離れ離れの婚約者は、もう彼の元には戻らない

月山 歩

文字の大きさ
3 / 20

3.私を探す人 ①

しおりを挟む
「ユリウス様、ここを開けてもいいでしょうか?」

 夜中に側近がドアをバンバン叩く音で起こされる。

「いいよ、何?」

 走り込むように部屋に入って来た側近ワトスをメインデルト王国の若き王、ユリウスはぼんやりと見る。

「大変です。
 西国がマイルズ王国に攻め入った模様。
 砦を越えられ、王都に進んでいるとのこと。」

「何故そんなことが?」

「バーンハルト王子とセシーリア王女の結婚にむけた合同訓練をフェルミノ王国側で行うために、手薄になったところを突かれたそうです。
 こうなることは誰も想定しておらず。」

「何てことだ。」

 ユリウスは頭を抱えた。

 この平穏な時代に武力で侵略するとは、誰も想定していないのはその通りで、それぞれの国に軍はあるが、本当の戦闘なんて、ユリウスも起こるはずがないと思っていた。

 軍は国を守るための象徴みたいなもので、実質上、ならず者達を相手にするのがせいぜいだった。

「マイルズ国に加勢に向かう。
 軍を集めよ。」

 こうしてマイルズ王国に入り、セシーリアの母国のフェルミノ国軍のイーサン王子と共に、マイルズ国軍と自国軍で西国を制圧した時にはすでに遅く、マイルズ国王と王妃はすでに亡くなった後であった。

「バーンハルトとセシーリアはどこだ?」

 ユリウスはセシーリアが心配で苛立つ。
 ユリウスとセシーリアとその兄のイーサンは子供の頃からの幼馴染だった。

「ただ今確認したところ、マイルズ王が王宮に攻め入られる直前に二人を逃したそうです。

 制圧した西国軍はバーンハルト王子達を追っていたところだった模様。」

「二人はフェルミノ国へ続く森か?」

「はい、そちらにマイルズ王国の軍がいたため、そちらにむかわれたようです。」

「ではイーサン、この国は君が治めておいてくれ。
 私はバーンハルト達を探す。」

「ああ、わかった。
 セシーリアを頼む。」

 マイルズ王国のことはこのたびの結婚により、義兄弟になる予定のイーサンに任せて、ユリウスはセシーリアをなんとしても探したかった。

 ユリウスは元々セシーリアが好きで、結婚したいと考え、何度もフェルミノ王国へ結婚の打診をしていた。

 しかし、ユリウスの国とは元々親交国なので、結婚は利がないと断られていた。

 だから、彼女との結婚はもう諦めた。

 それでも、彼女に命の危機が迫っていることには、ユリウスは耐えられそうもなかった。

 バーンハルト、何としてもセシーリアを守るんだ。

 そう思いながら、馬を駆る。

 森は広大で身を隠すのは容易だが、同時に迷い易く、遭難者が多発している。

 マイルズ王国からフェルミノ王国へと続く道は基本的には一本道だが、人を避けながら進むと、入り組んだ道を選ぶことが多く、細かな道は鬱蒼とした森の難しさを生み、さらに夜間になると判断を間違え易い。

 しばらくすると、人の騎乗していない馬を見つける。

 愛馬から降り確かめると、マイルズ王国の馬だった。

 もしかしたら、この馬にバーンハルトが乗っていた可能性がある。

 そうなると何らかのトラブルを示唆する。

 二人が馬に乗ってないとするなら、まだ、この森のどこかにいるのか?

 依然セシーリア達は消息不明のまま、二人を探すため、ユリウス達は森の中で、野営することとする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】見えるのは私だけ?〜真実の愛が見えたなら〜

白崎りか
恋愛
「これは政略結婚だ。おまえを愛することはない」 初めて会った婚約者は、膝の上に女をのせていた。 男爵家の者達はみな、彼女が見えていないふりをする。 どうやら、男爵の愛人が幽霊のふりをして、私に嫌がらせをしているようだ。 「なんだ? まさかまた、幽霊がいるなんて言うんじゃないだろうな?」 私は「うそつき令嬢」と呼ばれている。 幼い頃に「幽霊が見える」と王妃に言ってしまったからだ。 婚約者も、愛人も、召使たちも。みんな私のことが気に入らないのね。 いいわ。最後までこの茶番劇に付き合ってあげる。 だって、私には見えるのだから。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~

Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。 さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。 挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。 深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。 彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

あなたの瞳に私を映してほしい ~この願いは我儘ですか?~

四折 柊
恋愛
 シャルロッテは縁あって好意を寄せていた人と婚約することが出来た。彼に好かれたくて距離を縮めようとするが、彼には好きな人がいるようで思うようにいかない。一緒に出席する夜会で彼はいつもその令嬢を目で追っていることに気付く。「私を見て」その思いが叶わずシャルロッテはとうとう婚約の白紙を望んだ。その後、幼馴染と再会して……。(前半はシリアスですが後半は甘めを目指しています)

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

彼に「真実の愛」を問う

四折 柊
恋愛
ブランカは婚約者であるエーリクから一方的に婚約を解消された。理由は「真実の愛を見つけたから」と。その相手はよりによってブランカの異母妹だった。ショックを受けたブランカはエーリクに「真実の愛とはなに?」と問いかける。

処理中です...