも、読んでくださって感謝しております。

解除

あなたにおすすめの小説

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】前世の恋人達〜貴方は私を選ばない〜

恋愛
前世の記憶を持つマリア 愛し合い生涯を共にしたロバート 生まれ変わってもお互いを愛すと誓った二人 それなのに貴方が選んだのは彼女だった... ▶︎2話完結◀︎

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。