離れ離れの婚約者は、もう彼の元には戻らない

月山 歩

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19.失った人へのそれぞれの思い

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 バーンハルトは執務を終らせ、寝室へ入る。

 予想以上にあっさりとマイルズ王国とセシーリアを取り戻し、満足していた。 

 セシーリアは以前と違って、従順ではなくなってしまったのが気になるが、その内態度を改めるだろう。

 なにせ、俺達は婚約者なのだから、結婚したらわからせてやる。

 寝る前にもう一度、セシーリアを見ようと部屋に行ってみると、ベッドにいたセシーリアはいなくなり、縄を切った後があった。

「クソッ、あの女、どこに行った?」

 廊下に繋がるドアの前には騎士を配置している。
 だとしたら、考えられるのは、隠し通路か?

 バーンハルトは隠し通路を走って、裏門前へ行く。

 セシーリアに、この隠し通路が知られていたのが仇になった。

 ふと、裏門前の湖に目をやると、手前に手紙とハイヒールがあった。

 急いで手紙を読むと

 ~さようなら、バーンハルト~

 とだけ書いてあった。

 セシーリアはこの湖に飛び込んだのか?
 そんなに俺と結婚したくなかった?

 命を絶つほど?

 逃走用の馬を使った形跡はなく、選択肢は他には考えられなかった。

 せっかく取り戻してやったのに、バカな女だ。

 まぁいい、俺の物に一度取り戻したんだから、奪われたままよりいいさ。

 そう切り替えて、バーンハルトは何食わぬ顔で城へ戻り、セシーリアがメインデルト王国に捕らわれていたため取り戻したが、すでに心が壊れており、自ら湖に飛び込んだと発表して、翌日の結婚式を取りやめた。

 そして、同時にセシーリアを無理やり婚約者にした野蛮なメインデルト王国と、マイルズ王国を勝手に占拠していたフェルミノ王国との国交を取りやめると、一方的に通達した。

 それを聞いたユリウスとフェルミノ王国のイーサンは激怒したが、マイルズ王国に攻め入って、バーンハルトを倒したとしても、セシーリアが戻らないと思うと、復讐するだけになり、士気が湧かなかった。

 一方的な国交断絶も、わざわざ外交したいとも思えないことから、あえてそれを解消しようとせずにそのままにした。




 その後、ユリウスはマイルズ王国に密偵を送り、本当はバーンハルトがセシーリアを隠している可能性はあるか、マイルズ王宮の中を探らせた。

 しかし、かつてセシーリアが使用していた部屋は空になり、地下牢まで探らせても、見つからなかった。

 バーンハルトの周りにもそれらしい女性はおらず、どうやら教会の縁者である新しい令嬢と過ごしているとの噂があり、確認するとセシーリアとは全くの別人だと判明した。

 それを聞いたユリウスの心は、どんどん閉ざされていく。

 言いようのない虚しさが徐々に広がり、何をしても億劫だった。

 ただ、民の為に働くだけの自分に絶望しながらも、かつて自分の国王としての働きを褒めてくれたセシーリアを思い出すと、やめることは出来なかった。

 そうして一週間が過ぎ、もうセシーリアがマイルズ王国にいる可能性はないと判明し、密偵を引きあげた。

 悲しみにくれ、かつてセシーリアと剣の稽古と称して、二人で遊んでいた庭園を眺めてぼうっとしているユリウスを心配したワトスは、ユリウスに休暇を取るように勧める。

 ユリウスは思うのだ。
 セシーリアはいつだって、全力で生きようとしていた。

 だから、王女なのに短剣を欲しがり、一人で生きるすべを知りたがった。

 だとしたら、バーンハルトに連れ戻されたからと言って、本当にセシーリアは自ら命を絶つのだろうか。

 それどころか、僕の好きなセシーリアは生を諦めたりしない女性だと言える。

 もし、生きているとして、向かうとしたらどこだろう?

 セシーリアが生きていると知れたら、マイルズ王国に戻される可能性がある。

 彼女が身を潜めるなら、あの森しかない。

 ユリウスはそう考えに至った。
 直後、いても立ってもいられず、走り出した。

 久しぶりに生きている実感に溢れて。

 しかし、軍馬を駆けてたどり着いたかつての洞窟には、人がいる形跡が全く無かった。

 期待した分、その失望感は計り知れず、ユリウスはしばらく立ち上がることすら出来ずにいた。



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