離れ離れの婚約者は、もう彼の元には戻らない

月山 歩

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16.君を取り戻す

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「申し上げます。
 セシーリア様が王宮に戻る途中で、賊に襲われ、連れ去られたとのことです。」

 執務室に慌てたワトスが駆け込んで来た。

「何だって?
 お茶会に行くには、充分な数の近衛がついている筈だ。」

 ユリウスの表情は一気に硬いものへと変わる。

「はい、5人もの騎士がついておりました。」

「それでも、連れ去られたと?」

「はい、20人以上の賊で、もはや軍隊のような手練れだったそうです。」

「何てことだ。
 今すぐ軍を集めろ。
 捜索に向かう。」

 ユリウスは先頭になって、軍馬にまたがり、セシーリアが攫われたという場所に急いだ。

 賊は何が目的だ、内乱か?
 身代金目的の誘拐か?

 それとも、セシーリア個人に向けたものか。
 どの場合も最悪だ。

 攫われた場所に行ってみると左右を木々に囲まれた一本道で逃げ場がなく、襲われたとしても人目につかない選び抜かれた道だった。

「これは、通り魔などではなくて、セシーリアを絶対に攫うという強い思いが感じられる。

 しかも、軍隊規模。
 それほどを動かせる人物。」

「この方向に行ったとしたら、またしても、あの森でしょうか?」

「ああ、あの森だな。
 行ってみるしかないな。」

 その道の先は、かつてセシーリアが見つかった鬱蒼とした森のある方角だった。

 捜索隊は、全く手掛かりがない以上、かつて誘拐に使われた場所などをしらみつぶしに、それぞれ少人数で分散して、捜索にあたるしかなかった。




「申し上げます。
 森の手前の村で、怪しい一団を見たと報告がありました。」

「わかった。
 その村に向かおう。」

 なるほど。
 大人数だとセシーリアを確実に攫うことはできても、多さゆえ目立ってしまう。

 この村では、森に行くのに道を通る人は多いが、ほとんど立ち寄る者はいない。

 だから、見知らぬ一団が村の中にいると村の人々の記憶に残ってしまう。

 このことを知らない人物、攫うことだけが目的で知られても一向に構わないと思っている人物。

 他国の者か?
 そして、多くの手慣れた者を集めるためには財力が必要である。 

 それとも、人を動かすカリスマ性があるのか?
 旧西国の残党?

 いや、壊滅させているから、こんな短時間で集めるのは無理がある。

 情報が集まらないと、捜索を絞れずに、どんどん時間が過ぎて行く。

 セシーリアどこにいるんだ?
 頼む。
 無事でいてくれ。




「申し上げます。
 森の入り口の物置小屋に、最近人が出入りしていたが、今日急に一切いなくなったとのことです。」

「よし、その物置小屋に行ってみよう。」

 セシーリアを連れ去った賊と関係あるのか?
 とりあえず行ってみるしかない。

 その小屋について、中を覗くが、人が最近まで使った形跡はあるが、セシーリアに繋がりそうな物は何も見当たらない。




「申し上げます。
 バーンハルト王子率いる一団が、旧マイルズ国の砦に現れ、フェルミノ国の兵士が入国を許可か、足止めかの判断を思いあぐねているうちに、静止を振り切り王都を進み、すでに王宮に入ったそうです。」

「バーンハルトが現れた?
 生きていたのか。」

「現在はフェルミノ国の一部になっているのですが、バーンハルト王子はセシーリア王女を伴いつつ、旧マイルズ国の制服を着た軍隊と共に現れたそうで、王族以外には静止は不可能だったそうです。」

「セシーリアが一緒にいただって?
 すぐに向かう。」

 攫ったのは、バーンハルトだったのだとしたら、何故普通に名乗り出ずに攫うのか?

 正攻法では無理だと思っているからか?
 
 ユリウスは旧マイルズ王国へ急いだ。

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